Photography Ameya.

「まがい物が増え過ぎている」NUGAが語る愛と降伏の意義

今年の2月20日、渋谷の〈コンタクト〉で行なわれた一夜限りのナイトエクスペリエンス 〈EDEN〉。約600人もを動員したその企画から演出すべてを手掛けたパフォーマー兼デザイナーのNUGAにインタビュー。イベントに込めた想い、そこから見えてきた愛と降伏の新たな意義を語る。

by MAKOTO KIKUCHI; photos by Ameya
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26 May 2020, 3:00am

Photography Ameya.

2020年2月20日、まだ東京が正常に大都市としての機能を果たしていたあの頃、渋谷のナイトクラブ〈コンタクト〉では一夜限りの「楽園」が誕生していた。文字通り〈EDEN〉と名付けられたそのイベントを主催したのは、パフォーマー兼デザイナーのNUGA(Daisuke Fujiwara)。自身のカルト的ファッションブランド〈GLAMHATE〉として「最初で最後」と銘打たれたショー「SURRENDER」とアフターパーティー「ECSTASY」の二部構成で行なわれた。開催の10日前から渋谷にある九つの大型ビジョンにはイベントのティザームービーが流れ、「この夜に、得体の知れない何かがきっと起こる」そんな予感を掻き立てられた人で当日の会場は埋め尽くされていた。

フォトグラファーの雨夜からi-D編集部にこの夜の写真が送られてきたのは、イベントから二ヶ月後のことだった。「イベントの9時間前に突然ダイスケ(NUGA)から連絡があったの。直前だったから、行くかどうかちょっと迷ってたんだけど、『人生で見たなかでいちばんのショーになるって保証する』って彼に言われて」と、雨夜はその日のことを振り返る。「実際、彼の言う通りだった」

現在NUGAはイギリス・ロンドンに身を置き、世界が音を立てて崩れていくようなこのパンデミックを静かに見つめている。そんな彼にi-Dはビデオコールを通じてインタビューを敢行。あの夜、確かに存在していた「楽園」にはいったいどんな想い込められていたのか、その心境を探った。

「去年の11月、コレクションの撮影やイベントが本格化し始めてからショーの実現を心に決めました。春からのロンドン移住にあたり、環境を変える前にやり尽くして自分をゼロの状態にしたかったのもあります」。〈EDEN〉の開催にあたって、衣裳制作はもちろん、イベントのプロモーションから、演出や出資にいたるまでの全てをNUGA自らが手掛けている。会場を確保し計画が動き出した12月からたった3ヶ月ひとりであれだけのものを作り上げる労力と彼の熱量には、素直に脱帽せざるを得ない。「服を作り出した中学生の頃から思い描いてきたことだし、絶対的に信頼できる自分の美学が成立していたので迷いがなかった。実際、このイベントが終わった次の日に『死んでいいや』というか、『ああもう死んじゃうんだろうな』って感覚がありました。完全にすべてやり切る覚悟があったんです」

イベント前半に行なわれたショー〈SURRENDER〉では、「シアター」的プレゼンテーションが随所に散りばめられていた。「そもそも劇は自分がいちばん好きなもの。それはもう全ジャンルの芸術においてそうで。〈デヴィッ ド・ボウイ〉がシアトリカル(theatrical:演劇的)というテーマで広く表現をしていたことにも影響されています」。実際、昨年4月に発売された『i-D JAPAN No.7』で筆者がNUGAに取材した際も、彼は「降伏・芝居・慈愛」が自分を構成する三つの要素だと語っている。

「芝居」に真実を見いだそうとする彼の姿勢は、クリエイションの側面だけにとどまらない。「シアターを生きている人がすごく好き。自分のリアルを伝える手段が身の上話や等身大の現実ばかりの人よりも、自分のキャラを生きていて、そこからリアルを感じさせたりもする『演じる』人が好きなんです。だからこれまでも、自分がショーをしたりGLAMHATEのコレクションを作るときは、ストーリー性を常に意識していました。

ただのカッコいいファッションショーやルックって、私としては正直意味があんまり分からなくって。ただの灰色をバックにモデルが立ってるだけなら、通販サイトがやればいい。服や着用者を良く見せるのは各消費者がやればいい。ブランド側が出すものには意思を孕んだ 『ストーリー』がないと意味がない。こんなふうに思っている人間からしたら、シアターショーというのは他のなにかに落とし込むより、いちばん純度を保った上で伝え易くもあったんです」

