絵を描くためにボディビルダーになった女性画家

米テキサス州在住のスロバキア出身アーティスト、カタリーナ・ジャネコーヴァが、エロスと熊に溢れる作品が象徴するものについて語る。

by Zio Baritaux
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01 September 2016, 10:37am

カタリーナ・ジャネコーヴァ(Katarina Janeckova)のペインティングは、セックスに溢れている。ベッドに戯れる裸の3人、プールで写真を撮られる赤毛の女、パートナーをヘアブラシでスパンキングする女——だがそこには、絶対に描かれていないものがひとつある。男だ。しかし、男が存在しないかわりに、ジャネコーヴァの揺れるような水彩画や野生的なアクリルペインティングには、黒や茶色の熊が描かれている。「わたしにとって、熊は男を完全に代替する存在なんです」とジャネコーヴァは話す。「わたしの絵のなかの熊は、見る者がそこにどんな人物をも重ねることができる、シンプルで変わっていて、ダークな存在なんです」。同時に、女性が作品の中心的存在として扱われるという効果も生んでおり、彼女の作品では女性が強く、そして性的に解放されて描かれている。「可愛い女性がたいていは受け身だというのは、ただのステレオタイプ。だからそれを逆手にとりたかった」とジャネコーヴァは言う。「それは、目に見える形で描かれず、私の頭のなかだけで描かれる場合もあるし、誇張された形で描かれることもある」。近年の作品では、女性ボディビルダーの隆々たる筋肉が多く描かれている。ジャネコーヴァはグレシアン陶器の側面にボディビルダーを描いたり、ときには花のある静物画にプロテインドリンクの容器を花瓶として配置したりしている。「女性の美に対する理想像が変わったんです」とジャネコーヴァはインタビューで語っている。インタビューでは、セックス、シンボル、現在イタリアのトレノにあるStudio d'Arte Raffaelliで公開中のエキシビション、そして、"熊を自分のものにする方法"についても語ってくれている。

いつ、そしてなぜ、より性的な色を帯びた作品を制作するようになったのでしょうか?性の目覚めのようなものがあったのでしょうか?
私は中欧で育って、10代の頃、周りはセクシュアリティで溢れていたし、インターネットでもすぐに、そして簡単に性的なものに触れることができたんです。最初はラテックス製のマスクに興味を持ちました。インターネットを見ていたら、そこに、ラテックスマスクをかぶってセックスをしたり、スキーのような何の変哲もないアクティビティに興じているカップルのアマチュア画像を見つけたんです。驚きましたね。だって、そこに写っているひとたちは私の家のお隣さんでもおかしくないわけですから!それぞれのプライベートな時間に、ひとが何をしていようと、マスクをしていたら誰にもそれを気づかれることはないんだ、ととても不思議な気持ちになりました。その画像を見たのは、19歳のとき。その世界は、一風変わったことが起こる秘密の宝物みたいな存在として私のなかで大きくなっていきました。そんな世界を絵で描いたらどんな反応が得られるだろうと考えたのが、性的な絵を描くようになったきっかけでした。

あなたの作品には男性が登場せず、女性と熊だけが描かれていますが、それはなぜですか?
キャンバス上で女性に感情移入するというのは私にとって常に自然なことでした。でも男性の顔をきちんと捉えて描くということの重要性を感じたことはないんです。描く男性に、私が個人的な感情を持っていない限りはね。そこで、男性の代わりに熊を描くことにしたんです。私の作品のなかで熊は、恋人や覗き見趣味の男、遊び相手の若い男、変態のお年寄り、または保護者のシンボルとして描かれています。単に私の趣向でもあります。絵のなかのモデルたちのあいだに関係とストーリーを描くのが好きですね。熊は見る者がそこに自らの想像でどんな人物をも思い描ける媒体なんです。黒い熊を平坦に大きく描くことで、絵のなかの他の部分で鮮やかに用いられている色彩や揺れるような大胆な筆使いから、見る者の目を休められるという効果もある。ときには目やメガネを描いてあげたり、頰を赤くしたりすることで、少しだけ熊の気分や個性を表現してあげたりするときもあります。見る人の過去によって、そこに見えてくるストーリーが違ってくる。ひとによって違うストーリーを聞かせてもらえると、とても嬉しくなります。

現在公開中のエキシビションのテーマについて教えてください。
エキシビションの準備をしていたときに、「私の作品はどれも、関係性における私の気持ちや、私の内省と妄想、今の私の生き方について描かれているんだ」と気づいて、そこから自然とまとまっていきましたね。今の私は、以前の私とは生き方がまったく違う。初めて結婚をして(2度目がないことを願います)、ヨーロッパから夫の出身地テキサスに引っ越しをして。過去2年間は変化と順応が求められる時期だったんです。絵の描き方に関して言えば、以前は大判の絵を描くときにはプロジェクターを使っていましたが、今はただ想像力と手を好き放題に稼働させて、最終形がわからない状態で描いています。

