Photography Shiori Ikeno

ループする世界で足を止める: GEZANのフロントマン、マヒトゥ・ザ・ピーポー interview

オルタナティブを再定義することで見えてくる。いま一番大切にしたいことをマヒトゥ・ザ・ピーポーが語る。

by Saki yamada; photos by Shiori Ikeno
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27 January 2020, 11:13am

Photography Shiori Ikeno

「100が0になったり、0が100になったり、そうならないものは無力だと思わないほうがいいと思ってる。絵としてはすごくキレイだけど、劇的な変化や革命って、やっぱり嘘だから」。マヒトゥ・ザ・ピーポー(以下、マヒト)が話すように、「新しい時代」と謳われる2020年代に突入したもののネット上では世界での悲惨なニュースでもちきりで、「新たなる門出」という束の間の幻想から目覚めざるを得なくなった。

2019年のGEZANの活動を取り上げたら、その履歴だけでページが埋まってしまうほど濃度の高いものだったが、特に印象に残っているのは10月に開催されたGEZAN主催の音楽フェス「全感覚祭」の東京公演。日本全域に多くの被害をもたらした台風19号と開催日が重なり、中止が嘆かれたそのフェスで ── 台風が過ぎ去った祝日に渋谷で開催し大成功を納めたのだが ── 命を繋ぐということを考えさせられた人も多いはず。そんな当たり前なことを乱雑に扱うことはせずに汲み取る、それこそがマヒトの伝えたいメッセージで、彼が模索しているオルタナティヴの形だ。

1月29日に発売されるアルバム『狂(KLUE)』の話をするに辺り、彼が何度も口にした「ループ」という言葉。すべてが影響し合って回り続けるこの世界で何を大切にすればいいのか、いつまでたっても気分が晴れない現実を生き抜けることができるのか、マヒトが最近考えていることをシェアしてくれた。

i-D Japan

「ひとつの価値観を断定するのではなく」

── 5thアルバム『狂(KLUE)』において、「ループ」という表現を用いているのはなぜでしょうか?

物事って解決しているようで「過去」「未来」「現在」が侵食し合った結果の景色でできてる。それを考えたとき、曲ごとに答えを出してひとつの価値観を固めていくより、永遠に繋がってる感覚がしっくりきたって感じかな。良いことや悪いことのすべてがダラっと繋がってる。アルバムで歌っている内容も辛辣だったりポジティブだったりするけど、それらが曖昧に溶け合っているのが自分自身で、「私はこういう人間、あなたはこういう人間」っていう状態には無理があると思う。

── 何かを断定的に説明することが難しい、と。

寝る前に最悪の世界だなって思ってたけど朝起きたらすごく気持ち良いみたいに真逆のことを思うって全然あるし、見る角度や立場によって正しさって変わってくる。このアルバムのイメージもそうで、1つの価値観を断定するよりも流動的で曖昧に混ざり合ってずっと続いてる方がしっくりくる。

── そういう ”ループ” の状態から抜け出したいと思うことはありますか?

抜けられないでしょ。生きてるからね。この場所から離れれば抜けたような気持ちになるかもしれないけど、同じようここにいる。ひとつ席が空いたら誰かがそこに座るだけだし、俺も空いてる席に座ってるだけ、それだけのこと。そうだとしたら、自分自身がその流れの中でちゃんと存在するしかないって思う。

── 歌詞の話をすると、例えば一曲目の「狂」の“ていねいな暮らしの代償には火薬の匂い”にはどういった意味が含まれていますか?

ひと昔前に、家では丁寧に生活しながらノンポリでいる方がかっこいいっていうムーブメントがあった。自分が音楽を始めたとき前の世代にあった感覚で、その時代に曖昧にされてきたことの結果がいまの政治の状況を作ってる。タイムリーに戦争が始まるかもしれないっていう空気感があるけど、日本も何らかの形で参加するかもしれない。ここでピストルの撃ち合いにならなくても。そういうものの比喩として街から火薬の匂いがしてるって表現してる。

