アイルランドの大人になりかけた子供たち

写真家ダグ・デュボワは、経済破綻をおこしたアイルランドの小さな町に暮らす若者たちを6年間にわたってドキュメントした。

by Emily Manning
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07 April 2016, 4:15pm

dean shows his tat, russell heights, cobh, ireland, 2009

『ライ麦畑でつかまえて』や『ヴァージン・スーサイド』(1999)がそうであるように、どの世代にとっても大人の入り口である十代の頃を描いた、青春のバイブルと呼ぶべき作品はあるだろう。

6年前にアイルランド経済が破綻した際、アメリカ人の写真家であるダグ・デュボワはアイルランドの南西にある小さな街、コブにあるシリウス・アーツ・センターに1ヶ月間の滞在制作をするべく招かれた。ダグは当初、経済破綻に関連したシリーズ物を撮影しようと試みたが、傷ついた地元の人たちからの反応は芳しくなかった。「アイルランドには沢山の建設現場がありました。沢山の建物が空き家か、建設途中のまま放置されていました」とダグは説明する。「現地の建設会社が建てた最後の建物のポートレートを撮ろうとしていたのですが、全く成果が出せずにいました。無理もありません、まだ傷跡も生々しい頃でしたから。不況のため、誰もが切羽詰まった状態だったのです」

なにも撮れずに2週間が過ぎた頃、ダグは帰国する気になっていた。しかし到着する以前に彼は、コミュニティーと絆を築くためにも写真撮影のワークショップを企画してほしいとセンター長に頼んでいたのだった。そこに集まったのは8人ばかりの少年たちで、そのうちの何人かは就職のため高校を中退していた。「集まったグループに、『君たちの近所の普段過ごしている場所へつれていってほしい』と頼みました」その声には、エリンとケヴィンというカップルが応えてくれた。

その後5年間、ダグは毎夏コブへ戻って地域の少年のポートレートを撮影し、最新作となる『My Last Day at Seventeen』のための写真を撮りためた。イラストレーターのパトリック・リンチによるグラフィック・ノベルも掲載した本作は、彼らにとって人生の終わりにも感じられたであろう日々を記録した、事実とフィクションの混在する感動的な力作である。

Jordan up the Pole, Russell Heights, Cobh, Ireland, 2010

少年たちを撮影しはじめた頃のことを教えてください。

ワークショップに来たカップルのエリンとケヴィンが、彼らが"階段(the steps)"と呼んでいる場所へ連れて行ってくれると言いました。そこでは、15歳の少年たちが15人ほど集まって酔っ払っていました。夜の9時か10時くらいでしたが、アイルランドの夏場は本当に遅くまで明るいんです。良くない偏見を植え付けてしまう恐れがあるので、酒を飲んでいる姿は撮りたくありませんでした。そこでレニーという少年をつかまえて「レニー、君のアップを撮りたいからできるだけ動かずに、カメラをのぞき込んでほしい」と伝えました。彼は少し酔っていたので「あぁ、いいよ」と言って撮らせてくれました。それから1、2回シャッターを切ったところで、辺りは地獄と化しました。ビール缶が飛び交い、私に唾を吐きかける少年もいましたし、何もかもが無茶苦茶になりました。ケヴィンが「逃げないとやばい」と言い、それがその日の終わりの合図になりました。

フィルムカメラを使っているので、写真を確認できたのはアイルランドを離れた後でした。結果としてレニーを被写体に撮影したあの一枚が、このプロジェクトの嚆矢となりました。虚勢というのか、一人の少年が大人の入り口に立ったあの瞬間を、もっと探求してみたいと思ったのです。

Lenny on the Steps, Cobh, Ireland, 2009

プロジェクトはどのように展開していったのですか?

