日本で妻と暮らすトランス女性の家族を取材した『私達の家族』 監督インタビュー

日本で女性の配偶者と婚姻関係にあるトランスジェンダー女性の家族を取材したドキュメンタリー『私達の家族』。本作で監督を務めた雨夜に、i-Dはインタビューを敢行。23歳の若手映像作家が語る、この家族を取材する意義とは。

by MAKOTO KIKUCHI
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05 March 2021, 8:58am

マクレディー・エリンとマクレディー・緑は結婚して20年。東京で暮らし、三人の子供もいる。2018年に母国アメリカで性転換を行なったエリンは、その後日本での戸籍上の性別を変更する手続きを取ることになったが、同性婚を認めていない日本はその承認を拒否した。そのため彼女は今も日本での性別変更ができないまま、妻の緑と家族として生活している——。

先日、東京を拠点に活動する映像コレクディブ〈ikix studio(イキックススタジオ)〉がキックオフ・プロジェクトとして先行配信したドキュメンタリー映像『私達の家族』は、東京に住むとあるー家が、家族の性転換に向き合う姿を記録した作品だ。メガホンを取ったのは、東京を拠点に活動する23歳の映像作家、雨夜。彼女が、エリン・マクレディと知り合ったのは2019年。青山学院大学に通う友人から、同大学教授であるエリンについての話を聞いたことがきっかけだったと言う。当時Buzzfeedで働いていた雨夜はすぐに社内でこの家族に取材する企画を持ち込み、彼女達に関する記事がリリースされた。「でもこれだけじゃ足りないって思った」と雨夜は言う。「マクレディー家の子供達は、上の子だと私の年齢とそんなに変わらないの。だから自分の親がもし性転換をカミングアウトしたら、って考えた。この家族の話は、2D(平面)で捉えられるものじゃない。もっと多面的でないとって思ったんだ」

メジャーな報道媒体のプラットフォームではなくあくまでインディペンデントに作品を配信したことについて、彼女はこう話す。「大きなメディアのレンズを通すと、そのメディアのブランド力やイメージに合わせて作品を作らなくてはならなくなる。そうやって媒体のイメージに合わせて物語を伝えると、事実を伝えにくくなってしまうのかもしれないと思ったんだ。」2月21日に行なわれた本作のオンライン上映では、75人がチケットを購入し、約10万円の売り上げとなった。収益の50%はマクレディ婦婦の裁判費用に、その他は動画の制作に関わったクリエイター達の報酬や、マクレディー家の今後を再び取材するときの予算に充てられるそうだ。「なにより、映像に出演しているマクレディー家の子供達のことを守りたかったんだ。規模が小さいぶん、動画に寄せられたコメントも全部チェックできるし。大きなプラットフォームで配信するとなると、家族を守れないんじゃないかっていう不安もあった」

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作品のなかでは、人種差別に関する質問も投げかけられる。「同性婚」というテーマからは、一見すると離れているように見える人種差別の問題を取り扱うことは、外国籍を持つ両親のもと東京で生まれた雨夜にとって、ごく自然なことだった。「この家族を取材して、ひとりひとりにアイデンティティがあるんだって思って、それを描きたかった」と雨夜は語る。作中、次男のコーリンが「性差別や人種差別といった差別を経験したことがあるか」というインタビュワーの問いに黙り込んでしまう場面がある。「彼はまだ16歳で自分のなかで考えをまとめている段階。私の経験からしても、その時期はまだ何が起こってるか言語化できなくて当然だと思ったから、答えなくてもいいって言った。彼が辛そうだったからそこでカットしてカメラを止めたんだ」

「最近思ったんだけど、フィルムメーカーとか、ドキュメンタリーの映像監督とか、人の話を伝えるのって、医療と似ているんだよね。お医者さんは治療や手術で命を扱っているけど、私達は映像で命を扱っている。だから映像を撮るときには、人の命を大切にしたい。」雨夜がそう話すのを聞いていて、昨年自ら命を絶ったあのリアリティ番組の出演者のことを思い出した。取材対象者に敬意を示しながら、純粋に自らの視点で物語を伝えようとする雨夜のものづくりにおける基本姿勢は、当たり前のように聞こえるかもしれないけれど、メディア業界で度々ないがしろにされがちなものでもある。現在メディア業界に関わる人々が、彼女から学ぶべきものは大きい。

「21歳でこの作品の企画をしていたときには思ってなかったことなんだけど」と前置きしながら、雨夜は続けた。「23歳で大学も卒業して社会人になってさ、『この話を撮るのはほんとに私でいいのかな』って迷った時期があったの。私よりも年上の監督は日本にいっぱいいるじゃん。もっと経験があったり、確固たるスタイルがあったり。でも誰もこういう話をドキュメンタリーにして撮ろうとしないから、なにもやらないより、なにかやったほうがいいんじゃないって思った」

このドキュメンタリーは今後もYouTubeで複数回にわたり上映する予定だ。またマクレディー婦婦の裁判費用などに関する寄付はこちらのリンクで受付中。

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