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ポップカルチャーの忘れられた瞬間:小説家キャシー・アッカーがスパイス・ガールズに行なったインタビュー

クィア作家キャシー・アッカーとスパイス・ガールズ——この意外な組み合わせのインタビューが行なわれて、20年が経つ。アッカーが死の数ヶ月前に行なったインタビューと、背景となった90年代後半を振り返ってみよう。

by Philippa Snow
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16 May 2018, 1:53pm

メディアが「問題発言セレブ」などという言葉を使いだすより20年も前に、イギリスは、世界の音楽チャートを席巻し、女性の圧倒的な存在感と力を見せつけたポップグループ、スパイス・ガールズを生み出した。その力を、彼女たちは「ガール・パワー」と呼んだ。

ガール・パワーを初めて生み出したのがスパイス・ガールズであったかは定かではない(かつて政治的な意味合いを持っていたこの言葉が、ポップに打ち出されるようになったのはこの時代だった)。しかしひとつだけ明らかなのは、若い女の子たちが、「男に人生を支配されるなんてバカバカしい。わたしたちの人生はわたしたちのもの」「ショートスカートをはいて、胸がついているからって、黙っていなくちゃいけないわけじゃない。わたしたちには力がある」といった、スパイス・ガールズの発言にことごとく耳を傾けていたということだ。

「ガール・パワー」には矛盾語法的なニュアンスをあったし、スパイス・ガールズのメンバーのイメージも作られたものではあった。しかし、インタビューにおける彼女たちの発言は、とても作られたもののようには感じられなかった。彼女たちは、労働者階級の出なのだ。
かつて映画評論家のロジャー・イバート(Roger Ebert)は次のように言い放った。「スパイス・ガールズは、ダンキンドーナッツで列を作っている30歳以下の女性の中から5人集めれば、いくらでも複製できる」。さも、スパイス・ガールズという存在が少女たちに対して意味したものを、根こそぎ無視するかのように。

映画『スパイス・ザ・ムービー』に、メンバーのメル・Bがカメラに向かってピースをしながら「フェミニズム」と言う場面がある。それは、そのメッセージがヒップであると同時に政治的なものであることを示している(政治家にはできない離れ業だ)。
1997年5月、『ガーディアン』紙は、クィア作家で戯曲家のキャシー・アッカーに依頼し、アメリカでのテレビ出演直後のスパイス・ガールズとのインタビューを敢行した。「素晴らしい」という言葉は軽々しく使いたくないが、アッカーとそのインタビュー企画にGOサインを出したすべてのひとは「素晴らしい」と私は思う。そのインタビュー冒頭で質問に答えているのはジェリーで、それは次のようなものだ。「お金が、現在の世の中を作ってしまった。悪におかされているこの世の中をね。今、世界ではさまざまな争いが起こっている。誰もが“より良い生活を”とイライラしている——隣の家のほうが立派とか、そういうことで」

彼女が語っていることが20年前と変わらず、現代にも当てはまる。それは人類がほとんど進歩していないという事実を雄弁に物語っている。キャシー・アッカーが投げかけた質問が「楽園が存在するとしたら、それはどんな場所?」だったことを考えると、ジェリーのスタンスが透けてみえる。楽園を想像できないのか、はたまた、楽園を想像するのは時間の無駄で、現実にある恐怖と向き合うほうが良いと考えたのか。
ジンジャー・スパイスことジェリーは、ショウガ色の「シースルーのベルボトムとトップス」を着たシルヴィア・プラスのような女性だ。いや、マイクロミニスカートに身を包んだサルトルかもしれない。そうした哲学的な一面をスパイス・ガールズの面々から引き出したのが、アッカーの手腕だった。

「この子たちについていくのは大変」と、アッカーはスパイス・ガールズと過ごした午後について書いている。彼女たちのおしゃべりに疲労困憊といった様子だ。だけど、女友達のグループと過ごす時間というのはそういうものなのではないだろうか? 「マルクスやヘーゲルといった人物たちの思想を叩き込まれた私の世代は、世界で起こっている問題を修正していくことで世界を変えられると考えてきた」とアッカーは述べている。「政治や経済の構造に疑問を投げかけることで、歴史が変わっていくと信じてきたのだ。感情や、個人的な関係(特に肉体関係)は、かつて女性特有のものと考えられていた。女性の存在を、社会が下に見ていたからだ。それをフェミニズムが変えた。イギリスでは、マーガレット・サッチャーの出現が(言いたくはないが)さらなる変化を生んだ。世界中で、個性が評価され始めた。わたしの世代にとって、それはわがままを意味する変化だ。しかし、スパイス・ガールズ世代にとって、内省と自己分析は政治的な意味を持っている。彼女たちは『わたしたちは5人のまったく違う人間』だと言う。彼女たちは、そこで政治的な主張をしているのだ」

