イメージ、幽霊、映画:レベッカ・ズロトヴスキ監督が語る 『プラネタリウム』

フランスの新しい女性監督たちの絆、デジタル時代に心霊映画に挑むということ……。フランス映画界の俊英レベッカ・ズロトヴスキが、ナタリー・ポートマンとリリー=ローズ・デップが姉妹役で共演した本作を語る。

by Takuya Tsunekawa
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12 September 2017, 6:02am

「映画のタイトルは曲のタイトルのように、何かイメージを与えられるものをいつもつけたいと思っています。"プラネタリウム"という言葉が人々に与えるイメージがとても好きなのです。『理由なき反抗』(55)の中にプラネタリウムが出てくるシーンがあります。それはティーンエイジャーの少年たちが自分たちの人間関係の構図をそこに思い浮かべながら見ている場面なのですが、暗闇の中で人工的な星を見ているという意味では、映画館とも似ていますよね。暗闇の中で人工的に作られたストーリーを見ているという意味でも"プラネタリウム"という言葉の響きはつながると思ったのです。また、星座がわかれば読めますが、わからなければそれがミステリアスに見える。あるいは星を見ることで何か将来が読めるかもしれない。そういう意味合いを込めて『プラネタリウム』というタイトルにしました」

第一作『美しき棘』(10)、第二作『グランド・セントラル』(13)、そして第三作『プラネタリウム』と、シンプルで抽象的な言葉の持つ美しい響きが、作品に対するイメージを豊かに喚起させる。この時点で観客はすでにレベッカ・ズロトヴスキの術中にはまりかけているのかもしれない。彼女は、現代世界に漂う不穏な何かを掻き立てるようにして観る者の心を巧みに捉えるのだ。

レア・セドゥを主演に迎え、弱冠30歳で発表した長編デビュー作によって、ただちに才能が認められ、以来、フランスで最も将来有望な映画作家のひとりとして注目を集めてきたズロトヴスキが、初めてハリウッド女優を主演に迎えた映画『プラネタリウム』が9月23日(土)より公開される。

映画の舞台は1930年代のパリ。死者を呼び寄せる降霊術で話題を集めるアメリカ人スピリチュアリストのバーロウ姉妹が、彼女たちに魅せられたフランス人映画プロデューサーのコルベン(エマニュエル・サランジェ)から持ちかけられた世界初の心霊映画の製作に挑む独創的なミステリーだ。降霊術ショーをビジネスとして取り仕切る野心家の姉ローラをナタリー・ポートマン、純粋に霊の存在を信じている神秘的な妹ケイトをジョニー・デップとヴァネッサ・パラディの娘であるリリー=ローズ・デップが演じている。

© Les Films Velvet - Les Films du Fleuve - France 3 Cinema - Kinology - Proximus – RTBF

「ナタリーはもともと共通の知人を通して知り合いだったので、プロジェクトの当初から参加していました。彼女がフランスに引っ越してくることも知っていましたし、かねてよりお互いずっと何かで一緒に仕事をしたいと思っていたので、今回、念願叶って組むことができました。ローラというキャラクターは、新しい国アメリカから歴史のあるヨーロッパのダークな時代にやって来るという設定だったので、そういう意味でもナタリーはぴったりでした。さらに彼女が引っ越して来た時期は、ちょうどパリなどでテロが起こっていた頃で、反ユダヤ的な考え方が再燃してきていたときでもあったので、ナタリーの目から見たフランスないしヨーロッパと、彼女が演じるローラの目から見たヨーロッパが重なるとも考えました。一方、リリー=ローズが演じたケイトという役のキャスティングは難航しました。というのも、当初は役の年齢に合った13~14歳ぐらいの少女を探していたのですが、ナタリー相手に共演するとなると無名の人では観客の目がすべて彼女に向かってしまう恐れがあったためです。なので、なるべく近いレベルの人を探していました。そんなときにたまたまナタリーがリリー=ローズの写真を送ってきてくれました。私はその頃まだ彼女のことをまったく知らなかったのですが、リリー=ローズを見た瞬間、もちろん美しいだけでなく、見た目もナタリーと似ているし、しかもナタリーとある意味で似た人生を歩んできた──小さい頃からスポットライトを浴びて、知名度の高い生活を送ってきた──ので、同じような経験をしてきたという意味でもバランスが取れると思いました。なので、リリー=ローズも即決でした」

