「大統領は女性と男性が交互になったらいい」:ミシェル・ラミー interview

リック・オウエンスの公私にわたるパートナーであり、クリエイティブでボールドなスピリットで人びとを魅了するミシェル・ラミー。彼女は女性のエンパワメントを語るに欠かせない存在である。常に世界中でカルト的な人気を誇る、ミシェルの瞳にうつるものとは?

by Gloria Maria Cappelletti; translated by Atsuko Nishiyama
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31 October 2018, 5:15am

この記事は『i-D Japan No.6』フィメール・ゲイズ号から転載しました。

i-D Japanの「フィメール・ゲイズ」号のために、ミシェル・ラミーにインタビューして記事を書いてほしいと依頼を受けた私は、なんのためらいもなく引き受けた。しかしその数秒後には、パソコンの前で苦しむ自分の姿が頭に浮かんでいた。陳腐なステレオタイプを避けるため、彼女にふさわしい言葉を探す。事実、ミシェルについて書かれた記事はすでに数多く存在する。彼女はとてもオープンな人で、これまでに公開されたインタビューのなかで何度も自分のことを話してきた。彼女が法律を学んでいたことや、90年代ロサンゼルスのアンダーグラウンド・シーンの中心人物だったころにキャバレーでストリップショーをしていたことなどは、すでに周知の事実だ。その後カルト的な人気となったファッションブランド、Lamyをスタートさせ、リック・オウエンスを雇った。のちに彼はミシェルの仕事上のパートナーになり、夫になった。さらに、ハリウッド大通りを少し外れた駐車場で彼女がオープンさせたランドマーク的なレストラン<Les Deux Cafes>の存在も知られている。ベネチア・ヴィエンナーレ国際美術展で発表した「Bargenale」や娘と始めたバンド「Lavascar」、そしてセルフリッジズと組んだ「Lamyland × Selfridges」など、彼女のパフォーマンスやインディペンデントなアート・プロジェクトのことも。それでもやはり、フランス生まれの起業家であり、ラディカルなクリエイターでもある彼女を明確に言い表すのは不可能に近い。そうしたところできっと、正しさも敬意も欠くものになってしまうはずだ。いずれにせよ、並外れた強烈さと鮮やかなオーラを放つ彼女の魅力的な人間性に触れることのできる野心的な仕事に、私は興奮していた。

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—— 今回のポートレイトを担当した、ロージー・マークスとの撮影はいかがでしたか?

彼女はまさにいまが旬の写真家ね、25歳ですって。ロンドンではHotel Café Royalに泊まっていたんだけど、スパの横に素敵なプールがあって、好きなだけそこにいられたの。彼女がそこで水中カメラを使って撮りたいと言うので、ふたりともプールに入った。水の中ではフラッシュが光るのしか見えなかったから、どんな写真になったのかは……あとからのお楽しみ!

—— 水にはすごく豊かな要素がありますよね。まさに「フィメール・ゲイズ」号にぴったり。

そう、この記事に関わるのはみんな女性。私も、写真家も、あなたも。それにこの号全体が女性にまつわる特集と聞いて、とてもワクワクして。だからやることにしたの。

—— あなたはこれまで、ご自分のもつ興味の多面性を反映させた小宇宙を創り上げてきましたよね? ファッション、レストラン、ヴィジュアルアート、パフォーマンス、ボクシング、そのほかにもたくさんの領域にわたって。私はとりわけそこに、家族のような親密なつながり、同じトライブといえるような人びとの広がりや、人生への祝福などを感じ取っています。あなたの仕事は、現代的なかたちでのシャーマニズムといえるのではないでしょうか?

シャーマニズムというのはいい表現ね。私がやっていることのリストを精神科医に見せたら統合失調症(スキゾフレニック)的と言われるかもしれないけれど。シャーマンというのはそれよりずいぶん素敵なとらえ方に思えます。

—— あなたは、たくさんの人びとやあなたが生きるうえで興味をもったあらゆることを結びつけ、まとめ上げる偉大なエネルギーに恵まれていると感じます。とてもユニークで貴重な力です。それはさまざまな側面をもつ、女性的な力でもあると私は思うのですが。