── そういったメッセージが歌詞のいたるところに含まれているんですね。

そう。完全に代償だと思うな。政治を生活と切り離すことを美徳だとしてきた人たちが、そうしている間に政治家に好き勝手やられたのが現在(いま)だから。政治みたいなものって遠い話じゃなくて生活の中に景色として組み込まれてると思うし、ポリティックなことに興味ある人たち、そうじゃない人たちっていうジャンルみたいに分けられない状況だと思う

── そういった思わしくない現状が続くループの中で戦うのもなかなか大変だと思います。

そこまで悪い世の中だとも思ってなくてポジティブさもある。希望がないと活動できないから。こういうときにこそオルタナティブな音楽やアートが輝くと思う。これからいろいろな活動をするミュージシャンやアーティストが出てくると思うけど、期待でしかない。これだけ状況が壊れているんだから、面白くなるしかないじゃん。

「足を止めるための場所作りを」

── オルタナティブと言えば、昔は新しいジャンルのことを指していましたが。

自分が音楽をやるときや行動するときにオルタナティブってことを意識してて、昔だったら聞いたことのないリズムを表現することだと思っていたけど、その意味も変わってきていると思う。周りがものすごい速度で変化していく中で、一旦足を止めて当たり前なことを考え直す方がオルタナティブに思える。全感覚祭では投げ銭形式で提供したフードフリーも「無料」って意味じゃなくて、その場所にご飯が届くプロセスを一人一人に想像してほしいって想いを込めてた。今、目の前にあるカフェのコーヒーも魔法でパッと生まれてきたわけじゃなくて一杯作るためにコーヒー豆や水が使われていて、そういった新鮮な水を求めて争いが起きてる地域も世界にはあったりする。

── 水戦争といった?

資本主義を加速させるために間のプロセスが見えないようになっているけど、そこには台風に怯えながら一年かけて野菜を作る農家さんがいて、そういう当たり前に出てくるものが当たり前じゃないっていうプロセスを想像するってことが自分にとって重要。特に真新しい価値観を提供したとは思ってない。ただ、足を止められる場所を作ることの方がよっぽどオルタナティブだよね。

── 東京のようにせわしない都市部では、余計に立ち止まることが難しく感じます。

ここが癌の中心みたいな感じでしょ。離れて景色のいいところに行って自分の大切にしたい価値観だけをシェアするヒッピー的な発想も正しいんだろうけど、解決にはならない。特に東京では正しいか判断する時間もないまま、あらゆることがどんどん日常になっていく。政治だけでなく経済の話もあるから判断が難しいんだけど、自分も勝手に運ばれてるって状況に自覚的でいないと本当にまずい。

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「人間という集団を解体して孤独でいること」

── 自分で物事を判断するとき、どういうプロセスが多いですか?

違和感やノイズを感じたらそれが何かを考えることの方が重要かも。「皮膚感覚でそう思う」っていうのは意外と外部からの影響を受けてる。それに気付くのって相当難しいんだけど、だからこそ信用し過ぎないようにすることにしてる。

── 実際に自分で足を止めて考えて、見えてきたものはありますか?

具体的な話をすると全感覚祭での「フードフリー」というアイデア。実際に米農園に行ったことで、お米を食べたときに農家さんの顔が浮かぶようになったし、お米ができるまでのプロセスを見ることによって、「食べる」という行為の意味も変わった。食べる内容が変わらなかったとしても、そういうやり方で世の中を豊かにしていくことはできるはず。

── 出会いの中で一人一人の生活を大切にする。

お互いの顔が見えるようにする状況は変えていける部分だと思う。全感覚祭に関わってくれた農家さんも食べてる人の表情を見れたことがすごく新鮮だったみたい。でも別に画期的なアイデアでも何でもない。、それが新しいと思えてしまうくらい今世の中では、色々なプロセスが見えなくなってる。(*農業の現状をマヒトがシェアしたコラムもチェック)

── インターネットもプロセスが見えにくいという面があると。

答えみたいなものがインターネット上にはものたくさん落ちててさ、ちょっと調べれば今悩んでいることの概念みたいなアンサーが自分で体験しなくても用意されてる。自分はアナログとデジタルの両方を経由してるから、インターネットの「冷たさ」を感じることがあるんだけど、シンプルにキレイな景色を見て感動できる自分をケアしていかないと、そういう「冷たさ」に影響されてしまう。SNS上でもとにかく怒りに身を任せてしまっている人が結構いるけど、憎しみを原動力に変えるのは簡単だし、そういうのは寂しいと思う。

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── マヒトさんはどんな風に変わっていきたいですか?

