『SAD VACATION ラスト・デイズ・オブ・シド&ナンシー』

今なお熱狂的なファンを持つシド・ヴィシャスとその恋人ナンシー。彼らふたりの、最後の日々を綴ったドキュメンタリーが完成した。訳書に『ポストパンク・ジェネレーション 1978-1984』がある翻訳家・野中モモによるレビューをどうぞ。

by Momo Nonaka
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16 December 2016, 9:30am

© 2016 Chip Baker Films

なんて悲しい話なんだろう。愚かな恋人たちが若くして死ぬ。イギリスの男の子とアメリカの女の子。まだ21歳と20歳。もう40年近く前、本当に起こったこと。
『SAD VACATION ラスト・デイズ・オブ・シド&ナンシー』は、セックス・ピストルズのシド・ヴィシャスと、その恋人ナンシー・スパンゲンの最期の日々について、当時を知る関係者に取材したドキュメンタリー映画である。

70年代半ばのロンドンでパンク旋風を巻き起こしたセックス・ピストルズ。フロントマンのジョニー・ロットン(ジョン・ライドン)の友人だったシドは、1977年にバンドに加わり、その破天荒なふるまいで一躍注目の的となった。だが1978年1月、アメリカ・ツアーの最中にライドンがバンドを脱退。ライドンがP.I.L.(パブリック・イメージ・リミテッド)の活動に向かう一方で、シドはナンシーとニューヨークに滞在し、共に麻薬に溺れてゆく。
1978年10月13日、ふたりが滞在していたチェルシー・ホテル100号室で悲劇は起こった。ナイフで刺され血まみれになったナンシーの遺体が発見され、シドは殺人容疑で逮捕される。彼は保釈されるが、その4ヶ月後には裁判を待たずにオーバードーズでこの世を去ってしまった。

ナンシーの死は事故か殺人か、殺人だとしたら犯人は誰なのか。真相は現在も謎に包まれている。だが本作の監督、スペイン出身のダニー・ガルシアの関心は、それを暴いて犯人を特定することにはない。「伝説のカップル」について、そのクズさを伝えるエピソードも同情的な意見も両方が紹介され、彼らをことさらに美化することも、逆に露悪的に興味を煽ることもないよう心がける気遣いと人の好さが滲み出ている。それは2010年代のいまだから獲得された距離感なのだろう。
本作でインタビューを受けているパンクの生き証人たちは、いまや60代、70代にも届こうかという年齢。ここまで生き延びて堂々と人前で発言することができるのは、やはりある程度しっかりして社会性のある、いい顔をした紳士淑女ばかりだ。「彼らの思い出」だけでなく、あの頃から現在に至るまでのこの人たちの人生について聞いてみたいなと思ってしまう。リー・ブラック・チルダースをはじめ、この映画のための取材を受けた後に亡くなってしまった人もすでに複数いる。決して「パンク入門」にはならないだろうが、この時代と文化に関心がある人間にとっては十分に興味深い内容だ。

シドとナンシーみたいに破滅的な人生なんて、ちっともかっこいいとは思わない。ジョン・ライドンみたいに抜け目なくちゃっかり生き延びるほうがいい。しかし、ここまで世の中に暴力と貧困がはびこっていて、「偉い人たち」がマヌケに見える状態だと、現行のルールの上でうまいことやっていける人間なんて、残酷で鈍感で、あと運が良かっただけではないか、という気分にもなってくる。ルールを書き換える、もしくは抜け穴を探すのがパンクだと個人的には信じているわけだけど……。この映画で改めてシドとナンシーを知る人々の証言を聞き、ひたすら不運で、利己的で、うまくやっていけなかったふたりに心惹かれてしまう人が後を絶たないのも、少しだけわかるような気がした。

© 2016 Chip Baker Films

SAD VACATION ラストデイズ・オブ・シド&ナンシー
2016年12月17日(土)からK's cinema、ユーロスペースほかで公開
監督:ダニー・ガルシア
出演:シド・ヴィシャス(Sex Pistols) ナンシー・スパンゲン シルヴェイン・シルヴェイン(New York Dolls) リー・ブラック・チルダース ボブ・グルーエン マルコム・マクラーレンほか
配給:キュリオスコープ

Credits


Text Momo Nonaka

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