共有された空間の重要性:アズディン・アライア インタビュー   

パリのアトリエ兼自宅でインタビューを行った。「決してアドバイスはしません。実は審査員などを頼まれることもありますが、受けたことはありません。なぜなら、若い人は自分たちのやり方でやるべきだと思っているからです」

by Kazumi Asamura Hayashi; photos by Kazumi Asamura Hayashi
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15 November 2017, 10:35am

インタビューの場として招かれたのは、マレ地区にあるアズディン・アライアの店舗でありアトリエ、そして住居でもある建物だった。エッフェル塔の建設と同時期に建てられたというそれは、石を基調とした極めてシンプルなものではありながらどこか官能的で、アライアの作品を彷彿させるものがある。今では同じエリアにSupremeがオープンするなどヒップなロケーションだが、彼が建物を購入した1990年当時には現在の街の姿は想像できなかっただろう。建物の入り口には派手な看板はなく、よく見ないと見過ごしてしまうくらいささやかに、“アライア”と石に刻まれているだけだ。彫刻と称されるアライアのドレス。たっぷりの贅沢感を身にまとおうと、ここに来るお客たちはじっくりと時間をかけて服選びをしている。私たちを迎えに店先まで来てくれたアライア氏は、出会わせた客と気軽に会話を楽しんでいる。いうまでもなく彼らはその後も満足感と共に買い物を続けているように見えた。洋服を作っているデザイナーに直接お目にかかることは、今の時代滅多にあるチャンスではない最高の贅沢だ。

「あなたはここに座って」と、アライア氏の隣に通されながらランチを共にすることになった。堅苦しい感じは全くなく、まるで友人の家に招かれているように自然かつ心地よく始まった。現在は30人ほどいる彼のスタッフたちが一同に会することは少なくなったという。「持ち場を離れてひとつの場所に集まること、そしてみんなが平等に食事とることはとても重要なことなのです」という言葉のとおり、招かれた私たちの他にもここで働いている人々が集まり食事会が始まった。昨晩も30人ほどの夕食会が、この気取らないダイニングキッチンで行われたらしい。今回のランチには、アライアの親友でコルソコモのディレクターであるカルラ・ソッツァーニやアライアが運営するギャラリーをディレクトすることもあるドナシアン・グラウも席についている。「この空間をたくさんの人と共有することにとても意味を感じている」と彼は教えてくれた。彼が初めてパリにやってきた60年代に、アリストクラットであるニコル・ドゥ・ブレジエ伯爵夫人(La Comtesse Nicole de Blégiers)のところに身を寄せていたことがある。その際に知り合った作家であり政治家のアンドレ・マルローやパブロ・ピカソのファミリー、グレタ・ガルボなど多くのアーティストとの関係を築き、思想や芸術に触れ合う機会ができたことは、確かにアライアの礎となっているのだろう。そんな彼は今自分がその担い手として、時間と食事を共にする大切なひとときを紡ぎ続けている。

このビルディングには店舗以外にギャラリースペースもあり、そこで行われる個展は誰でも訪れることができる。同スペースでは彼のオートクチュールとRTWのコレクションも行われ、2017年7月にも6年ぶりとなるクチュールコレクションが行われたばかりだった。

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Photography Fred Rambaud. Make-up Pat McGrath. Hair Julien d’Ys
Photography Fred Rambaud. Make-up Pat McGrath. Hair Julien d’Ys

ちなみに私が訪れたときには、リチャード・ウェントワースの展覧会が行われていた。ヘイワードギャラリー、テートギャラリー、サーペンタインギャラリー、ホワイトチャペルギャラリーなど英アート界をリードするギャラリーすべてで作品を展示し、ゴールドスミスカレッジでデミアン・ハーストやヘレン・マーティンなどを教えた経歴を持つ彼は、英アート界において最も重要な人物とも称される。彫刻家としても高名なウェンワースはアライアのクリエーションの発信源であるアトリエに3年間通い、場所とその空間を共有する人々と関係しながら、写真を撮り続けたのだった。多くのコンテンポラリーアーティストと精通していて、今回のリチャード・ウェントワース展もディレクションしたグラウは、「彫刻とは身体的なものの体験が大きく関わってきます。だからこれはどこにでもあるような典型的な写真の展覧会とは違い、このハウスのためにデザインされた彫刻のインスタレーションでもあるのです」と語る。写真は彫刻の上に釘で打たれていた。展示されたのは150点のみだが、ウェンワースが3年間で撮りためた写真は3000点にも及んだという。

グラウはこのギャラリーの持つ特性について「最も重要なことは、アーティストのコミュニティであること。様々なフォーマットを通してであり、形は問いません。絵画、写真、建築、詩作、そしてデザインをする彼らの作品を展示すること、そして展示を通じて相互的な影響を受け合い、その効果を表すことです」と語る。その信念に基いて今までにも倉又史朗、メンフィス、マーク・ニューソンなどの展示を行ってきている。アライアがファッションを創作することに情熱を注ぐのと同じように、アーティストや違った分野に身を置く友人たちも自身のクリエーションに魂を注いている。そんな異なる才能たちが空間を共有することは、彼の人生において重要な位置を占めているのだ。彼のモード、美学に惹かれ、仕事に対する姿勢に共鳴を受け友情が深まったアーティストにはアレハンドロ・ホドロフスキー、ジュリアン・シュナーベルなど枚挙にいとまがない。そして、その偉大なアーティストを通じて若い世代とつながることも少なくないという事実からも、このギャラリーがコンテンポラリーのアート界にとって大きな意味をもっていることがわかる。

ランチも落ち着いた時分で、刻一刻と移り変わる世の中について尋ねると彼は「新しい時代が到来することはいいこと」としながら、それに合わせて自身も「変わらなければならない」ということを認めた。彼ほどの偉大な先駆者ですら、今日の世相を無視することはできないようだ。もっとも、それは彼が凝り固まることなく常に新しいクリエーションを目指しているからこそだが。具体的に服作りにおいては「以前はもっと直感的に服を作っていたし、着る側ももっとオープンであり直感的でした」と振り返り、今の状況を見つめて「今は少し周りの意見や女性に気に入ってもらえるか?と常に問いかけながら」作っていると聞かせてくれた。

最後に、新しい時代を創っていく人たちへのアドバイスを尋ねてみた。

「決してアドバイスはしません。実は審査員などを頼まれることもありますが、受けたことはありません。なぜなら、若い人は自分たちのやり方でやるべきだと思っているからです。それぞれのデザイナーが自分たちの道を切り開いていくことが、なによりも重要であると私は考えます」

このランチの後に行われたルイ・ヴィトンのコレクションでは、カーラ・ソッツァーニやハイダー・アッカーマンたちと楽しそうにショーに足を運んでいるアライアの姿を目にした。そんな光景に、名声や虚栄に囚われることなく、実直に創作活動と相対しながら生きることを楽しむ彼のモットーが見て取れた。彼のファッションに対する愛情や好奇心は常に開かれており、創造することを愛する者への祝福を忘れることは決してないのだ。

Gallery Alaïa

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