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フランキー・ウェイドが描く「ユートピア」

言葉に命を吹き込むアーティスト、フランキー・ウェイドが描く、未来の完璧な過去「Utopia」。ミュージックビデオに込めた想い、尊敬するアーティスト、お金との付き合い方についてウェイドに訊いた。

by Hattie Collins
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12 December 2016, 10:21am

Aaron Reid

ミルトン・ケインズ生まれのフランキー・ウェイド(Frankie Wade)だが、現在はロンドンの南東部に位置するデプトフォードで創作活動を行っている。現在27歳――ウェイドは、俳優、モデル、そしてミュージシャンとして活動を続けながら、日々を生き抜いている。最新トラック「Utopia」は、そんな彼の「経済的安定よりもクリエイティブな面での充足感が大切」という思想を余すところなく表現している。ウェイドの1stリリースを記念して、ここでフランキーと彼の先進的で未来的なビデオ「Utopia」について、知っておくべき10のことを紹介する。

1.ウェイドのデビュー作「Utopia」は、i-Dで世界初公開となる。
Maschine Man TimとRvphによってプロデュースされたこの「Utopia」で、ウェイドは世界デビューを果たす。「『Utopia』のアイデアは、僕と最高の相棒サム・カーダー(Sam Carder)のふたりで思いついたもの。サムはWonderlandでファッション・エディターをしていて、通りの向かいに住んでるから、しょっちゅうディープな話をしたりしてるんだ。世界情勢や僕らの住む社会、生きる意味なんかについてね。みんなが普通に友達と話すような内容だよ(笑)」とフランキーは話す。「世の中、不幸ばかり――テレビや新聞に見る世界は、予算削減によって職を失うたくさんの人々、ユースのためのセンター閉鎖、公的資金削減といったニュースに溢れてた。若いっていうこと、大人になるっていうことは、大変だよ。何が正しいのか、何をすべきなのか、たくさんのプレッシャーを感じながら生きるということだから――大学に行くために多額の借金を抱え、その借金を返すために就職するんだからね。僕が大学に行こうと決めたとき、『あなたにとって充足感を与えてくれるものって何?』とか『大学に行って、情熱を持てる何かを見つけて学んでおいで』なんて、一度たりとも周りの人は言ってくれなかった。むしろ『誰よりも稼ぐために、これを学べ』と言われたよ。卒業したらどんな仕事に就くことができて、どこで働けばより給料がいいか、そのためにはどんな単位が必要なのか、そんな事ばかり調べていた。16-17歳の頃は、お金を稼ぐことしか頭になかったし、周りもそういう人間ばかりだったから、それ以外の価値観なんて想像すらできなかった。今ではそれが間違った価値観だったって思う。そして、金や富への固執こそがこの世界の腐敗の根源なんだって思う。だから、「Utopia」では金じゃないものを大切にする世界を描いてるんだ。魂の声を聞き、自分自身の情熱に従うことが大切なんだよ。インドの思想家バグワン・シュリ・ラジニーシはこう言ってるんだ――『クリエイティビティこそは、社会に対する反抗の最大の武器だ』って。これまで彼の著作をたくさん読んできて、大きな影響を受けた。僕が書くものの中に、それを感じることができるはずだよ。世の中には、ユースに向けて『金こそすべて』と説くメッセージに溢れてる。もっと大切なことがたくさんあるんだ。だから、『情熱もまた大切。だから目を覚まして、恐れずに情熱を傾けろ』というメッセージを伝えたいと思ったんだ」

2.「Utopia」の中でウェイドが特に気に入っている歌詞は「芸術作品を生み出すためにピカソになる必要なんてないんだ。自分自身が満足すること、それは誰にも抑えられない」
「情熱に従え」というメッセージだけど……勘違いされなければいいな。僕は「仕事なんか辞めてアーティストになれ」なんて夢想家みたいなことを言ってるんじゃないんだ。「もしどうしても絵を描くことが好きだったら、たとえそれが自分自身のためだけに描く絵だったとしても、描くべきだ」という意味で言っているんだ。魂の声を聞いて、その声に従って何かを創造することには、何にも代えられない喜びが伴うものなんだ。創造への衝動は誰にも奪えないし、どんな権力もそれを罰したり制限したりなんかできない。クリエイティビティというのは、人間が誰しも持って生まれてきたものだからね。"何か"が心に生まれて、その感情に従っていけば、森羅万象によって道が開けるものなんだよ。企業経営のために受けていた職業訓練で洗車をしたり、小型車Clioで夕方にインド料理の配達をしていたのが5年前。その頃には、5年後の自分がこうして音楽を作ってるなんて思ってもいなかったし、デビュー作が、まさかi-Dでプレミアされるなんて決して思わなかったよ!