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今回のショーのタイトル「SURRENDER」という言葉については「全体のバイブスに過ぎない」と彼は語る。「テーマをどこに置くかっていうのはすごく難しいけれど、作った人の感情がテーマだと言うなら、テーマは『降伏(surrender)』。第三者的目線で見たときに主題は何かと聞かれたら、『人間そのもの』ということになります。なにが世の中でいちばん美しいかと言われたら人間ほど美しく醜いものはない。その美しさはむき出し状態になった時はじめて完成される、だからこの夜のサブタイトルは『HUMAN EXPOSURE』。楽園なんだし我々はむき出しになるから貴方もむき出しちゃえば? って感じ」

「単純なストーリーで説明するなら」と前置きをしながら、今回のショーを 「人間が生まれて死んで転生するという魂のストーリー。人生ってよりも魂生みたいな」と NUGAは解説する。ショーの始めに映し出される映像では、精子と卵子が出会う様子が描かれ、その後女神に扮したお腹の大きなパフォーマーが登場する。「あのアーティストも本当に妊婦さんで、もう赤ちゃんが生まれてるんです。ショーのときが臨月手前くらいでした」

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その後も学生服と思しき衣裳に身を包んだラッパーのThirteen13が「馴れ合いフレンズ」を引き連れて登場したり、 セックスショーがあったりと、人間の様々な活動が極めて直接的に表現されている。「分かり易さは私の意思としても仕掛けとしても絶対必要。分かりにくさを盾にして『なんとなくかっこいいでしょ』みたいなものが多すぎる。じゃあこれはなんでかっこいいのとか、なんでこれは『愛』でなんでこれは『悪』なのとか、はっきりした明確なものが見えづらくなりすぎている現世だからこそ、馬鹿でも、全く興味のない人でも、なんとなく偶然見ちゃった人にもある程度わからせるコミュニケーション能力がアートの中にはないといけない」

「人間をむき出すことにおいて、セックスは不可欠。最初にショーのコンテンツを考えたときにセックスショーはマスト中のマストでした」。ショーに盛り込まれた極めて性的なパフォーマンスについて言及しながら、彼はこう続けた。「私はセックスのなかに、愛の意義、降伏の意義を見い出しています。社会的体裁や自分の化粧や衣服、いろんなものを脱ぎ捨てられる場所が愛なのかなって。身につけている鎧を脱ぐ、その降伏行為こそ人間には必要なのではないかと。サレンダーというSM用語でもあるこの言葉には愛が含まれているんです」

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「ライブやファッションショーって見ている側が絶対に鎧を身につけているんですよね。 『このアーティストはこうだ、俺はこうだ』っていう装備をした状態で会場にやってくる。 だからこちらから観客達の鎧を剥ぎにいくために、あれぐらいのショック療法も必要でした」。ではなぜ、彼はそこまでして観客に自ら働きかける必要があったのだろうか?「今、見る側のクオリティは異常なまでに下がっています。正直作り手はそこまで腐っていない。受け手のクオリティが圧倒的に低く、それにかまけている作り手が多いっていう最悪な状況。SNSの過剰な発達もあって誰のものか分からないような鎧で身を固めている。だから『ここまでむき出しでいいんだ』と見る側に気付かせる必要があったんです。実際、セックスショーが始まった瞬間に、会場の空気がいきなり『ツン』とした感覚がありました」

『Z世代の諸君達、ぼくちんも含めて、みんな迷走してるわけじゃん? なんか大人に舐められるのうぜえしさあ、ぶっ殺してえじゃん、普通に。全員ぶっ殺してえじゃん。別に言いたいこととか、ない。見て』ショー後半、NUGA本人がステージに登場し首元にナイフを突きつけ「死」を迎えたあと、フィナーレを飾った少年〈VIRAL BOY〉は、そう語り掛けた。まだあどけなさの残る声に妙に惹き付けられる。「最後にパフォーマンスをした彼は、渋谷センター街でナンパして気付いたら一年くらい我が家に住んでいた奴で、今回のいちばんのインスピレーション源と言っても過言ではない。だからショーの最後に彼をもってくるっていうのは最初から決めていました」