熊に恋をさせるにはどうしたら良いのでしょう?
あなたが彼のミューズであると認識させて、彼を座らせて彼の絵を描いて、愛に満ちたセックスをする——あなたがペインターならそうするべきですね。

女性がセックスの主導権を握る存在として描かれることは、あなたにとって重要なことなのでしょうか?
熊と女性の関係においては、これまで常に、女性が強く、主導権を握る存在として描いてきましたね。「可愛い女性はたいてい受け身だ」というのは完全なステレオタイプだと思うから、その考えを逆手にとっているんです。その描き方は、目に見える形で描かれず、私の頭のなかだけで描かれる場合もあるし、誇張された形で描かれることもあります。ボディビルダーを扱ったシリーズがその好例ですね。アメリカへ移住したときは、寂しくて「テキサスのこの小さな町で私はこれからどうやって生活したらいいのだろう」と悩みました。実際に、アクティブに何かできるとしたら、ジムに通うぐらいしかなかった。ジム文化——身体への崇拝とでもいうべきものを見ているうちに、女性に対する理想像に変化が生まれました。突如、割れた腹筋やたくましい太ももの素晴らしさが解ってしまったんです。同時に、スクワットをした直後にお尻の画像を撮ってInstagramやなんかで過剰にアピールしていたりするひとを可笑しくも感じたりしてね。そんなすべてをペインティングに盛り込んで、女性ボディビルダーへの憧れと敬意を表現しながらも、あまりにも行き過ぎた「キレ」への熱狂に対する皮肉も、そこに込めています。

あなたはボディビルダーを崇めるだけにとどまらず、自らもボディビルダーになりましたよね。その経緯について、少しお話を聞かせてください。
筋トレに熱中し始めると、私のペインティングにも変化が見られるようになったんです。そこで、実際に自分で大会に出てみたら、きっと試みとしてもインスピレーション源としても素晴らしい経験になるだろうと思ったんです。一番大変だったのは、大会前の高タンパク低炭水化物の生活ですね。夏だったし、ヨーロッパに帰省したりして、母と兄と一緒にポルトガルまで車で旅をしたりしたのもあって、周りがカスタードタルトやアイスクリームを食べているのを見るのが辛かったです。私は毎日ジムに行かなきゃならなくて、どこに行ってもまずジムを探しました。ジムがないときは兄がビーチで筋トレを手伝ってくれました。ロッキーにでもなった気分でしたね!
大会自体は、思いもよらないようなことの連続で、経験として大きな収穫になりました。出場者たちはみんな高級ホテルに泊まって、身体は誰もが完璧な仕上がりでしたね。大会ではプロのヘイアメイクさんがついてくれたんですが、おかしかったのは、わたしたちは大会用にブラウンのスプレーを身体中に塗っているから、3~4日はシャワーも浴びれないわけです。食べ物も、お米と魚しか食べられず、近所のスーパーで買ってきた冷凍のものを部屋の電子レンジでチンして食べていましたよ。ホテル中が魚の匂いでいっぱいになって、そのうち自分も魚になってしまったかのように感じで。ボディビルダーは、大会当日はもとより、選手によっては本番の数日前から、水分を摂りません。本気度が違う選手は「あなたの脱水具合、うらやましい!」なんて言っていておかしかったです。ビキニ一丁でステージに出て行って、審査員に身体を評価されるというのは、アーティストとしての自分にとっては不思議な感覚でした。でもそれが大会というものだというのはよく理解してましたよ。大会後の食事は、まるで自分が生まれ変わるような気分でした。そこでペインティングの新しいアイデアを得たりしました。「『ステロイド使用中のジャネコーヴァ!』っていう個展を開くのはどうだろう?」とかね。もちろん私はステロイドを使わずに大会に挑みましたが。

あなたの作品の多くはセルフポートレイトですが、作品のなかに自分を見られることに心地悪さを感じたことはありますか?
自分の想像力だけを使って女性を描いていると、私がそう意図していなくても、多かれ少なかれ絵のなかの女性は自分のようになっていってしまうんです。私が一番よく知っている女性の顔は、私自身の顔ですからね。描いている最中は気になりませんが、ギャラリーでそれが展示されて、人が絵のなかで存分にファンタジーを生きている裸の女性と私を交互に見たりするときは少し恥ずかしいですね。でもいいんです。私は現実を作品化するアーティストですから。

Credits


Text Zio Baritaux
All images courtesy the artist
Translation Shinsuke Kuriyama at WORDSBERG Inc.

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