マーベル編集長C.B.セブルスキー interview後編:日米の循環する創造性

荻上チキによるC.B.セブルスキー編集長インタビューは白熱したまま後半へ。後編はクリエイター陣の豊かな文化的背景、アンチとの関わり方、東京コミコンでのC.B.の気づきについて。

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17 January 2019, 6:55am

マーベル編集長C.B.セブルスキー interview前編はこちら


荻上:エスニシティの話も伺いたいと思います。ミズ・マーベルやアイアンハートなどの女性であり、人種が多様になっているキャラクターが沢山いますよね。こういったさまざまな人種を描くためにも同じく工夫というものが求められてくるようにも思えますが、人種についても最後に決まるものであって、「何人も必要だ」というような理由では決めないということですね。

C.B.:そのとおりです。私たちはいちいちチェックリストを作って、それをクリアするようにキャラクター設計をしていくわけではないので。実際に人種的な要素は性別よりもっと自然に決まっていきます。なぜかというと、マーベルのクリエイターたちがさまざまな出自・出身を持っているからです。彼らが自分たちのバックグラウンドやその文化を作品に織り込んでいくのです。

韓国出身のグレッグ・パクは、アマデウス・チョなどのキャラクターに大きく貢献していますし、ギャビー・リベラは(直接設計に関わったわけではないですが)アメリカ・チャベスの再定義に大きく関わっています。彼女はヒスパニック系の同性愛者であるという自身の特性を生かして、この女性キャラクターを忠実なものにしています。それからマイルズ・モラレス(二代目スパイダーマン)。彼はブライアン・ベンディスという白人の男性が作り上げたキャラクターですが、ブライアンが2人の娘をアフリカから養子にとっていることもあり、彼女たちが反映されていて、かつ楽しめる作品にしたいという思いから、そうしたキャラクターを作っています。このようにクリエイターのバックグラウンドや心が作品に反映されているのです。

荻上:日本ですと、例えばタケダサナグリヒルのような作家たちもいます。自身が日本人のクリエイターだとしても、日本人のキャラクターを描くことでそれを表現するのではなく、漫画文化のなかで培われてきた方法論(スーパーフラットetc)や漫画とコミックを融合させるような仕方で、新しいコミックス・カルチャーを作っている。クリエイターが持っている文化的背景の反映され方も多様ですよね。

C.B.:おっしゃるとおり、タケダサナとグリヒルは日本の美術・漫画のあり方を再定義しています。彼女たちは典型的な漫画とは異なるスタイルで、日本のコミックアートを紹介していると思いますね。

荻上:私はここ20年のアメコミの変化をとても楽しんでいます。ストーリーもキャラクターもよりエキサイティングなものになっていると思います。その一方で、作品の多様性を嫌うグループもおり、例えばネット上で、特に女性のライターや編集者をバッシングする現象も見られました。

C.B.:残念なことです。

荻上:彼ら、あるいは彼女たちは、「昔の作品に無理やり多様性を入れることでつまらなくなっている。そんなマーベルは嫌いだ」と言います。しかしその意見には同意できませんし、「女性が気にくわない」と言うための口実に作品を使っているようにすら見えてしまいます。マーベル社内では、会社として声明を出すのではなくて、作品で応答しようとしているのではないでしょうか。

C.B.:今起こっているのは、アメリカ国全体の非常によろしくない政治的な背景の反映と言えるかもしれません(苦笑)。ごく少数の人びとが大声を上げて、マーベルやDCの作品をバッシングすることで注目を集めています。彼らの発言も事実に基づいていないことがほとんどです。そしてマーベルとしては、そういったものはすべて無視するようにしていますが、クリエイターに悪影響を及ぼしてしまっている場合にだけ、個別に対応するようにしています。幸い多くの出版社、クリエイター、ファンのみなさんがマーベルへの支持と応援を示してくださっているので、反多様性のグループは消えつつあります。業界に良いエネルギーがあるのは嬉しいですね。

荻上:メディアの話もしたいと思います。マーベル・シネマティック・ユニバースが始まって10年、映画『X-MEN』シリーズの成功を考えても、マーベルのコミック作品が独立した映像作品として受け入れられるようになってずいぶん経ちました。映画あるいはゲーム、アニメの描写が、コミックのキャラクター描写に影響を与えていると感じることはありますか。

C.B.:とても良い影響を与えていると思います。マーベルではコミックから始まって映画やゲーム、アニメといった枝が成長していきましたが、今はそれぞれの枝になった果実が落ちてコミックへと戻ってきています。クリエイティブな相乗効果が生まれる組織になってきました。映画やゲームで作られた要素を、原作のコミックに逆に取り入れている場合もあります。組織として私たちにはクリエイティブ活動におけるエゴがないので、良いアイデアはどこからでも歓迎します(笑)。

荻上:『デットプール2』で忽那汐里が演じたキャラクター、ユキオの反響も大きかったですよね。

C.B.:先日の東京コミコンでもユキオのコスプレをたくさん見かけました。日本の女性にとってユキオは、自分たちを反映できるキャラクターなんだと気づきました。喜ばしい光景でしたね。

荻上:そうした各国へのツアーが新たなアイデアを得る機会になっていると思います。今回の来日ではどんなインスピレーションを持って帰れると感じていますか。

C.B.:今回東京コミコンに参加して、日本人のクリエイターによって作られる、より忠実な日本のキャラクターが必要だと確信しました。コミコンの会場では、ブロンドの髪を使ってコスプレをする人たちが目立ちました。それを見て、男女問わずアジア系のキャラクターが少ないと感じたんです。ファンのみなさんにもっと親しみを持ってもらうためにも、日本はもちろん、韓国や中国の文化を投影したキャラクターがもっと必要だなと痛感しました。そして私が言いたかったのはここからなんですが(笑)、そうしたキャラクターが生まれる土壌は整ってきていると感じています。これまではマーベルに合う日本の脚本家や作家を見つけるのが困難でした。グリヒルやタケダサナのようにキャラクター・デザインの分野では素晴らしいクリエイターがいましたが、キャラクターの内面や人間性を描く作家がいなかったんです。『スパイダーマン』におけるピーター・パーカー、『アイアンマン』におけるトニー・スタークの部分ですね。それがここ数年の日本でのマーベル・ブームによって、より多くの漫画家や作家さんがマーベルの真髄を理解し、一緒に仕事をしたいと思ってくださるようになりました。まさに90年代のアメリカで漫画ブームが起こったときと同じような現象ですよね。ここにもクリエイティブな循環があるんです。