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不安や畏れも感じさせる面持ちでステージに登場した少年に向かって、「ビビってんじゃねえよ」という野次も飛んだ。声の主はおそらくその少年の友人たちだ。同時に涙を流したり名前を叫んだり、若者たちが様々な感情を爆発させていた。NUGAはそのことについて、「あれこそショーのマスターピース」と話す。「このショーをとにかく見て欲しかったのがああいう子達。正直今回のショーをある程度成熟した大人が見たところで、なにも意味がないんです。コレクションを通じて2000年以降生まれのZ世代を意識していました。11時までのショーだからどうにか未成年も入れてくれというのが会場への唯一の条件で、料金も安くしました。人間のピュアな部分を見せようとこっちが必死にやっているなかで、観客にもフラットになれる能力がないと意味が無い。実際、当日こちらのテンションというか、伝えたいことにちゃんと心動かされてたのは、みんな若い子でした」

少年はステージ上で語り叫び歌い、縄で身体を縛られると、『どけよ!』と声をあげて観客のなかを掻き分け、ステージ反対にあるロープが張り巡らせられた四角いケージのような物体へ飛び込んだ。いつかの学校行事で歌った合唱曲「翼をください」が会場に流れ、ケージは少年を包んだまま天井へと上がっていく。「あの吊るされた箱が何を意味するかはひとそれぞれだけど、なにかの境地に向かって飛んで行くために『翼が欲しい』とか、自分をむき出しにして主張する自由は彼から感じた圧倒的な美だった。あのフィナーレさえ見てくれたら、このショーの意思がわかると言っても過言ではない。あれこそが降伏で、あれこそが愛だった」

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NUGAはこのイベントに際して記したステートメントで「崩壊が香る東京2020」と述べている。「人類が精度をあげていくにつれて、自分のなかの感覚、感情、意識っていうのがどんどん薄れてる実感がありました。『オリンピック』や『令和』という浮き足立ったトピックが並ぶなかで、人類や社会が自らにパワーがあると過信しすぎて、それが激しくなっている。自分たちのいるファッションやアートのシーンにしても、まがい物が増え過ぎている。 今はインスタグラムを見れば正解が転がっている時代。どんなことをすれば注目されて、『かっこいい』って言われるかっていう答えがもうあるんです。正解の導き方みたいなものがある程度発明されてて、人類はすでにそれを一周している。今は誰かが全部書き込んだテキストブックを二人目が解いている状態。解法はもう書いてある、答えも書いてある。それってもう崩壊でしかない」

「あの楽園を終えたあとに本当に禁断の果実を口にした気持ちになったんです」とNUGAは言葉を続けた。「一気にフィルターが取れて、今まで見てきたまがい物たちがどうしようもなくショボく見えるような。ライブやファッションとか、すごいと思わされてきた大人達が 作った多くのものに対して純粋な命懸けのクリエイションではないと気付きました。『えっ、それで死ぬ気?』と聞きたくなってしまう。同時に、自分で何かをつくることに対しても絶望が生まれるようになってしまった。それはある意味で旧約聖書のエデンでもあったような社会的な追放で、ここまで自分と向き合い戦ったことへの当然の報いだと思うんです」

「この夜を終えて伝わったらいいなと思ったのは、私でもどうにかしてこれぐらいまでできるっていうこと。たとえば超有名ブランドとかアーティスト、オーガナイザーがやったところでパワーの乱用や次なる何かに向けたいちステップに見えてしまう。でも私は別に超成功してないし、なんならお金も、すごいコネクションもあるわけではない。規模の話じゃなくて、それがどんなに小さいことでも、ひとりの人間が自分を信じ切ってやりたい放題やれば、これぐらいの幸福感、エクスタシーを感じられるんだぞと。使命を果たしている、生きてて良かったと思えるんだって」。インタビューの最後をNUGAはこう締めくくった。「神様は禁断の果実を食べちゃダメって言うけど、食べたかったら食べてもいい。そういう『赦し』を受け取ってもらえたら嬉しいです」

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Credits


Photography Ameya
Text Makoto Kikuchi

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