「彫り師の1/6が女性」:タトゥー文化のこれから

アメリカ国内で、タトゥーを入れている女性の人数が男性を上回り、女性の彫り師も劇的に増えている。そんなタトゥー業界はこの先どのように変化していくのだろうか?

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maj 30 2017, 9:30am

tattoo artist grace neutral on set for i-D in Brazil

2012年、アメリカ国内で、タトゥーを入れた女性の数が初めて男性を上回った(Harris Pollでのアンケート結果によると、タトゥーを入れた男性の割合が全体の19%であったのに対し、タトゥーを入れた女性の割合は全体の23%を占めた)。この統計は、タトゥー・ショップで働く女性たちにとってはまだまだ残念な結果だったが、2010年にコロンビア大学が発表した統計結果が「タトゥー・アーティストの6人に1人が女性」だったことを考えれば、これは大きな躍進と言える。タトゥー・アーティスト、サラ・カーター(Sarah Carter)は、タトゥーの世界が「もう男だけのものではない」と言う。

タトゥーの世界に女性の姿が見られるようになったのは、1960年代だった。世の女性に避妊の手段が与えられ、女性が積極的に仕事に就き始めた時代だ。タトゥー業界もその働き先のひとつだった。タトゥー業界は、社会通念を問い、反体制の精神を体現する60年代の象徴となった。

この記事を書くにあたり取材にこたえてくれた女性タトゥー・アーティストのうち2人は、1960年代のオーストラリアでタトゥー界を揺るがしたシンディ・レイ(Cindy Ray)に大きな影響を受けている。「タトゥー・アーティストとして仕事を探しているとき、いつもシンディの写真を持ち歩いていた」と、オークランドにあるTow Hands Tattooでアーティストとして働くセラ・ヘレン(Sera Helen)は話す。ウクライナ出身で、現在はメルボルンにて"ミソ(Miso)"の名で活動するスタニスラヴァ・ピンチャク(Stanislava Pinchuk)にいたっては、シンディ・レイと親交があったそうだ。「シンディは現在72歳。美しさは衰えるどころか、増している」とスタニスラヴァは言う。「くわえ煙草で巨大なワッフルを焼いてくれる。チェーンのリードを手に握って、自分の倍ほどもある大きなジャーマンシェパードを散歩したりしてね。あのオーラは最高。話せば面白いし。でも自己顕示欲がまったくない。タトゥーの世界にあれだけの影響を及ぼしてきたひとなのに」

しかし、60年代にタトゥー・ショップで女性アーティストを見かけることは極めて稀なことだった。シェイラ・メイ(Sheila May)は、1966年当時、まだ19歳だった。ウィスコンシン州のタトゥー・ショップで働き始めたが、ほかの女性アーティストは、たった1人しかいなかったそうだ。2人目に出会ったのは約10年後だったという。「ショップを訪れる男たちが」と、メイは著書『Bodies of Subversion』の中で当時を回想している。「わたしを見て、『女が掘ってるぜ!』と言っているのが聞こえた」

その後10年のあいだで、タトゥー文化は進化し、ジェンダーなどの違いを超えた世界になっていった。タトゥー業界は依然として男性中心だが、それでもそこに身を置く女性の数は劇的に増えている。ミソは、それがフェミニズム第4波と、社会的弱者が支え合うなかに生まれた新しいかたちのフェミニズムによる増加だと話す。「若い女性たちが女性の存在をさらに声高に叫び、ほかのクリエイティブな業界でも女性アーティストのイメージを高めてくれている」と、著書を発売したばかりのミソは言う。「ファッションのレーベルを立ち上げ、写真やモデル、出版、そして映画の世界がより広く多様性を打ち出すよう変化を促してくれている。女性それぞれが持つ身体の本来の美しさを評価し、サブカルチャーは女性をあるがままに打ち出してくれている」

わたしがこの記事執筆のために話を聞いた女性の多くにとって、自身のイメージを女性アーティストそれぞれが打ち出していくということは、「作品とジェンダーを切り離して見てもらう」ことを意味している。バンダナや有刺鉄線といったモチーフを取り入れて女性を描くアーティスト、ミナ・アオキは「わたしは女性。でもそれとは関係のなく、ひとりのタトゥー・アーティストでもある。どちらにも誇りを持って生きているけれど、それはまったく違うふたつの要素」と説明する。

サラ・カーターは以前、女性であることに焦点を当てたインタビューはすべて断っていたという。「同じ世界で仕事をする男性アーティストたちと同等の扱いをしてほしかったし、ジェンダーに関する問題提起のためにわたしを利用してほしくなかったから」とカーターは話す。以前、女性のみが参加するアート・ショーへの参加を誘われた際には、「わたしの作品とヴァギナは関係ない」との言葉を添えて、辞退したそうだ。ではなぜ今回のインタビューには応じてくれたのだろう? 「物事は変化するから」とカーターは説明する。「以前は大切だと信じていたものを今になって否定するわけじゃない。でも、わたしももう30代後半で、堅実な男性と結婚して、2歳になる娘がいる——わたしのような立場にあるクリエイティブな女性の多くが経験することを、わたしも経験したの。状況の変化というものをね」

