特集上映「サム・フリークス Vol.2」:『キス&ハグ』『シュガー』

「はみ出し者」映画の特集上映第二弾が、10/20(土)に渋谷のユーロライブで開催。今回はどちらもジャパンプレミア。

by Takuya Tsunekawa
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18 October 2018, 7:10am

「サム・フリークス Vol.2」では、『人間の値打ち』『歓びのトスカーナ』のイタリアの名匠パオロ・ヴィルズィ監督の日本未公開のクリスマス映画『キス&ハグ』と、2019年にブリー・ラーソン主演のマーベル映画『キャプテン・マーベル』の公開が控えるアンナ・ボーデン&ライアン・フレック監督コンビの日本未公開の傑作『シュガー』が上映される。両作ともジャパン・プレミアとなる。

『キス&ハグ』は、赤の他人を要人と取り違えるニコライ・ゴーゴリの小説『検察官』から着想を得たコメディ。借金まみれになってトスカーナの片田舎でダチョウ牧場を立ち上げた集団の話と、妻子から去られレストラン経営も壊滅的な状況に陥った男の話とがクリスマスに交差する群像劇だ。
自殺しようとするも死に損なったレストラン経営者の男は、助成金の融通のために視察へやってくる予定の同姓同名の地方議会議員と勘違いされ、そのまま牧場の人間たちから過剰な歓待を受ける。「変わり者や少し精神に異常をきたしている人を引き寄せる体質なのかもしれない」とパオロ・ヴィルズィは自身を語るが、彼の本分は、陽気で賑やかなイタリア式喜劇にある。現在のイタリア映画界を代表する人情喜劇の名手は、塞ぎ込んだナイーヴな人間を騒々しい一家(世界)に入り込ませることで、いわばそのようにして人生の袋小路から彼を引きずり出すことで、喧騒の果てにおかしみを見出し、彼らの間で生きる力が伝染していく様を鮮やかな手つきで描いてみせている。グロリア・ゲイナーの「I Will Survive」で締めくくる終幕の爽やかな感動は、私たちを充実感で満たしてくれるだろう。

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『シュガー』は、長編デビュー作『ハーフネルソン』でライアン・ゴズリングをアカデミー賞主演男優賞ノミネートまで押し上げた男女ペア監督アンナ・ボーデン&ライアン・フレックの監督第二作。
この映画は、ドミニカのスラムで生まれ育ったマイナーリーグの投手“シュガー”が、家族の期待を一身に背負ってメジャーでスターになるべく奮闘する姿を描いた野球映画として進行するが、実際のところ、インド人初のメジャーリーガーを誕生させた米国のスポーツ・エージェントの実話を基にしたディズニー産野球映画『ミリオンダラー・アーム』を裏返したような趣がある。『ミリオンダラー・アーム』や『マクファーランド 栄光への疾走』といったマーク・シアーディ製作のディズニー産スポーツ実話ものには、“アメリカン・ドリーム”の影に白人男性がアジアやヒスパニックの貧困層の少年から素質を見出し選手に育て上げる構造が見えてくるだろう。

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ドキュメンタリー的な手法も盛り込み、演技経験のない実際に野球を挫折した者を起用した本作からは、アメリカン・ドリームを掴んだ一握りの移民の物語ではなく、そこからこぼれ落ちた移民の語られざる物語が立ち上ってくるのだ。野球選手製造工場と化した大リーグの内幕を暴いていくのである(映画評論家の町山智浩が指摘するように、本作の題名にはかつて米国がラテンアメリカを軍事的に植民地にしていた際に黒人奴隷たちに作らせていたサトウキビの意味合いが込められている)。そして同時に、不安や重圧と孤独に戦う“甘ちゃん”を通して、野球や移民の経験の枠を超えた誰もが抱いたことのある普遍的な憂鬱な感情の領域にまで本作は踏み込んでいる。成功至上主義から外れた者に常套的な憐憫を寄せず、現実的で公正な描写を徹底している本作は、そこから脱却した個人の生き方(幸福)や精神的健康を提示しているのである。それは続くボーデン&フレックの監督第三作『なんだかおかしな物語』にも引き継がれていると言えるだろう。マーベル・スタジオのプロデューサーであるケヴィン・ファイギも彼らの演出力を称賛し、ブリー・ラーソン主演の『キャプテン・マーベル』に登用した。必見の隠れた傑作である。

どちらも世界的な評価が高まる注目のフィルムメイカーの最高傑作の一本であり、今後のソフト化の予定もないため見逃す手はない。ぜひ駆けつけてほしい。

なお、本イベントはすべての子どもたちが社会から孤立することなく暮らしていけるようになることを目的とした学習支援や自立支援のために、有料入場者1名につき250円が認定NPO法人「3keys」へ寄付される。

サム・フリークス Vol.2
日時:2018年10月20日(土) 会場:ユーロライブ(渋谷) 料金:2本立て1500円(入れ替えなし・整理番号制)
12:45~ 当日券販売開始
13:00~ 開場
13:15~『キス&ハグ』上映
15:10~『シュガー』上映

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