東京アンダーグラウンドへようこそ

日本の現代アート・シーンを牽引するChim↑Pomの最新エキシビションには、現代の東京において最もパワフルなパフォーマーたちが集結し、底知れぬ不思議な力で観客の心を解き放った。世界ではまだ知られていない、東京の隠された才能を紹介する。

by Ashley Clarke
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30 November 2016, 2:35am

Chim↑Pomは皮肉に満ちた作品で世界的に知られる挑発的なアーティスト6人からなるアート集団だ。皆で浴びるほど酒を飲み、夜を明かすことで知られるパーティ・イベントには、参加者の誰もが社会の厳しい暗黙の取り決めから解放される空間ができあがる。オタクからファッション好き、気難しそうなアート批評家までが混在するその空間は、Chim↑Pomアートが作り出す「誰でも、どんなひとでも歓迎する」というアンダーグラウンド・アート世界そのもの——日本ではほかの誰にも到底達成し得ない、なんでもありの世界だ。

先月末に閉幕した個展『また明日も観てくれるかな? So See You Again Tomorrow, Too?』で、彼らは東京・新宿の廃墟ビルに新たなアート作品を作り出した。そしてそこへ様々なオルタナティヴ・アーティストやミュージシャン、DJたちを招き、パーティを開催した。「パフォーマーは個人的なつながりがある人たちや面白いな、と思っている人たちです」とChim↑Pomのエリイは話してくれた。参加したパフォーマーたちはすべてが日本のサブカルチャーに生きる人たちだった。

東京で「アンダーグラウンドである」ということは、他のどの都市のアンダーグラウンドとも本質的に意味が異なる。インディペンデント系のアーティストたちは、大企業に才能を買われたとしてもいわれのない批判を浴びることなどない。そして、あえてメインストリームから外れた世界に生きることが良しとされる他国カルチャーの傾向も、そこに生まれる閉塞感も、東京アンダーグラウンド・シーンにはない。「多くのアンダーグラウンドのアーティストたちがメインストリームで活動する際にイメージチェンジを余儀なくされる状況をこれまで沢山見てきました。「良い」「悪い」ということじゃなく、それがこの国では不可避なことなんです」とエリイは語る。「誰だってアンダーグラウンドで実験的なことをやっていきたいと思っていても、生活をしていくにはメインストリームを無視するわけにいかないわけで」。それでもやはり、財布の紐を握った人間にへつらう必要がない状況にこそ楽しいことは起こるものだ。「パフォーマーの人たちは参加する事に意義を感じてワクワクしてくれているのが伝わってきます」と、エリイは一大パーティとなったエキシビション最終日を回想しながら話す。そんな特別な関係をChim↑Pomと築いているアーティストたちを、ここに紹介する——そこに「真のオルタナティヴTOKYO」が見えてくるはずだ。

Nature Danger Gang

東京全域に人気を拡大しているネイチャー・デンジャー・ギャング。メンバー14人からなる、パンク・スピリット溢れるカルトバンドだ。エネルギーに満ちたパフォーマンスは、ただただ圧巻のひとことに尽きる。エキシビション会場となった廃墟ビルの地下室で、今にも崩れ落ちそうな天井の鉄製垂木からぶら下がり、代表曲「生きてる」の印象的なサビ部分「生きてるってなんだろう?生きてるってなあに?」を歌う彼らと観客は"明日など来ないかもしれない。それでもいい"と考えているように見えた。パッとしない古着や学生服、ときには素っ裸といういでたちでパフォーマンスを見せるネイチャー・デンジャー・ギャングの面々は、ぶっ飛んだ狂気と日本特有の礼節の美を奇跡のように共存させたバンドだ。次々と服を脱ぐ観客たちと、裸で暴力的なまでのモッシングを繰り広げ、マイクを口に押し付けて叫び、鼻水を垂らして演奏を終えたバンドメンバーたちは、パフォーマンスを終えるとなんとも行儀よく「ありがとうございました」と大声で叫び、揃って深々と頭を下げた。