3.監督にサヴァンナ・セッテン(Savannah Setten)を迎え、サム・カーダーとともにこの映像を生み出した。
観る者を新世界へいざなうような、白昼夢を見ているかのような、そんなヴィジュアルを作りたいと思ったんだ。ユートピアの住人たちが、精神を高め、社会から課せられる様々な制約を乗り越えて、彼ら自身の望むユートピアをディストピアの中に見出そうとする世界を描きたい、とね。サヴァンナにこのヴィジュアルを生み出してもらうために曲を送ったんだけど、映像のコンセプトを表現するために膨大な時間を割いてくれて、この作品に対する彼女の情熱を感じたよ。彼女は、僕の持つ情熱に応えるように全ての感情を傾けて、この映像の世界を紡ぎ出してくれた。そこには「夢の中を追う」ようなシュールな感覚も描かれていて、見終わった後に視聴者の心を刺激して、何かを問いかけるようなものを生み出そうとした。それこそまさに狙い通りで、彼女はこの曲から発せられるメッセージを受け取って、完璧にそれを込めることに成功したんだ。すごい才能だし、彼女がこの「Utopia」を新しいレベルへと昇華させてくれたんだ。感謝してもしきれないよ!

4.出演者もクルーも無償で集った。
この「Utopia」の撮影は、予算が全くなかった。それが良かったんだ。撮影に参加した出演者も撮影クルーも全員ノーギャラ。曲を聞いて、僕の描いている世界に共感して、「共鳴したからプロジェクトに関わりたい」と参加してくれた人たちばかりだった。そんな素晴らしいことが起こったのは、予算がなかったからこそかもしれない。「Utopia」を作ったことで、僕は本当のユートピアを作り出したんだ。誰もが、お金じゃなく、創造するための情熱に動かされていた。数か月前にJ・コールのビデオを撮ったアーロン・リードが撮影監督で、デヴィッド・シルバーが編集、サヴァンナが監督で、モデルやボクサーも……この作品のために大物がたくさん関わってくれた。みんなが時間を割いてくれて、世界に大切なことを訴えるこのビデオに情熱をぶつけてくれたんだ。愛で作られたものは、利益を目的に作られたものに勝る――この作品はそれを証明していると思うよ。

5.祖父の死が、ウェイドがペンを取るきっかけになった。
僕が15歳の時に祖父が亡くなって、そのとき初めて詩を書いたんだ。いとこのルイーズが美しい詩を書いて、祖父の葬式で読んだんだけれど、それまで書いたこともなかった詩を書こうと思うなんて、彼女に影響されたんだね。祖父がこの世からいなくなってしまったという喪失感が、詩を書くことで少しずつ癒されたし、亡くなった祖父に向かって話しているような感覚だった。

6.しかし彼自身の中にあった創造力を大きく刺激したのは、その後経験したひどい仕事だった。
大学では職業訓練として実際に働きながら研修をする年度があったんだけど、その時期まで、しばらく詩を書いたりはしていなかった。ノッティンガム・トレント大学で経営学を学んでいたんだけど、経営の仕事を研修しながら学ぶことが必須になっていて、僕はEnterprise Rent A Carで研修を受けたんだ。洗車が主な仕事だったんだけど、気が狂いそうなほど長時間をタダ同然のような賃金で働かされた。必須のコースだったから、必死に耐えるしかなかった。むしゃくしゃしてみじめで、その辛さから、「また書こう」という気持ちになったんだ。「こんなの、僕の人生じゃない」ってね。書くことで気持ちが癒されたし、何よりも解放されるということもそのときに学んだよ。