優しくなりたいね。思いやりのなさすぎることが起きすぎて、暴力みたいなものが蔓延してる感じがすごいする。

── 誰にでも優しく丁寧にコミュニケーションを取るって、友達同士ならあると思うんですが、少なくなった気がします。

全感覚祭にはまさにそういうテーマもあった。友達同士で鍋するときは何となく持ち寄ったり「後から来たから1000円でいいよ」って言えるんだけど、それが大衆にすり変わった瞬間から自分で思考することが難しくなる。全感覚祭はそれをどのキャパシティでもできるんじゃないかって挑戦。「フードフリー」にしたことで全体の予算が2000万円になったけど、2000万円集まったから結果OK。そういう当たり前のことがもっとできるようになったら優しいとは思うけどな。

── そういう状況を作り出すためには、一人一人の心の平和も必要なんだろうなって思います。

そう。情勢が悪かったらこんなこと言ってられないし、誰だって悪魔にでも天使にでもなれると思ってる。だけど今、世の中の環境で個々の悪魔みたい面が自動的に引き出されてる気がしてて、それに気付かないで演じてしまってる人が多いと思う。。これからの話って全部、一人一人がそれに気付いた先にあるんじゃないかな。

── 「立ち止まって考える」ということは心の平穏を保つのにも必要な要素ですね。

全部に通じているのは、人間っていうものを解体して孤独でいるってところ。集団に運ばれてるときって疲れないから楽だけど、ひとりぼっちになることは自分が周りのことを考えられる状態だと思う。みんなで掛け合わせてる間は思いやりなんて成立しない。

── みんなで掛け合わせる、とは?

みんなとの議論の交わし方は全部概念の話で収まると思ってる。学者さんや研究者さんが色々な考えを掛け合わせたものだから。それにも意味はあるのかもしれないけど、自分はもっと個人的な血の通ったものに興味があるから、いかにみんなってものを解体するかって気持ちは全部の活動にあるかもしれない。

── 1人で過ごす時間は多いですか?

自分が言ってる「ひとりぼっち」はちょっと違って…。寺尾紗穂ってシンガーさんが『君は私の友達』っていう曲の中で“ひとりぼっちでみんなといる”って歌ってるんだけど、その言葉がすごいしっくりきてる。多分、寺尾さんと自分が言う孤独の感覚は近い。ひとりぼっちって本当に1人でいるときだけじゃなくて、誰かと一緒にいてもひとりぼっちになれる。多分、“ちゃんと自分でいられること”なんだと思う。

── その“ひとりぼっち”が先に進むためのキーになる。

自分が欲しいのは新しい世界とかじゃなくて、個人が「みんな」って言葉に惑わされずに自分の意識で尊厳を持って存在できること。どういう言葉が適してるかと言うと…「本当の世界」、かな。「ネオ」とか「ニュー」って言葉は一番嘘が多い。あいつらと違うって言葉が、一番手っ取り早い。

〈GEZAN出演情報〉
SUPER DOMMUNE OPENING BASH DAY5
GEZAN new album「狂(KLUE) 」 Release Party「Mutant Church」
日付:2020/01/29(水)
時間:20:00〜24:00
LIVE:GEZAN × 横須賀功光 × 内田直之
DJ:COMPUMA、MARS89、JUN TAKAHASHI(UNDERCOVER)
配信先URL:https://www.dommune.com/
https://www.dommune.com/stream

GEZAN 5th Album『狂(KLUE)』

Track list
01.狂
02.EXTACY
03.replicant
04.Human Rebellion
05.AGEHA
06. Soul Material
07. 訓告
08.Tired Of Love
09.赤曜日
10. Free Refugees
11. 東京
12.Playground
13.I

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2020年1月29日発売 ¥2,500(税別)
GEZAN
http://gezan.net/

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