「私には強いエネルギーがある」と、長いあいだにたくさんの人から言われてきました。私が思うに、それは好奇心や人と混ざり合いたいという想い、人と一緒にいたいという誘惑からくるもの。何かを行うときに大切なのは、誰かと一緒にやるということ。私は古風(トラディショナル)な母親ではないし、伝統的な形の家族を作りたいという気持ちもないけれど、でも“世界の母”のような存在にはなれると感じています。私たちはみな同じトライブの一員だと考えている。部族というのが、一緒に移動して何かをするものであるという考えは興味深く思えます。どこに行っても、何か違うことをして、ひとつのことから別のことへ、飛び移るようなもの。でも私の頭のなかでは、そこには連続性がある。エネルギーが流れるとき、何かものごとが起きる。私は紙の上で予定を立てるのはひどく苦手なんです。ただどこかへ出かけて行って、人に会う。アイデアが生まれて、一緒に何かしたいと思う。それで何かが起きる。私は流れに乗るだけなの。

話をしながら、私はミシェルが海の女神として流れに乗っているところを思い描いていた。長く艶やかな髪をした彼女は、私の想像のなかでは魚の尾びれを持つ女性になっている。身に着けているリック・オウエンスのドレスも、それを思わせる。膝下から足元にかけてタイトで、マーメイドの戦士を想起させるようなフォルムだ。陸の上にいるミシェルは、さまざまな場所へ行き、あらゆることをする。彼女は疲れを知らない。まるで海の波のように、休むことがない。2015年、彼女が深海の生物として描かれていたことを思い出す。水面下数百メートルに住む暗闇の悪魔、発光する頭部を持った魚だった。FKA twigsによる『M3LL155X』というEPのミュージックビデオのなかでのことだ。FKA twigs自身が監督したこの映像で、ミシェルは第三の目のごとく頭に光るアンテナをつけ、海底の生き物に仕立てあげられている。やがて彼女のクリエイティブな力が姿を見せ、彼女は口を開けて摩訶不思議な3Dの胎児を生み出すのだ。

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—— 2017年のベネチア・ヴィエンナーレ国際美術展で、あなたのプロジェクト「Bargenale」のボクシング・リングを見ました。目の前に海が広がる場所に置かれていましたね。ボクシングに出合う場としては最高で、かつ予想外でした。ごく最近もロンドンでボクシングのプロジェクトをやられていましたが、いかがでしたか。

ボクシングは大好き。もう35年以上やっている。とにかく素晴らしいの。セルフリッジズに住み込んで、コミュニティのためのボクシングジムをまるごと作りました。このプロジェクトは公共に開かれたパフォーマンス・プログラムです。以前はボクシングは男性のものと考えられていたでしょう。いまは女性がやるものなの。男性の中には、性転換手術をして女性と戦いたいと思う人もいるくらい。ボクシングはつまり、その人自身が象徴することの比喩なんです。ダンスのようなものね。私にとってボクシングは戦いではなく、とても優れた運動と観察の手法です。実際に相手の目を見なくてはいけない。セルフリッジズではコミュニティの人たちを招き、誰でも参加できるようにしました。それにボクシングは、ストリートのキッズたちに生きる意味を教える方法でもありました。誇りをもたせ、ボクシングのルールを学んでもらう。ボクシングは単なるスポーツではなく、それ以上のもの。高貴な芸術であり、紳士たちの、そして現代では気高い女性たちにとっても、鍛錬を身につけるためのたしなみでもあります。

—— ボクシング・リングにいるあなたを見てみたいです。きっとよく鍛錬されて、ユニークなスタイルをおもちなんでしょうね。

パンチ力よりも、スタイルを重視しているから(笑)。ボクシングで喜びを感じられるの。自分の足で立って、力を感じることができる。誰かの近くでダンスを踊っているみたい。お互いの目を見て、「いまだ」という瞬間に手を伸ばして触れる。それにボクサーの男性たちは見た目も格好いいでしょ!

ミシェルの運命は、ポジティブなエネルギーや欲望と愛に結びついている。そこで私からの最後の質問では、野生的でオープンな愛について聞いてみようと思った。彼女のまなざしのなかでは、リック・オウエンスとして現れているものについて。ふたりは間違いなく、ファッション界でもっともアイコニックで驚異的なカップルに数えられる。しかもとても現実的なのだ。

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—— リック・オウエンスとはどれくらいの時間をともにしてきたのでしょうか。初めて彼を見たときの印象はどんなものでしたか。一目で恋に落ちたのでしょうか?