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『プラネタリウム』の物語は、ふたつの実話からインスピレーションを得て生まれている。ひとつは19世紀後半にスピリチュアリズムの先駆者としてアメリカで名を馳せたフォックス三姉妹であり、もうひとつは20世紀前半に破綻しかけていたフランスの映画製作会社パテを立て直した名映画プロデューサーのベルナール・ナタンである。本作では、年代も場所も異なる実在の人物をひとつのストーリーの中に組み合わす試みがなされているのだ。

「最初のスタート地点はフォックス姉妹の話だったのですが、そこから脚本を書き進めるうちに自然とそのアイデアが浮かびました。まず女優たちを集めてトランス状態に陥らせるという設定を思い描いて書き始め、映画プロデューサーをそこに加えたいと考えたときにベルナード・ナタンのことを知り、ふたつの話を結びつけました。なので、その流れの中でちょっと変わったストーリーが出来上がったのですが、それによって真実が生まれてきたと思います。この映画の姉妹は人々に何かを信じ込ませて、それによって新しいストーリーが生まれます。あるいはプロデューサーの方も映画を作ることによって新しいストーリーが生まれる。つまり、ともにストーリーテリングという共通点があると言えます。ほかにも反ユダヤやホモフォビアなどがストーリーに込められているので、様々な要素を合わせたことで新たなストーリーテリングがどんどん生まれてきたと感じています」

これまでズロトヴスキは、『美しき棘』では死線に挑戦するバイクのサーキット、『グランド・セントラル』では原子力発電所と、いつも死や恐怖が目に見えない形で漂っている状況下に登場人物を置いてきた。今回はスピリチュアリズムをフィーチャーし、時代もファシズムや反ユダヤ主義が台頭する1930年代のフランスに設定されているが、そこにもまた目に見えない恐怖というモチーフは通じている。なぜそのような状況に惹かれているのだろうか。

「たしかにそのような見えないものを映画にすることは私のコンセプトのひとつでもあるので、バイクや原発、そして幽霊という目に見えないものの怖さをあえて描いています。だから逆に、セット・デザインなど目に見える部分をはっきりさせるよう心がけています。バーロウ姉妹の見た目もちょっとセクシーに工夫して見せた上で、そこの裏にある恐怖を上手く描き出そうと試みました」

『メゾン ある娼館の記憶』(12)や『サンローラン』(15)でセザール賞最優秀衣装デザインを受賞したアナイス・ロマンが衣装デザインを担当した本作は、30年代のコスチューム・ドラマとしても見応えがあるだろう。

しかし『プラネタリウム』にはズロトヴスキ作品に通底するコンセプトが流れていながらも、死者との交流という要素は、共同脚本を手がけているロバン・カンピヨらしい世界観でもあるのではないだろうか。彼の長編第一作である『奇跡の朝』(04)は、死者の蘇生をリアリスティックに描き出した作品だった。

「ロバンの次回作は死にゆく人を描いた作品でもあるので、たしかにそう言えると思います。『奇跡の朝』でも彼はそのような部分をとても自然にリアリズムを含めて描いていて、素晴らしい傑作だと思っています」

ジャパン・プレミアに合わせてズロトヴスキとともに来日し、以前より彼女の作品のファンでもあったというナタリー・ポートマンは、本作の物語が「ゴースト/霊的なものに触れているのと同時に、死者といういまは存在しないものとコミュニケーションをとる欲望から作られているものであった」点に惹かれたことを明かしているが、ズロトヴスキが『プラネタリウム』で心霊、ひいては映画の魔術というものに関心を寄せていることは着目すべきだろう。ここで思い出されるのは、時を同じくして、オリヴィエ・アサイヤスもまた『パーソナル・ショッパー』(16)で心霊映画に新たにアプローチしていたことだ。あるいは、黒沢清が初めてフランスで撮った『ダゲレオタイプの女』(16)もそこに含めていいかもしれない。目の前の現実をそのまま表象するような自然主義的な作品が支配的だったであろう近年のフランス映画の中で、この事象は興味深い。

