デヴィッド・シムズ&ソフィア・プランテラ interview2/2「プロセスを楽しむ」

ファッションフォトグラファーの巨匠デヴィッド・シムズとAriesのソフィア・プランテラのインタビュー。後半は、オリジナルでいるために必要なこと、自分を問い直すことの大切さ、若者のコピー文化について。

by Sogo Hiraiwa
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21 December 2017, 7:51am

デヴィッド・シムズ&ソフィア・プランテラ interview 前編はこちら

——この写真集には形容しがたい雰囲気と不思議な美しさがあります。ファーガス・パーセルのテイストも入っていると思うのですが、彼は今回のプロジェクトにどのように関わっているのでしょうか?

ソフィア(以下S):ファーガスが手がけたグラフィックをいくつか、それに加えて彼が集めてきた画像を使っています。彼には、変な画像を探してと頼みました。この写真集では、美しいものとファーガスらしい悪趣味をミックスしたかったんです(笑)。

デヴィッド(以下D):ファーガスはさっき話していたことと呼応しているんだよね。つまり、僕たちは今回、かつて日本人が西洋に対してしたのと同じ仕方で、僕たちの言語を脱構築していった。ファーガスと僕らは、日本がアメリカの文化やイギリスのデザイン・ファッション言語を観察し、独自のカルチャーを作り上げていった歴史から学んだんだ。ファーガスはそれをグラフィックを通して僕たちに提案してきたんだと思う。こうしたコラボレーションを行う上で、自分の感性を問い直してみるのはとても重要なんだ。それこそ自由ってことだからね。いま巷では高級なハンバーガーを食べたり、プライベートジェットを持つことが贅沢ってことになっているけど、それは違う。唯一の贅沢は自由であることだよ。僕が目指しているのは地位でも成功でもなくて、クリエイティブ・ライフ。僕たちは創造的に生きるべきなんだ。

S:そのとおりね。

D:一流の評価を得ている人が偉大な芸術家というわけじゃない。評価なんて無意味だよ。良い作品は良い。文脈は関係ないんだ。西洋はずっと地位と文脈に囚われてきた。僕はソフィアみたいに服を作らないし、ファーガスのようにグラフィックを描かない。だけど、僕たちは取り組み方が似ている。風変わりな交響曲を奏でようとするミュージシャンのようだったよ。聞く人によっては「なんだこの雑音は、さっさと演奏をやめてくれ!」っていうような音楽だったかもしれないけどね。

S:(爆笑)。

D:僕は実際、ファーガスのことをよく知らないしね。でもある意味よく知っているとも言える。アイデアが合致していたんだからね。

S:ファーガスはAriesを立ち上げた当初からヴィジュアル面を担当してくれていたので、このプロジェクトへ参加してもらうのは私にとって重要なことでした。もう20年も一緒に仕事をしていますから。Ariesのテーマは古典主義、そしてモダンカルチャーの崩壊です。私の出身でもあるイタリアの文化も参照しています。それはこの写真集で表現したことでもあります。崩れた円柱や飛び回るハエ、それらはそこに暮らす人間の状態や崩壊した文明を表わすイメージです。

——3人の要素が混ざっているからなのか、この写真集はページをめくるたびに新しいものが登場します。社会の速度が加速し、イメージに溢れた現代では新しいものを作るのは以前より難しくなってきていると思うのですが、現代においても、真にオリジナルなものを作ることは可能だと思いますか?

D:うん、そう信じてるよ。もし成功するのが目的だったら、すぐに「成功するパターン」に陥いってしまうと思うけどね。いまの若い子たちは、結果に囚われているように感じる。ステータス、成功、富。そうした「結果」を欲望から取りのぞけば、きっと好きなことができるし、プロセスを楽しめるようになる。そうなれば、いつでも良い作品をつくり、オリジナルでいられるよ。だけどいまは時間がないし、成功しろっていうプレッシャーも強いよね。若い写真家は早く作品を作らないといけないと思ってるんじゃないかな。そうじゃないと報われた気がしないから。業界がそう感じさせているんだよ。社会的な成功がないと報わないかのように。だから、いまファッション写真を始めたばかりの子たちを気の毒にも思うんだ。プレッシャーがとても強いからね。僕の場合はなにも期待していなかった。キャリアについてはまったく考えてなかったんだ。レイ・ペトリが僕の写真を気に入ってくれたら、「世界で一番の金持ち」になったような心地だったと思うけどね。

