ユルゲン・テラーがユースと共にクリエイティブを行う理由

25年ぶりの日本での個展『テラー ガ カエル』が話題となっている写真家ユルゲン・テラー。近年、彼がユースと共にクリエイティブを続けるのはなぜか。

by i-D Staff
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06 March 2017, 1:25am

露出オーバーともいえる白い世界に、色鮮やかな被写体をとらえる写真家、ユルゲン・テラー。多くのファッションブランドの広告ヴィジュアルを撮りおろしながら、その中に自身の色を表現するフォトグラファーの一人だ。「コマーシャルはクライアントありきのことで、アートは自分の好きなものを撮れる。考え方はまったく違うけれど、僕のアプローチは変わらないのが実際のところなんだ」と話すように、コマーシャル写真とはいいつつも、彼の写真にはどこか一貫した"アート性"が漂う。アートとコマーシャルを行き来する写真家といわれる由縁はそこにあるのだろう。

母国ドイツ・ミュンヘンで写真を学び、その後ロンドンへ。シネイド・オコナーの大ヒットシングル「Nothing Compares 2 U」のレコードカバーを手がけると、一躍有名に。次いでファッションフォトグラファーとしてのキャリアを着々と積んだ。「コンタックスG2のシルバーをずっと愛用していたよ。フラッシュがかなり優秀だったんだ」と語るテラーだが、フィルムとグラフィックペーパーの衰退とともに、フィルムカメラから離れていくようになった。「もう一つきっかけがあって、7年前に、とあるホテルの料理本の撮影をしたんだけど、いつもどおりコンタックスを使っていたんだ。でも仕上がりにクライアントが納得いかなくて、急いでローカルショップでデジカメを買った。オートフォーカスで、すぐにしっかりピンが合って、クライアントもその写真に喜んだ。高級ですばらしい料理なんだけど、どこかテイクアウトのチャイニーズみたいにチープに写って、デジタルのよさに気づいたんだよ」。これまで敬遠してきたデジタルの魅力に惹きつけらたようだ。実際、近年のテラーの作品は、これまでのハイライトの効いた写真とは打って変わって、世の中のより具体的な部分を、彼のフィルターを通して超現実的に切り取っている。

デジタルは彼の作風に大きな影響を与えたようだ。最近では、写真のレイアウトやコラージュも自身で手がけている。「僕は自分で写真を組み合わせることができあないから、スタジオのポストプロダクションに指示を出して手伝ってもらっている」と、新しいことへの挑戦し続けている。これまでのコンタックスは「趣味でカメラを持っているように見えたけど、キヤノンの大きい一眼レフカメラを持っていると、まるで"俺はフォトグラファーだ"っていって歩いているみたいだろ? 最初はそれに慣れなくて、人々がこっちを見るたびにカメラを投げ出したくなったよ」と、笑いながらデジタルカメラを使い始めたときのエピソードを教えてくれた。なかには、フィルムで撮るように求めるクライアントもいるようだ。「フィルムの作品が好きだって言ってくれる人もいるけど、ずっと"ノー"と言い続けてる。常に新しいことがやりたいんだ」。

新しい取り組みとして、最近では自身の地元でもあるドイツ・ニュルンベルク・アートアカデミーの生徒たちとのプロジェクトも増えている。「生徒たちとのプロジェクトが始まったのは3年前から。何がいいって、みんなに"プロフェッサー・テラー"って呼ばれるんだ」と冗談を言いながら、「このプロジェクトを始めて、生徒を含めたチームで何かして欲しいという媒体も少なくない。今はドイツのファッション誌で、"ユース"についてのプロジェクトを進めている」と進行中のプロジェクトについても教えてくれた。

アカデミーの生徒とのワークのひとつが、パルコの広告ヴィジュアルだ。「とてもチャレンジングだった。パルコはファッション商業施設だけど、これまでやってきたようなハイブランドの服を使うわけにはいかないから、だったらもっとファンタジーな世界をつくろうと思った」。そして、数多くの童話を生み出したドイツならではの現代的な童話を作りあげた。2016AWに発表したChapter1『INTO THE BLACK FOREST』、Chapter2『DEEP IN THE BLACK FOREST』に続き、2017SSにはChapter3『ESCAPE THE BLACK FOREST』、Chapter4『RETURN TO THE BLACK FOREST』の全4部を発表。「生徒たちは自発的に"ニットが編めるよ"とか"衣装をつくるよ"とか、自分にできることをしてくれるんだ。そして物語のキャラクターはそろった」。自身も"ウッドマン"として出演するムービーでは、奇妙でユニークなキャラクターが登場する。衣装制作やキャストは、生徒たちが請け負った。「コマーシャルの仕事では、求められていることに答えられないこともある。けれど彼らは『もちろんできるよ』っていうんだ。すごくクレイジーだし、それがすごく美しいことだとも思う。彼らといると、学生に戻った気分になれるんだ。エネルギーをもらえるしね」。生徒とのプロジェクトから、多くの刺激をもらっているようだ。

© 2017 PARCO CO.,LTD.

25年ぶりとなる日本での個展『テラー ガ カエル』で、2月に来日した。これまで撮りためてきたテラー(ドイツ語で"皿"の意味)シリーズから、カエルをモチーフとした写真を展示している。「(キュレーター)フランチェスコ・ボナミに、カエルを皿に乗せた写真があるよと言ったら、それにしようってことになって。個展の名前も、彼が決めてくれたんだ。"カエル"っていうのは、"戻ってくる"っていう意味もあるだろう?」。タイトルどおり、日本に帰ってきたテラー。日本滞在中、そのギャラリーを舞台として映像を撮り収めていた。被写体となったのは、今回の滞在ーーとはいってもたったの4日間ではあったがーーで出会った、東京の美大に通う女の子"前髪ちゃん"。世界中、どこにいてもユースが秘めているパワーを感じとり、また彼らと一緒に新しい何かをつくり上げている。

「Frogs and Plates No.1」2016年 ©Juergen Teller Courtesy of the artist and Blum & Poe, Los Angeles/New York/Tokyo

「学生に対して、あの勉強しろと指示をしたり、君の作品はダメだと批評したりしたいんじゃない。彼らと一緒に何かをやりたい。コマーシャルワークもそうだけど、彼らに何か課題を与えたいんだ。クライアント仕事のデッドラインはリアルなものだし、どうやって物事ができていくかを知ってほしい」と本音を語ってくれた。生徒を思いやる背景には、ロンドンに移り住んだ1986年、まだどのように生計を立てて行くか迷っていたテラーに、ニック・ナイトが手を差し伸べてくれたことにあるようだ。「ニックは僕を勇気づけてくれたし、希望もくれた。彼の妻も、アートディレクターに僕のポートフォリオを見せる機会を設けてくれたり、レコード会社への売り込みに誘ってくれたり。すごく優しくて、とても助かった。一人じゃ何もできなかったと思う」。ニックとの思い出を懐かしげに語る。「もしニックが希望を与えてくれなかったら、どうやって写真を続けていけばいいかわからなかったよ」。ユースから新しい刺激をもらうだけではなく、自身がかつてそうだったように、生徒たちに希望と挑戦を与えていた。

PARCO 2017SS

「テラー ガ カエル」Curated by Francesco Bonami

会期:開催中 ‒ 4月1日(土) 11:00-19:00 日・月・祝日休
会場:BLUM & POE 

Credits


Text Nozomi Kinoshita

Edit Akira Takamiya
Portrait Photography Masayuki Shioda