アッカーはスパイス・ガールズの存在を真剣に受け止めている。もちろん、彼女たちがバカな発言をしている場面も、アッカーはしっかりと記録している(エマは「60年代に行ってみたい。ヘッドバンドはしないけど」と、ハッキリとした口調で話した)。しかし、アッカーは終始スパイス・ガールズと対等な立場で話をしている。「彼女たちはイギリスに突如として現れた」とアッカーは書いている。「サッチャー時代以降の社会しか知らない女の子たち。UKロック・ポップ社会に根づいた誇り高き奇妙な特質が、この女の子たちを時代の代弁者にしたのだ。オックスフォードやケンブリッジといった名門大学にも、サセックス大学やアートスクールにすら通うことなく現れた彼女たち——その声に、ぜひとも耳を傾けてほしい。それは、長きにわたり抑圧されてきた民衆の声なのだから」

生まれたのは1944年か1948年、もしくは1947年と諸説あるキャシー・アッカー。ニューヨーク出身だったこともあり、それほど抑圧を感じることなく育った。彼女は、スパイス・ガールズにインタビューを行なった年にこの世を去った——読む者をハッとさせ、手に汗握らせ、人間愛に満ちた作品を多く残して。彼女の小説『血みどろ贓物ハイスクール』をわたしが初めて読んだのは、スパイス・ガールズの「Wannabe」をカセットテープで買ってから10年ほど後のことだった。スパイス・ガールズは、アッカーと同じ系統にいるはずだ。アッカーが幼いころに憧れたのは、海賊だった。事務所やマネージャーたちから解放されたとき、スパイス・ガールズはまさに海賊の一味だったではないか。アッカーが唱えた女性の性解放を、スパイス・ガールズは体現していたではないか。また、スパイス・ガールズのマネージャーの名前が「マフ(Muff)」であることも見逃せない。
インタビューの冒頭で、スパイス・ガールズの面々を性的な視点から描いているのもアッカーらしい。中年男性が「親しみやすい美しさの女性はもうアメリカにはいない——オーストラリアにいるのだ」などと書くのは許されざるべきことだが、アッカーが女性を性的に描くのはなぜだか許せてしまう。アッカーは「彼女たちのビデオや写真を何度も見て挑んだインタビューだったが、実際に会ってみると彼女たちはわたしの想像をはるかに超えていた」と彼女たちを讃えているのだ。

「わたしはメル・Bの話に耳を傾けている」と、アッカーは夢見心地で書いている。「だが私が考えているのは『この女性はなんて美しいんだろう』ということだけ」。著者に共感できると、読者は嬉しいものだ。スパイス・ガールズのフォトカード集めに熱中していた8歳のわたしは、その美しさとクールなレパード柄の着こなしに魅せられてメル・Bを、そして口の達者さとその胸への奇妙な憧れをもってジェリーを崇めていた。アッカーは、スパイス・ガールズのファンだというある奇妙な人物の発言(「男がお付き合いをし、ゆくゆくは母親に紹介したいと考える女性は、ダークブラウンの髪の女性。赤毛の女性は悪の力を持ったワイルドな女性」)を引き合いに出し、「影響力を持つ女性から一般女性にいたるまで、女性の実像とイメージのあいだには、ほとんどの場合、乖離が見られるもの」と強調している。Tumblrには、フェミニズムをテーマとしたページが多々存在するが、その多くに本編からはカットされた『スパイス・ザ・ムービー』の未公開シーンが投稿されている。
スパイス・ガールズが公衆トイレでカメラスタートを待つシーン。ヴィクトリアが「このドレス、短すぎるかしら?」と訊く。他のメンバーたちは首を横に振る。そこでヴィクトリアは、スカートの裾をお尻の下ギリギリまでたくし上げ、他メンバーたちはハイタッチをしあって喜ぶ。このシーンは「ショートスカートを穿き、派手にネイルは飾っていても、ガール・パワーを発揮することはできるのだ」という現代的な考えを先どりしているのだ。

「女性に勝手な理想を抱く男性たちがいる。しかし、理想化された女性像や、中流階級より下の出の女の子たちを下に見ているのは男たちばかりではない」と、記事の最後でアッカーは書いている。「教養ある女性たちもまたスパイス・ガールズのような女性たちを見下している。飾り立てる服なしに、スパイス・ガールズのような女性たちは何も残らない——知性も頭脳もないと思っているからだ」

当時アッカーによるスパイス・ガールズのインタビュー記事を読んで、彼女たちを見下していた女性たちはまさに、「こんな女たちの音楽をなんで聴かなきゃならないの?」と思ったのではないだろうか。だからこそ、20年後となる今、このインタビューがさらなる意味を持つのだ。

Credits


Text Philippa Snow

This article originally appeared on i-D US.