気候正義を求めて:世界中の学生たちが学校をストライキする理由

スウェーデンの一人の少女、グレタ・トゥーンベリから始まった気候変動に対する対策への抗議運動「#FridaysForFuture(未来のための金曜日)」。その盛り上がりは東京へも伝播している。今年2月に国会議事堂前で行なわれた、日本での第一回目の〈スクールストライキ〉をレポート。

by Momo Nonaka; photos by Cailin Hill Araki
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24 April 2019, 10:32am

この記事は『i-D Japan No.7』ヒーロー号から転載しました。

過去数十年にわたって、都市の路上を埋めつくして社会の現状への異議申し立てをおこなう若者たちのイメージは、60年代末から70年代の学生運動と強く結びつけられてきた。2010年代も終わりに近づいたいま、そのイメージを上書きすることになりそうな大きな波がヨーロッパを覆いつつある。もちろんそういった公共空間での示威運動は、80年代以降もさまざまなイシューをめぐって常におこなわれてきた。しかし、現在盛り上がりをみせている気候変動のための「スクールストライキ」は、その猛烈な勢いと、ネットを駆使する中高生たちが先導しているという点において、街の風景を新しい色に塗り替えているようだ。

「i-D」UK版は、イングランド、スコットランド、オーストラリア、米国、オランダ、ウガンダでこの運動に携わっているアクティヴィスト8人、下は10歳から上は22歳までを紹介した。先の2月15日にはイギリスの60以上の場所でさまざまなアクションがおこなわれ、およそ1万5000人が参加したと「ガーディアン」紙は報じている。3月15日の世界一斉行動「気候変動のためのスクールストライキ」には、120以上の国で合計150万人もの人々が参加したそうだ。

この国際的なムーブメントの口火を切ったのは、昨年の夏にスウェーデンの少女グレタ・トゥーンベリがたったひとりでおこなった国会議事堂前でのシッティング(座り込み)だ。現在Twitterのプロフィールに「アスペルガー持ちの16歳の環境活動家」と記しているグレタは、これまで自閉症と拒食症を患って引きこもっていた時期もあり、すすんでリーダーシップを取る社交的なタイプでは決してなかったという。彼女は溶けゆく北極の氷と白熊や海洋プラスチックの影響で命を落とす海獣たちについての教育ビデオを見たのをきっかけに地球の未来を本気で憂うようになり、まず両親を説得して環境をなるべく傷つけないライフスタイルを実践させることからはじめた。スウェーデンでは名の知られた歌手である母親は、娘のためを思って飛行機に乗るのをやめた。

そうして2018年8月、グレタは地球温暖化へのすみやかな対策を求めて、総選挙の投票日までの2週間にわたって座り込みを敢行した。アメリカではこの年の2月、フロリダ州のマージョリー・ストーンマン・ダグラス高校で銃乱射事件が発生し、17人もが命を落とすことになったのをきっかけに、エマ・ゴンザレスをはじめとする同校の学生たちの主導による大規模な銃規制法強化運動が組織されていた。グレタはそうした行動に背中を押されてスクールストライキを思い立ったという。

グレタの呼びかけに彼女と同世代のティーンエイジャーたちがすぐさま共鳴した。

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Photography Cailin Hill Araki

「#FridaysForFuture(未来のための金曜日)」を謳い、ヨーロッパを中心に世界中で毎週金曜日にデモや集会が組織されはじめた。この運動は大人たちが無視できない勢いで広がり、12月、グレタはポーランドで開催された国連の気候変動枠組み条約締約国会議(COP24)に招待された。今年1月にはスイスでの世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)にも招かれた。プライベートジェットで集まった世界の要人たちとは対照的にスウェーデンから鉄道で32時間かけて到着したことも、「一部の豊 かな国に暮らす人々(世界人口のおよそ10%)だけで地球からの温室効果ガス全体の約半分にあたる量を排出し、結果的にその他の貧しい国の人々に大きな負担を押しつけているのだから、その責任を果たすべきだ」という主張に説得力を与えた。

日本もここでいう「一部の豊かな国」のひとつだが、環境問題への取り組みは決してすすんでいるとは言えない。また、2011年の東日本大震災以降、路上での抗議という手段を取る若者はあきらかに増えているが、その規模もメディアでの扱いも諸外国に較べるとまだ小さく、広く理解と共感を得るのが難しい状況がある。だが、それでもこの国際的な「気候正義(クライメイト・ジャスティス)」運動に連帯する若者たちが声をあげはじめた。

あたたかな陽射しに春の兆しが感じられるものの吹く風はまだまだ冷たい2月最後の金曜日の午後、国会議事堂前で第1回の「Fridays For Future Japan」アクションがおこなわれた。プラカードを手に集まったのはおよそ20人。告知期間は1週間ほどしかなかった。「はじめからうまくいくとは思っていません」と、発起人のひとりで大学3年生の小出愛菜は言う。中学生の頃から環境問題に関心を寄せ、環境NGO「フレンズ・オブ・ジ・アース」(FoE)でインターンをしている彼女は、このたびはじめて自ら先頭に立って行動を呼びかけた。

就職活動中の今井絵里菜は、企業の面接に出席したあとそのままリクルートスーツ姿で国会前にやってきた。神戸大学に学びながら環境NGO「Climate Youth Japan」の共同代表を務めている彼女は、一昨年ボンで開催されたCOP23にも参加済みだ。高校2年生の酒井功雄は、アメリカに1年留学した際に環境科学のカリキュラムが用意されていたのをきっかけに地球の現状に危機感を持つようになったと語った。

中高生が中心になっている海外での運動とは異なり、この日のアクションに参加していた若者は彼を除いてほぼ全員が大学生とのこと。参加者全員にマイクが回され、環境団体「グリーンピース」および「350」の大人たちや、たまたま海外から旅行で来ていて主催に賛同した人々なども加わって、およそ1時間のアクションは終了した。

ごく小さな集まりだったが、国際的に話題になっている運動への日本からの反応として報道機関からの注目は決して低くない。現場には参加者のおよそ倍にあたる人数の報道陣が集まっていた。手書きのプラカードを掲げて立つ10代から20代の若者はほぼ女性、それに立派なカメラを向ける新聞記者や通信社の大人たちはほぼ男性と、男女比が反転した状態なのも、私たちの日常を構成する力の不均衡を象徴しているようで印象的な光景だった。若い女性たちには言いたいことがたくさんあるのに、職業としてそれを大きなメディアで報道する立場にあるのは男性多数というのがいまの日本の現実なのだ。そして、いわゆる先進国の経済優先の政策が地球全体の環境を傷つけているのに、その被害をまっさきに受ける発展途上国の貧しい人々は、そのことを伝える手段であるカメラやインターネットになかなかアクセスできないというのが世界の現実である。

さまざまな構造的不公平がさまざまなレベルで絡みあい、持たざる者の生を圧迫している。そこで小さな声に耳を傾け、正義を求める一歩を踏み出した勇気ある若者たちに、大人たちが一方的に希望を託すことはもはや許されないだろう。求められているのは反省と、状況改善のためのすみやかな行動なのだ。

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Text Momo Nonaka
Photography Cailin Hill Araki