ええと、あれは1990年。私はLAのダウンタウンに自分の会社を持っていて、メンズコレクションをやりたいと思っていました。その当時一緒に働いていたリック——そう、彼もリックという名前だったの——が素晴らしいパタンナーを知っているから彼に仕事を頼もう、ということになり、やって来たのがリック・オウエンス。彼が面接に来て、LAのリトル・トーキョーで会ってね。スカルの柄のバンダナを巻いて、どこかメキシコ系っぽい格好でね。彼の母親がネイティブアメリカン系メキシコ人なの。それもあってか、そんなおもしろいスタイルをしていて。彼を採用して、結局は最初にいたリックは会社から追い出すことになってしまった。ちょっとしたドラマだったわね。とにかくそのあと私たちは、一緒に踊ったりお酒を飲んだりするようになったの。一目惚れだったのかもしれません。でも予想もできなかった(笑)。それから27年も一緒にいることになるなんて、まったく思いもよらなかった! 私たちは一緒に会社で働き始めました。リックが私の話す言葉をひとつも理解していないのはわかっていたけれど、私たちには共通点がたくさんあって、分かり合うことができの。あるとき私はフランスに行かなくてはいけなくなって、ひとりで行こうとしていた。でも彼が自分もパリに行くから、現地で会おうと言ってきたんです。「生地を探さなきゃいけない」とかなんとか言って。それで彼もやって来て、何度かパリでも会ったの。私はニューヨークに、彼はLAに帰るという日の前夜、女友だちが迎えに来てくれるのを待っていると、ヴォージュ広場の部屋のドアを「ドン! ドン! ドン!」と叩く音がして。開けてみると酔っぱらったリック・オウエンスが立っていた。彼はビュン! と入って来て「僕は君が大好きだし、君も僕が大好きだろ!」って。そんなふうにして、私たちは出会ったんです。

—— 最近の数年間で、「女性のまなざし(フィメール・ゲイズ)」というものについてたくさんのことが言われてきました。女性と男性との平等性とはなんでしょうか。

女性たちは男性と同じではなく、異なる存在。なぜイコールになりたがるのか、どんなふうに同じにしたいのか。同じになることなんて想像もできない。けれど、政治的には平等性が必要です。例えば、大統領になる人物は多様であるべき。女性と男性が交互になったらいい。そういう文脈でなら、同等であることを考えてみることができる。男性たちが違いを作り出してきたのは、女性たちを恐れてきたから。そんな男性たちはいまや最後のロープにしがみついている。子どもや若者の世代から、新しい考え方が始まらなくては。まだやるべきことはたくさんあります。歩みは少しずつでも、もっともっとおもしろいことができる、と示す力を私たちはもっている。違いや変化を祝福することもできるはず。そういう意味で、例えば性別の適合手術もとても重要です。さまざまなジェンダーの可能性が混在していることを想定し、そのすべてを尊重しなくては。

——「フィメール・ゲイズ」というテーマのなかでもっともデリケートなトピックのひとつは、母性ではないでしょうか。母であることは、女性であることを必ずしも決定づけるわけではないという前提があるにせよ。いずれにしても、母であることは決定的な人生経験ですよね。母親になったことで、あなたの人生はどんなふうに変わりましたか。あるいは娘のスカーレットさんが生まれたとき、人生のとらえ方に変化はありましたか。

母親になったとたんに、責任が生まれる。それが私の人生を変えたの。いまはそれを俯瞰的に見ています。でも当時の私にはそれが自然なことだった。私は母親になりたくて、子どもの父親の存在はそれほど重要ではなかったの。だから彼はカリフォルニアに住んでいたけれど、私はひとりで娘を育てた。いま考えてみると、そのせいで娘は家族がバラバラになる苦しみを味わった。幸いにも彼女は自分なりの道を見つけて、いまはアーティストになっています。何にせよ、私はいつも母親としての責任感をもっていました。

Credit


Photography Rosie Marks
Hair Akiko Kawasaki
Make-up Michelle Dacillo
Location Hotel Café Royal

MICHÈLE WEARS ALL CLOTHING MODEL’S OWN.

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