i-D編集部が選ぶ「愛の映画」6本

亜熱帯化する気候と国内外の政治情勢にクラクラする今年の夏、i-Dはこの気だるい夏をLoveでもって暑気払いしたいと思う。ここではi-D編集部が偏愛する恋愛映画を紹介。何度目かのサマー・オブ・ラブに、同じ映画を何度でも。

by i-D Staff
|
03 August 2016, 1:40am

© 2015 Cosmo Films Limited. All Rights Reserved

暑い。今年は梅雨明け前から暑かった。オーランドの銃乱射事件やイスタンブールの空港で起こった自爆テロなど陰惨な事件が連日報道され、イギリスのEU離脱にアメリカの大統領選挙と世界中で大きな政治的動きがみられる。日本でも、参院選と都知事選を終えたばかりで、憲法改正を巡る議論は今後加熱していくことが予想される。そう、今年の夏は政治も熱いのだ。1967年にアメリカで起こった「サマー・オブ・ラブ」を今一度思い出してみよう。彼らは時に享楽に走りつつも、政治的なメッセージを高らかに叫び、そして愛を謳った。フランスの哲学者アラン・バディウは言う。「愛すること、それはあらゆる孤独を超え、世界にあって生存に活力を与えようとするものすべてに関わることです。わたしにはわかります。この世界とは直ちに、他者とともにあることがわたしに与える幸福の源泉なのです。『あなたを愛している』という言葉は、世界にはあなたというわたしの幸福の源泉がある、という意味を持つのでしょう」(*1)

『シング・ストリート 未来へのうた』(2015) ジョン・カーニー監督
舞台は1985年、不況に揺れるダブリン。家庭の「予算削減」のため荒れる男子校へと転校させられたコナーは、オカマといじめられ、両親は離婚の危機。唯一の救いは兄と一緒に観るテレビのミュージックビデオだった。そんなとき、モデルを目指すラフィーネに一目惚れ。「僕のバンドのPVに出ない?」と咄嗟に口走り、学校のはみ出し者を集めてバンドを組むことになる。デュラン・デュランやA-HA、ザ・クラッシュ、ザ・ジャムなど80年代の音楽とともに、疾走感のあるストーリーが展開していく。あなたもきっと10代の記憶が蘇るはずだ。この映画には恋愛だけでなく、親の愛、兄弟愛、そして友情愛が詰まっている。

『アデュー・フィリピーヌ』(1962) ジャック・ロジエ監督
テレビ局に勤める青年と2人の女の子が過ごすひと夏のヴァカンスを描いた青春劇。冒頭のジャズ演奏や、観ているこちらもつられて踊りたくなるダンスシーンは軽快で、青春がそうであるように無軌道なエネルギーで充ち満ちている。しかし、この物語の背景にはアルジェリア戦争の影が常にちらついている。主人公の青年ミシェルは、いつ徴兵がかかるか分からない不安と共に、コルシカ島へのヴァカンスに出かけるのだ。冗長な展開のなかで、発作的に現れる愛の、そして青春の断片は、「戦前」とも言えるかもしれない今の時代に、より一層瑞々しく輝いてみえる。

『トゥルー・ロマンス』(1994) トニー・スコット監督
小さなコミック店に勤めるマンガおたくのクラランスは、誕生日にいつものように映画館でふけこんでいると、目を見張るほどのキュートなアラバマに出会う。ひと晩で恋に落ちた2人だが、実はアラバマの背後にはマフィアの存在が。決死の覚悟で彼女を取り戻しハネムーンに出るも、彼らの行く手をマフィアが阻んでいく。エルビス・プレスリーの幻覚に突き動かされ、無茶なことを次々とやってのけるクラランスのアブナさについ目が離せなくなる女子も多いはず。そして、弾けるようなアラバマのかわいらしさはもちろん「映画の鑑賞後にチェリーパイをつつき合う」「翌日に婚姻届を申請する」「砂漠の真ん中でいちゃつく」などの徹底した設定のベタさが、ラヴ・ロマンスの胸キュン度を後押ししている。随所にバカバカしさと、ファッショナブルで洗練された演出がぎゅうぎゅうに盛り込まれた、クウェンティン・タランティーノらしさ全開の本作は、ゲイリー・オールドマン、ブラッド・ピットなどの脇役の豪華さも必見だ。

『渚のシンドバッド』(1995) 橋口亮輔監督
同性に想いを抱く高校生の青年・伊藤と、心になにか抱え込んでいる転校生の相原を中心に友情と複雑な恋愛関係を描いた青春群像劇。映画の随所に散りばめられている思春期特有の繊細さや他人との測りがたい距離感といった機微は、自身も同性愛者であることをカミングアウトしている橋口亮輔監督にしか撮れないだろう。当時まだ10代だった浜崎あゆみや岡田義徳の初々しい姿も必見!

『ピアノ・レッスン』(1993) ジェーン・カンピオン監督
ヴィクトリア調の重々しくも美しいスコットランドの田園風景を回想シーンに、舞台は大海原へ展開する。当時の世に従い、父親が組んだ望まない縁談のために未開拓地であったニュージーランドに送り込まれた失語症の女性・エイダと娘のフローラ。脚本賞、主演女優賞、そして助演女優賞の3部門でアカデミー賞を受賞、この映画を世界に知らしめた要素のひとつともいえるマイケル・ナイマン作曲の『楽しみを希う心』は語るまでもない。ちょっと急すぎる(?)求愛もこの映画の醍醐味ではあるけれど、心からのピュアな愛は、押し付けがちな型から入った愛にも勝る強さを持つということを教えてくれる。細分化され複雑になった"型"が物を言う人間社会では、この映画で描かれたような、プリミティブな"愛"は少しばかり古くさく感じるかもしれない。しかし、ふと目の前に置かれた状況や選択に迫られた時に私たちを導いてくれるのは、エイダのように、自分の「心」に従う素直さなのかもしれない。

『エターナル・サンシャイン』(2004) ミシェル・ゴンドリー監督
物語の舞台はニューヨーク。元恋人のクレメンタイン(ケイト・ウィンスレット)と別れたジョエル(ジム・キャリー)は謎の会社からクレメンタインが記憶除去手術を受けたという告知の手紙を受け取る。これを知ったジョエルは同じくクレメンタインの記憶を自分から消し去ろうと手術を受けるのだが……。飛び回る時系列とSF要素の描写が入り混じるこの映画の脚本構成には、3年がかかったという。キャッチコピーが「失恋の痛みを知る、すべての人へ」ということもあり、あまりベタベタした甘い恋愛映画ではなく、誰が見ても共感できる現実的な部分は多々あるのでは?『Eternal Sunshine of the Spotless Mind(一点の汚れなき心の永遠の陽光)』という原題はイギリスの詩人アレキサンダー・ポープの恋愛書簡詩からの引用。劇中でもキルスティン・ダンスト演じるメリーは詩人の言葉をよく引用するのだが、そのうちのひとつがこのラブストーリーの主題となる「幸せは無垢な心に宿る。忘却は許すこと。太陽の光に導かれ、隠りなき祈りは運命を動かす」だ。お互いに酷いこともたくさん言った、傷つけ傷ついた、でも"忘れた"にも関わらず磁石のように惹かれ合う彼らのストーリーは最高の恋物語なのでは?

(*1)アラン・バディウ/ニコラ・トリュオング=著、市川崇=訳『愛の世紀』(水声社、2012年)

Tagged:
True Romance
Summer of Love
Eternal Sunshine
Sing Street
adieu philippine