コムアイ

突如として顔に浮かぶかわいい笑みと底抜けな元気が観る者を魅了するコムアイはエレクトロニカ・グループ、水曜日のカンパネラの一員。3人のメンバー3人からなるグループだが、コムアイは常にひとりで活動しており、現在、東京のユースのあいだで人気を拡大している。コムアイはアンダーグラウンド版アイドルといった存在で、ファッション誌やカルチャー誌にも頻繁に登場している。Chim↑Pomのショーでは、マイクを繋いだ古いブームボックスを手に、かわいいビートに踊り歌いながら、会場となった廃墟ビルのフロア4階を上下して駆け巡った。突如姿を消したコムアイだったが、ピカチューの着ぐるみに早着替えをし、外にある巨大モンスターボールに入り、歌舞伎町のストリートを歌いながら練り歩いて、乗客待ちで連なって停まっていたタクシー運転手たちの注目を浴びていた。

 a.k.a. Gami

日曜の明け方、Chim↑Pomエキシビション会場の外には、「キング・オブ・東京フリースタイル・ラップ」と名高い、漢 a.k.a. GAMIのパフォーマンスを見ようと、ファンたちが列を作っていた。名前の「漢」は、サンスクリット語で酉年の守護本尊・不動明王を指す「カーン」からとったもので、GAMIは、彼の幼少時のあだ名「ガミ」からとったという。東京ヒップホップシーンのドン的存在(日本版スケプタと言えばよいだろうか)である漢は、レコード・レーベル 9SARI GROUPの主宰でもある。新宿のアンダーグラウンド・カルチャーを歌うことで知られる漢だが、新宿を愛する理由を「ひとが真の意味で"生きる"ことができる場所。みんながそれぞれ好きに生きて、誰もそれをとやかく言わない」と語っている。大きな体躯に威圧感を放つ漢に、とやかく言うひとなどいないだろうが……。

会田誠

会田誠を「アングラ」とくくってしまうのは間違いかもしれない。日本以外ではそれほど知られていない会田だが、実は今日の東京ではもっとも多岐にわたる活躍を見せている現代美術家として広く知られている。村上隆と共に新ジャポニズムの旗手と数えられる会田だが「このカワイイ作風は、果たして芸術なのか?」という議論と世界観で急速な人気拡大を見せた村上に対し、会田はまだ世界に知られていない秘蔵の天才だ。作品の発表ごとに物議を呼ぶグロテスクでエロティックな会田の作品には、「美少女」と書かれた壁に向かって自慰行為をするというものや、アニメ風の女の子が虫と性交しているもの、手足を切断された女の子が描かれたものなどがある。「女性蔑視ではないか」と議論の的となってきた会田だが、その作品は女性を蔑視しているわけではない。社会現象としてのジャパニーズ・エロティシズムを、自由に表現しているだけなのだ。

Chim↑Pomは、グループとしての活動を開始する以前、全員が会田のスタジオに出入りしていた。よって、彼らは会田を介して知り合い、グループを結成したといえる。会田とChim↑Pomのあいだには、深い相互的な尊敬の関係が成立している。「彼らの芸術は、新鮮でバカバカしい」と会田はChim↑Pomが先月末に開催したエキシビションについて話してくれた。「笑えるエキシビションなんです」。特徴的なあのボサボサの髪で会場に現れた会田は、笑えるほどにドラマチックな中島みゆきの曲を多用してDJを披露し、会場を後にすると会場外の縁石に足を組んで座った。そして、すぐ近くのセブンイレブンで買ったアサヒビールを手に、アーティストの卵たちに先輩としての知恵を伝授していた。

エリイ

Chim↑Pomの紅一点、エリイについて触れずしてChim↑Pomを語ることはできない。ブロンドのボブに、何を着ても輝いてしまうその存在感とスタイルで、エリイはこの物議を醸し続けるグループのフォトジェニックな顔ともいうべき存在であり、グループの反逆精神を体現する存在でもあり、そしてグループの女王でもある。元は会田が絵画作品のモデルとして起用していたエリイ——その存在感は、アーティストというよりもロックスターといったほうがしっくりくる。インタビューには、パジャマのボトムスにフェイクファーのコートといういでたちで現れた。私物のLouis Vuittonバッグをカンボジアへと持っていき、埋められた地雷で爆破させたり、酔ったままの参列者を引き連れて新宿を練り歩き、それを「Love Is Over」と題して正式な結婚行進としたりといった活動で知られている。『また明日も観てくれるかな? So See You Again Tomorrow, Too?』展のイベントの最終日、エリイは泥酔しすぎていたが、メンバーたちに担ぎ上げられて閉幕スピーチを求められると、エリイは嗄れた声で幸せを叫んだ。そしてそこには、大喝采が巻き起こった。

@ashleyjclarke

Credits


Text Ashley Clarke
Photography Takao Iwasawa
Translation Shinsuke Kuriyama at WORDSBERG Inc.