ケヴィンが住んでいた労働者向けの住宅街、ラッセル・ハイツの住人に顔を覚えてもらい、少しずつ打ち解けていきました。少し閉鎖的でしたが、住人がお互いを気にかけている結束の強いコミュニティーだったのです。ケヴィンとエリン以外は誰も知らなかったので、最初の2週間はとても大変でした。住人たちからは警察に通報されましたし、通りかかった車からは「変態め、出て行け。ここで何をやっているんだ」と怒鳴られました。でもそれも少しずつ変わっていったのです。

2週間が経って、建設会社の方になんの動きも見えず、私は帰る寸前でした。帰国の2週間前に、ケヴィンとエリンに来年も戻って良いかと尋ねました。彼らは本当に親切で、よそ者のわたしに心を開いてくれました。彼らのサポートがなければ、プロジェクトは間違いなく頓挫していたことでしょう。地区の少年たちも、わたしが毎年夏にくるのを楽しみにしてくれるようになりました。恒例行事みたいにして、彼らの生活に馴染んでいったのです。

Eirn on the Eve of her 18th Birthday, Cobh, Ireland, 2009

17歳の彼らはどのような問題に直面しているのですか?

最初にアイルランドを訪れた夏、18歳の誕生日前夜にドレスを着たエリンの写真を撮りました。彼女は「今日が17歳最後の日なの」と言漏らしました。わたしにはその重要さが理解できました。このような通過儀礼は、人生のさまざまなタイミングで訪れるものです。それが12歳のときでも、40歳のときでもおかしくはありません。少年・少女の時代が過ぎ去って、世間での自分の立場が変わってしまったことを自覚したときに起きる、純真さの喪失です。これまでの自分のままではいられないし、どうしたら良いのかはっきりしない状態。子供であることがどういうことであったかはまだ思い出せます。実際にまだ子供で、エネルギーに溢れているのですから。ただし、それと同時にしっかりしなければならないということも彼らは分かっているのです。これはどの階層にも起きることで、アイルランドに特有というわけでもありません。しかしアイルランドでは、とてもアイルランド的な形で起きるのだとは言えます。

Padjoe in his Father's Kitchen, Cobh, Ireland, 2011

5年間で目撃した最も大きな文化上の変化はなんでしたか?

年長の少年たちはバブル経済のなかで育ちました。その頃のアイルランドはどこにいっても仕事がありました。あまりにも建設事業が多くて、外国からの労働者を積極的に受け入れていたほどです。経済が崩壊すると彼らは、仕事を求めて海外へ出なければならない状況に直面しました。歴史的に見ても、アイルランドにおいてその状況は決して珍しいというわけでもないのですが。彼らの親、特に祖父母の世代は自然と理解していたことだったのですが、彼らの世代が直面するのは初めてでした。幼い頃には大きかった期待も、その状況のなかで縮んでしまったのだと思います。それは誰の目にも明らかでした。

Bonfire, Russell Heights, Cobh, Ireland, 2011

グラフィック・ノベルの部分について教えてください。

はじめはアイルランドの作家に短編の執筆を頼もうと考えていましたが、代わりにグラフィック・ノベルでいこうと出版社から提案がありました。そして、パディーと出会ったんです。パディーは、若者としてダブリンで過ごすのがどういうことをうまく捉えた、感情的で奥深さのある作品を描いています。わたしたちは本の見本とレコーダーを持って、ラッセル・ハイツに向かいました。その場所で知らない人に本を渡して、その人が本を見ながら発した言葉を録音しました。このコミックは、そうして地区内で集めた物語をベースにしています。創作された部分もありますが、すべては現実に基づいています。このコミックは「大人になること」についての物語です。

Roisin and Jordan, Cobh, Ireland, 2010

読者にはこの本からなにを感じ取ってほしいですか?

「大人になっていく物語」がポピュラーなのは、私たちは全員それを経験するからです。世代は違っても、同じような感情には反応しますし、かつてどう感じていたかを思い出します。読者がこの本に込められた感情の真摯さを感じ、共感して、若かった頃の自分について考え直すきっかけになったら嬉しいです。 

Credits


Text Emily Manning
Photography Doug Dubois, all images © Doug DuBois

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my last day at seventeen