他の誰にも撮れないパーティー写真:マリー・トマノヴァ interview

ニューヨークの夜をフルスロットルで駆け抜ける『New York New York』。本作の発売を記念して、フォトグラファー本人にインタビュー。

by Ryan White
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16 August 2021, 1:00am

マリー・トマノヴァが生まれたのは、ニューヨークから数千キロ離れた、共産主義体制が終わりを迎える直前のチェコ共和国の小さな町だった。放課後はほとんど家族と農場で作業をして過ごした内気な子どもだったという。マリーの家族は野菜、鶏、ヤギを育て、ブドウからワインを醸造していた。

 しかし、彼女が撮る写真は、田舎で過ごした子ども時代の古風なイメージとはかけ離れている。今やマリーは都会のナイトライフを細部まで捉えるフォトグラファーとして、街を見下ろす屋上で撮影された友人たちの一風変わったポートレート以外はほとんどフラッシュを使わずに、パーティーやクラブの騒乱をいとも容易く生き生きと映し出す。最新作『New York New York』は、そんな彼女の手腕を証明している。

 「ずっと冒険に憧れていて、小さな町で繰り返される日常から逃げ出したかった」とマリーは打ち明ける。「町を出る準備が整うと、すぐにもっと大きな町の大学で絵を学び始めました。アートコミュニティを見つけたおかげで自由にはなれたけど、美大の教授は男性ばかりで、何度もミソジニーに直面しました。卒業すると、絵を描くことは諦めて米国に渡りました」

a woman sits in the bath with wet hair
Kate, 2017


もともと米国での滞在期間は半年を予定していたが、最終的には永住することになった。「チェコの実家に帰ることができたのは、8年後のことでした」とマリー。最初の1年はノースカロライナで過ごし、そこでライアン・マッギンレーの作品に出会う。その後アップステート・ニューヨークに移り住み、週末になると街に出てギャラリーを訪れ、ライアンの作品に不可欠なこの街を見て回った。

引っ越してから何日も経たないうちに、マリーはニューヨーク近代美術館の美術史家、トーマス・ビーチデルに出会う。「彼が教え導いてくれたことは、私の人生とキャリアにおいて、もっとも大きな出来事のひとつ。2012年のグッゲンハイム美術館のフランチェスカ・ウッドマン展に連れて行ってくれたのも彼でした」

 「展示された彼女の作品や日記に圧倒され、その場に立ち尽くしながら、こう思ったんです。なぜ私は一度も写真に挑戦しなかったんだろう、と。すぐにスクール・オブ・ビジュアル・アーツの夜間クラスに登録し、そこから写真にのめり込んでいきました」

a man wearing a headscarf with a face on it and no top drinks from a water fountain
Phineas, 2020


フランチェスカ・ウッドマンの一度見たら忘れられない、1970年代から80年代にかけての白黒写真は、マリーが写真で実験するうえでの基礎となり、そこから自らの芸術性や個人的な帰属意識を探っていった。

「セルフポートレートやアイデンティティに焦点を当て、米国での自分の居場所や、どうすればそこに溶け込めるかを探りました。そのほとんどが、チェコで過ごした子ども時代にも結びついている自然の中でのセルフポートレートでした」

「知らない人を撮影できるくらいの自信を持てるまでには2、3年かかりましたが、写真の本当の美しさに気づいたのは、セルフポートレートから別の誰かのポートレートに移行したあとでした。私にとって、写真は人びとと出会い、つながり、友達をつくる手段になったんです」

その友情は、彼女の作品にもよく表れている。ライアン・マッギンレー本人が序文を寄せた、2019年出版のマリーの写真集『Young American』は、彼女の最新作と同じようなエネルギーに満ちている。本作『New York New York』は、多くの点で『Young American』の延長線上にあるようにも感じられるが、「いくつか重要な違いがある」とマリーは指摘する。

前作は「人間のつながりや、私自身と他の人の共感を強調し、際立たせるために」クローズアップで撮影されたいっぽうで、キム・ゴードンが序文を寄せた『New York New York』は、全体的に離れた場所から撮影されている。これはマリーを取り巻く状況や環境、そして彼女自身の変化を象徴している。

 「最初は自然の中でのセルフポートレートを通して、その次に自分の社会的な所属を実感できたおかげで、今は昔ほど自分の居場所を見つけようと必死になることはありません。『New York New York』には、いろんな場所での体験や挑戦を通して得た安心感が反映されています。今では、ここが自分の居場所です」トーマスの言葉を引用すれば、「マリー・トマノヴァの『New York New York』は、人と環境とを結びつける、青春の風景写真であり、場所のポートレートだ」。

マリー・トマノヴァの『New York New York』は、ヨーロッパでは2021年7月、米国とアジアでは2021年9月に発売。サイン会はニューヨークのDashwood Booksにて9月29日に開催予定。

two women lie on a sofa holding hands
King Princess and Quinn, 2020
a woman with dyed red hair in pigtails and a safety pin through their lip
Gracie, 2020
a man with a fur hat and tattoos holds his middle fingers up
Rico, 2019
a woman with dyed white hair
Lynn, 2019
two topless men lie in a bed together
Phineas and Cameron, 2019
a young man with messy hair sat in a park
Ari, 2020
two men walks with their arms over each other on a new york street
Harley and Poster Boy, 2019
a topless man and a woman kiss
Shane and Luisa, 2021
a topless man with curly hair sits on a chair
John, 2020
a man with an afro and a cross neckace
Chiki, 2020
a woman pulling up her shirt on a rooftop

Credits


All images courtesy Marie Tomanova

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