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「映画というものが今日、見方の面でも作り方の面でも過去とは異なるものになってきつつあると思います。たとえば、今までのように35mmのフィルムで撮影していた場合は、そこに実際に何かが存在しないとフィルムには収められませんでした。しかし、いま時代はデジタルになり、実際に目の前に存在しなくても加工して撮ることができるようになってきています。ある意味、トランプがフェイク・ニュースと言っているのも同じ流れにあるかもしれません。勝手に作り上げてしまうことができるのです。それは幽霊をクリエイトすることに関しても言えると思います。存在しないけれども、そこにある意味では撮れてしまう。たとえばここに私がいないとしても、私がいるかのように撮影できてしまう。そのように映画自体が変化してきていることが、今回の映画のテーマにも何かしら影響しているのかもしれません。オリヴィエや黒沢が幽霊をテーマにしているのは、そのイメージを作る方法自体に疑問を投げかけているのではないかと思います。『パーソナル・ショッパー』の中で幽霊と交信するときにケータイ電話を使いますよね。やはり何かテクノロジーを使わなければ幽霊とつながることができないわけです。『プラネタリウム』の中でも幽霊を撮るときに新しいカメラを使うシーンがありますが、偶然にもどちらにおいても幽霊とつながるためには何かしらそういう媒体となるものが必要という描き方をしているのは面白いなと思っています」

さらに、彼女はこれまでの手持ちカメラによる生々しいタッチから、『プラネタリウム』ではヒッチコック風のスリラー演出にも挑戦している。しかし、彼女の作風はやはりハリウッド式の三幕構成の脚本とは趣を異にするものだ。日常と危険な非日常との狭間で、いつもハッピーエンドとは言えない不穏な終わり方を迎えることも特徴と言えるだろう。

「たしかに私の作品は完全なハッピーエンドとは言えないかもしれません(笑)。今回は、共同脚本のロバンともテーマに誠実であろうと最初から話し合っていました。いわゆるクラシカルな語り口の作品ではなく、より自由なやり方で伝えたいことを伝えられる作品にすべく作り上げていきました。たとえばアメリカで言えば、ポール・トーマス・アンダーソンはとても自由に映画を作っていると思います。『マグノリア』(99)や『ザ・マスター』(12)のような作品の作り方を私も目指しています。というのも私にとって、映画とは、夢をイメージにして思い描いて具現化していくものだと思っているからです。私はすごく現実的な人間で、映画が自分の中にある最も非現実的なことなのです。なので、どういう作品かプロジェクトを説明しやすいので言ってしまうこともあるのですが、何かジャンルを決めて取り掛かるのが苦手です(笑)。最初からどういうジャンルの映画か決めつけるのではなく、作り上げていく中で体験していくことを大切にしています」

「『プラネタリウム』を観るときには、すべてを受け入れて、夢というものは何かを考えてもらえたら嬉しいです。ナタリーとリリー=ローズの美しい姿を満喫し、劇場を後にしたときに世界が違う風に見えるようになることを願っています」

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また特筆すべきは、1980年生まれのズロトヴスキの同世代には、『トムボーイ』(11)のセリーヌ・シアマ(1980年生まれ)や『未来よ こんにちわ』(16)のミア・ハンセン=ラヴ(1981年生まれ)、『あさがくるまえに』(16)のカテル・キレヴェレ(1980年生まれ)など、国際的に高い注目を集めている革新的で優れた新鋭女性監督がフランスから生まれていることだ。フレンチ・フィメール・ニューウェーブとも形容されるこの新たな若い世代の特徴は何なのだろうか。

「それはわからないわ(笑)。だけど、フランスの映画業界というのが女性監督にとって優しいところはあると思います。商業的な映画を作らなければいけないというプレッシャーがあまりないため、女性監督にとってはとても有利で、またみんなと知り合いでつながりが強い側面もあります。60年代にフランスでひとつのウェーブがあったように、いまは女性が台頭する新たなウェーブが生まれてきているのかもしれません。私たちは大体みんな同じような学校に通って、パリで育っています。そのようにバックグラウンドが似ていることもあるので、お互い協力し合うこともできる。ただ逆に、男性の場合はそういうものがなく、より孤立しています。なので、いまの時代に女性で監督していてラッキーだったとも感じています」

中でも、同じフランスの国立映画学校フェミスの脚本コース卒業生であるセリーヌ・シアマには本作の撮影前に脚本を読んでもらったほど厚い信頼を寄せているようだ。

「私はセリーヌの作品の大ファンで、とても仲のいい友人でもあります。次回作では、彼女と共同で脚本も書いています。それから、実は、私は彼女のサッカー・チームのコーチを務めてもいます(笑)。あと、ミアのお母さんは私の哲学の先生で、カテルは私と同じ高校に通っていました(笑)」

プラネタリウム
9月23日(土)より新宿バルト9、ヒューマントラストシネマ有楽町他にて全国公開