S:フフフ(笑)。同感ね。

D:もしレイが認めてくれていたら、さっさと引退してたよ。僕のキャリアは偶然の産物なんだ。

S:なにかを作りたいっていう衝動だったのよね。私もデザイナーになりたいなんて言ったことなかった。クリエイティビティは何かを成し遂げることじゃない。世間からの評価や成功とも関係ない。創造性は素晴らしいライフスタイルをもつこと、そして好きなものや作りたいものを作ることなの。それからi-Dに載ること。少なくとも私にはとってはね。

D:そうだね。i-Dに写真が載るのは名誉だったね。

S:i-Dはそういう意味でもとても大切だったの。新しい才能を知ることができたし、友達がやっていることを見れたから。お金は全く関係なかったわよね。さっきデヴィッドがファッション産業の現状について話していたけど、いまは経済的な成長にしか目がない。でも当時はそうじゃなかった。個人的な成長や、好きな人たちがいいと思ってくれるような面白いものを目指してた。

D:いまは人の価値が作品の価値になってしまったんだと思う。僕たちが若い頃のコマーシャル・フォトはいまと真逆だった。信頼のおけるそうした写真のあり方がモチベーションにもなっていた。こういうことをいうと野暮で誠実ぶってると思うかもしれないけど、そうじゃない。当時ヨーロッパにいた人はみんな、僕たちと同じ考え方をしていたんだ。それからもっと重要なことだけど、もし誰かの真似をしたら、同じグループの人から避難を受けていた。だけど、いまはうまく模倣(パスティーシュ)することが美徳のように思われている。模倣するのにも多くの技術が要るからね。でもその技術は……なんて言えばいいのかな、イギー・ポップがうまく言い得ていたんだけど……。つまり彼は、いまの子たちは再現するのが上手いって言っていたんだ。いいと思うものを真似るのがうまいし、コミュニティの中ではそれが評価されるって。僕たちの世代だったら、誰かの真似をしたら避難はもちろん、罰せられもした。だからそうならないよういろんなやり方を試してね。

S:そう。私たちはオリジナルでありたかったし、いつも新しいものを作ろうとしていた。思うにいまのファッション業界はより合理的なものになってきていて、無駄を省こうとしているでしょ。それで、いろんな経験をする余裕も時間もなくなっている。だから人のコピーをするしかないのよ。

D:そのとおりだね。

S:新しいものを作るために必要な時間がないのよね。新しいものを作ろうとしたら、まず失敗して、その有様に落胆しないと。良いものはその後でやってくるんだから。だけどいまはそのプロセスを経る時間がない。お金もね。幸運なことに、当時の私たちにはその散々なプロセスを経る時間と情熱があったのよ(笑)。

——写真集のまえがきにも、「オリジナルをつくるのが難しい時代に、それを達成しようとするならオリジナルなプロセスをつくることに専念するのが大切です」とも書いていますね。

S:オリジナルなものを作るのはプロセスだと思う。いまはそれが過小評価されていて、みんなプロセスに充分な時間をかけないけどね。大きな会社で働いているニットデザイナーの友達がいるんだけど、その会社では予算が潤沢にあるから、試作で6回サンプルを作るみたいです。だから、オリジナルで良いものができるまで何度も失敗することができる。そのプロセスは買う人には見えないわけだけど。

D:信頼の問題でもあると思う。チームに信頼があれば失敗を許せるし、いろんなやり方を試せるからね。これは模倣するスキルが重宝されるようになったこととも関係していて。たとえば10人でものづくりをしていて、そのうちの5人が間違った方向に進んでいると不安に思っているとする。そうするとバスの運転手のようなもので、スピードを緩めて運転するしかなくなってしまう。リスクを取れなくなってしまうんだ。だから協働のプロセスにおいて信頼はとても重要なんだよ。作品の性質は、協力的で信頼に満ちた雰囲気から作られていくものだしね。「これどう思う?」と聞いてチームの誰かが「ノー」と答えたら、今度は彼が知っているもの、彼が満足するようなものを提案しなくちゃいけなくなる。人は馴染みのあるものが好きだから。

S:そうそう。クライアントがいる企画だと、遊ぶことが許されない場合も多くて。

D:うん、プレッシャーがかかるよね。若い人にとっては厳しい時代だと思う。

S:私は「なにこれ?」って思うようなものができたら、それは良いものだって思ってる。だって、それまで見たことないような、全く新しいものを作りたいんだから。誰かの焼き回しはしたくないの。すでに知っているものをきっかけにするのはいいと思う。「ああいう感じにしたい」「こういうものを作りたい」ってはじめたら、プロセスが思いもよらないところに連れていってくれるから。だからこそ信頼が大事なの。もしチームに不安をもった人がいたら、「それはやめよう」「無難なほうにしておこう」って言うでしょう。デヴィッドがミニキャブオフィスを提案してきたときは「Wow!」って思った。だけど、彼を信じてこう言ったわ、「Whatever!」