しかし、やはりタトゥーのエキスポなどでの女性の立ち位置やイメージに、ジェンダーは関連がないとは言えないのではないだろうか? 2016年の夏にロサンゼルスで開催され、わたしも参加したタトゥー集会では、"6人中1人"という比率が誤った統計だと叫びたくなるような光景が広がっていた。エキスポに参加していたアーティスト100人強のうち、女性は数名しかいなかったのだ。また他のエキスポでも、2016年には、約300人のアーティストが参加したうち、女性アーティストはわずか14人、全体の4%だったと、エキスポのウェブサイトは伝えている。

タトゥー・アーティスト全体の16%を女性が占めるという統計が出ているのに、なぜエキスポでは女性の存在感がそこまで薄いのか? その不均衡はどこから生まれるのか? それは、アート界に蔓延っているのと同様の問題が原因なのかもしれない。「アートの世界において、アーティスト全体の半数以上は女性が占めているにもかかわらず」と、フロリダ州の美術館Cornell Fine Arts Museumは、2015年にプレスリリースのなかで触れている。「アメリカ国内の大手美術館および現代美術ギャラリーでは、女性作家による作品の展示は全体の5%にとどまっている」。この比率は、1989年から変わっていない。1989年といえば、活動家グループのゲリラ・ガールズが「Do women have to be naked to get into U.S. museums?(女性が美術館に展示してもらおうと思ったら、裸にならなければならないの?)」と書いたポスターをニューヨークの街じゅうに貼ってまわった年だ。メトロポリタン美術館で展示するアーティストのうち女性が占めるのは5%に満たないのに、展示されるヌード作品全体の85%は裸婦像なのだと、同グループは訴えていた。

メディアにも同じ疑問が当てはまる。タトゥー雑誌に登場するのに、女性は裸にならなければならないのだろうか? 答えは、長年にわたり「イエス」であり続けている。男性は服を着ていようが着ていまいが荒削りで無骨な演出ができるのに対し、女性はモデルとしてしか扱われない。男を誘惑するようなポーズを求められ、タトゥーを見せるためだけとは思えないほど肌の露出をさせられている。大手のタトゥー専門誌『Inked』ですら、女性が前述のように扱われており、写真だけを見ると、誰がモデルで誰がタトゥー・アーティストなのか見分けがつかない。2017年4月号では、女性として初めてリアリティ番組『インク・マスター』で優勝したライアン・アシュリー(Ryan Ashley)が、トップレスもしくはピンクのレースで作られたボディスーツという格好で、リクライニングチェアやオットマンにもたれかかっている。その写真を見ただけでも、焦点となっているのが彼女のタトゥーではなく、彼女の容姿であることは明らかだ。

長年続いてきたそのような状況だが、インターネットがそこに変化を生んでいる。インターネットの普及によりフェミニズム第4波が生まれ、ソーシャル・メディアによって女性がマスメディアに頼る必要がなくなった——女性が自分のイメージを自ら築き上げることが可能になったのだ。たとえばInstagramでは、女性が男性同様に自己表現をすることができ、身体ではなく作品を発信することができる。「インターネットで顔をさらすことはほとんどない。顔をさらしても、わたしが求めるものは得られないから」とミナは説明する。「わたしが求めているのは、作品によって認知されること」

しかし、「身体も作品も見せていこう」とする女性も多くいる。「インターネットでタトゥー作品を公開し始めたとき、際どい写真をアップして仕事を取っている人たちがいるのを目の当たりにして、とてもがっかりした」とミナは話す。しかしそこには、良い面も見てとることができる。ようやく、男性やメディアの意向に迎合することなく、女性が自らのイメージを構築して発信できる環境が整ったということだ。作品だけを見せることもできるし、身体を見せることもできる。ミナはもう、そんな女性たちにがっかりすることはないという。「インターネットで何を発信しようと、わたしがとやかく言ってはならないと思う」と彼女は話す。「この自由をどう使うか——その手段はそれぞれ違っていて当然。それを忘れてはならない。そしてそう唱え続けることが大切」

男性からも、ほかの女性たちからも、そのような受容の姿勢が得られてこそ、タトゥーの世界における女性の躍進が実現されるのだ(願わくば、この勢いで有色人種やトランスジェンダー、ジェンダークィアのタトゥー・アーティストも躍進を遂げてほしいと切に願う)。ということで、タトゥーの未来は女性の手中にあるのだろうか? 「そうよ」とミソは言う。「過去も現在も未来も、女性の手中にあるのよ」

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Credits


Text Zio Baritaux
Translation Shinsuke Kuriyama at WORDSBERG Inc.