7.とにかく多才。
「僕にとって一番重要なのは、書くこと」――『The Guardian』紙にシェイクスピア風短編を寄稿し、モデル・エージェンシーのSelect社と契約を交わすなど、俳優、作詞家、モデル、ミュージシャンとしてのマルチな活動を展開する自身について、ウェイドは話す。「例えそれが一文だったとしても、数行だったとしても、毎日欠かさず書くようにしているよ。もし書かなかったら、なんとなく鬱屈としてしまって、落ち着かない気持ちになるんだ。でも、書いていると、我が家に帰ってきたような、自分自身を取り戻したような、そんな安心した気持ちになる。大袈裟じゃなく、書くことが僕にとってセラピーみたいなものなんだよ。演技をするのは、書くこととはまた別の情熱にはなるけれど、真剣に取り組んでいる。僕とサム・カーダー、そしてダミアン・コリンズ(Damian Collins)の3人で、僕の音楽や演技を一斉に絡み合わせるようなクレイジーなアイデアを実現させようって話になってるんだ。早く実現させて、形にするのが楽しみで仕方ない。モデルに関しては、なりたいと思ったことなんてなかったんだ。たまたま流れでモデルになったんだけど、モデルをやっていたからこそ、たくさんのクリエイティブな人たちと出会えた。モデルの仕事は良い収入になるから助かってるけれど、書いたり演技をしたりするときに感じるような充足感を与えてくれるものではない。僕には容姿よりも、もっと世界に届けたいものがあるんだ」

8.ウェイドがインスピレーションとして挙げるアーティストは、ケン・ローチからケンドリック・ラマーまでと、とにかく幅広い。
音楽的には、マイク・スキナーがトップだね。12歳の頃から、彼がいたザ・ストリーツを聞いていたから。アメリカの音楽は、いつも銃や麻薬の取引の内容ばかりだったからまったく聞かなかったんだ。そういう世界観が嫌いだったし、僕にとっては現実味もなかったからね。その点、マイクの曲には何気ない日常を感じる。誰でも感情移入できる世界だろう? その他だと、J・コールにケンドリック・ラマー、そしてNasやチャンス・ザ・ラッパーの曲をよく聞いているよ。彼らには重みというか、叫ばずにいられないメッセージのようなものがある。現実にきちんと目を向けているアーティストたちだね。エリカ・バドゥやローリン・ヒルもそう。素晴らしいの一言に尽きる! そして、忘れちゃいけないのが、映画監督のケン・ローチだね。僕にとって、彼は偉大なヒーローだよ。彼の温かい視点は、完璧で非の打ち所がない。彼の作品には、いつも社会への重要なメッセージが込められていて、その観点から言えば、この「Utopia」には少し彼のテイストが含まれていると思うよ。

9.この暗黒の時代に、「Utopia」で希望を与えたい。
「Utopia」で描きたかったのは希望。世界の希望は若者たちにかかっているし、だからこそ、この曲のメッセージが若者の心に届くよう願うばかりだよ。情熱に従うことが難しい世の中ではあるけれどね。お金が欲しいだけなら、そんな情熱に従うのは正しい道とは言えない。僕の場合、大学を卒業した後に、安定していて、快適で、給料も良い仕事に就くこともできたけれど、それは選ばなかった。モデルの世界には入ったけど、大金持ちにはなっていないし(笑)。僕は今でも収入の足しにとショップや倉庫で働いてるよ。生きていくコツは何も買わないことさ。稼いだお金は、演技のクラスのために使ってる。デプトフォードで寝室だけのワンルームに住んでいると家賃も本当に安く済ませられるんだよ。そうなると、時間に追われて必死になることもないし、週に40 - 50時間も働く必要はなくなるんだ。自分が生き生きしていると感じられるもののために作業する時間が持てるんだよ。

10.フランキーの考えるユートピアは、普遍的な世界。
今まで話してきたことは取り消して、シンプルに言い直してみるよ。テクノロジーはほどほど。自然があちこち見られて、たくさんあった空き家にはホームレスだった人たちが住んでいる。戦争なんて起こらず、愛で溢れている世界。「Utopia」を観れば、僕が世界に訴えるべきメッセージを持ったアーティストだということを、解ってもらえると思う。今後の音楽に関しては「Utopia」とは異なる世界観になりはしても、僕はどんな分野のどんな作品にも"意味"を込めることが大切だと考えていて、同時にそれが力強く、ひとびとを熱狂させるような作品にならなきゃならないとも考えてるんだ。僕には素晴らしいチームがついているし、クレイジーなアイデアもたくさんある。僕たちはただ壁を打ち崩し、新しい作品を作り出して、愛を広めたいんだ。

@frankiewade

Credits


Text Hattie Collins
Translation Shinsuke Matsuda