Charlene Bataille/ Mars Hobrecker

今注目すべきクィアの彫り師9人

彼らがタトゥーの文化を変える。

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maj 22 2018, 12:52pm

Charlene Bataille/ Mars Hobrecker

タトゥー界でクィアなことが起こっている。印象的な彫師がかつてないほど増えたのだ。SNSにも専用コミュニティがあるし(@queer_tattooersなどのほか、新しく@qpoc.tttも)、モントリオールのMinuit DixやマサチューセッツのLupinewoodなど、リアルなタトゥースタジオも存在。これはムーブメントなのか? 「ムーブメントっていうのはもっとはっきりした鋭さがあるし、タトゥーの盛り上がりは曖昧なものだと思う」とアーティストのノミ・チは言う。「今話しているクィア・タトゥーの動きは、漠然とした不定形のもの」。しかしこのかたちの定まらない様こそが大事なのだーークィア・タトゥーのコミュニティには、カテゴリが存在しない。星雲のように広がり、LGBTQI+の誰に対しても、そしてどんな種類のアートに対しても寛容な場所なのだ。「タトゥーには、統一されたクィア的美学はない。そこがいいの」と、ノエル・ロングホールは説明する。「タトゥーの見せ方や意味には、クィアとして経験できること、なれるもの、そして提供できるものと同じくらい、多くの可能性がある。それってすごいこと」。今回は、特に注目すべき9名のアーティストに焦点を当て、#QTTRとして得た経験を簡単に話してもらった。

Photography @JoChat

ノエル・ロングホール(Noel'le Longhaul)
「独学のタトゥアーティスト、そしてトランスウーマンだったわたしは、保守的で、差別的で、男性優位な西洋の機械彫りタトゥーに汚されていないこの世界に入った。わたしの作品は、トランスであることから来る悲痛な孤独から生まれるの。何年も友だちや先達がいないのは辛いし、いら立たしかった。だからこそ、本質的で強力な交換儀式としてタトゥーを追求できたと思う。お互いに弱く、正直で、共感できる環境を生み出すことに重きを置いて、より政治的で内面を表現できるタトゥーをね」

「ここ2〜3年で、たくさんのクィアの彫り師の作品を見るようになって、孤独だった場所が広がったと感じる。タトゥーアーティストが持っているべきとされるような美しさや文化上のルールを無視する、そうしたクィアの彫り師たちと自分は、とても深くつながっていると感じる……。クィア・タトゥーに対する一般の見解は緩んできたわ。自身の作品を大事にするクィアの彫り師は、生来の黒人社会、現在では人種差別や体型差別、ゲイ差別、性差別によって定義されるような業界から派生したものだということがわかった。ほとんどのストレートの白人彫り師とは違って」

「クィアでトランスの彫り師であるわたしたちは、トラウマを持つのがどういうことかも知っている。自分で経験してるから。わたしたちのほとんどがそう。タトゥーを彫ることで、トラウマをコントロールするの。従来の保守的なタトゥー文化では、軽視され、笑われ、無視されてきたこと。クィアの彫り師たちは、それを受け入れ、媒体のひとつとして使っている」

ノミ・チ (Nomi Chi)
「クィアの彫り師は、多種多様な”イズム”の接点として作品に取り組んでいる人だと、わたしは思っている。非植民地化や人種差別、ジェンダーに起因する暴力や環境問題などに、団体や個人で対処しているクィアもいる。そうした人たちのタトゥー作品はそういう問題に意識がいっているし、スタジオもそうした活動に使われたりすることもある。最近は多くの人が男性優位で“マスキュリン”な白人ヘテロ主義的のタトゥー文化から抜け出そうとする彫師や顧客を支援するようになった。タトゥーや身体改造は、クィアの文化と長いあいだ共存してきたということに触れるのも大事ね。。最近それが復活したのには、SNSの普及が大きく貢献してる。インターネットがあれば、誰でも見ることができるから」

「わたしのタトゥーデザインにはそういうのはほとんど入ってない、の。一方で、自分の作品がトラウマに苦しむ人たちの助けになればいいと思ってる。でも、わたしのクィア性は自分のアイデンティティの中でもかなりプライバシー度の高いもので、自分の作品でそれを前面に出したいと思うようなものじゃないと感じている。わたしの作品はクィア問題に言及するけど、それはわたしの作品やわたしの人となりすべてを見るひとつの尺度であって、その作品のすべてではない。でも、こういう国際的なコミュニティが自分の周りにあって、経験や知識、ほかの集団に対する文句を共有できるのはすごくいいと思う」

クレア・フランシス (Clare Frances)
「わたしが大好きなタトゥーは、今も昔もずっとフリークスやアウトサイダーなもの。それをクィア・タトゥーだと言うこともできるけど、わたしにとってはそれが本当のタトゥー」

ミュリエル・ド・メ(Muriel de Mai)
「わたしは従来のタトゥーを勉強したんだけど、女性の彫り師だからってだけで辛い経験をたくさんした。だから自分の特権を使って、すべてのクィアと仲間に安全で包括的な場を提供することが、わたしにとってとても大事なことになった。団結、接点、社会的正義という考えが旧来のタトゥー業界には欠けているし、その要素こそわたしがこのコミュニティに惹かれる点でもある。つまりね、お互いのことを気遣わなければ、そして自分たちのスペースを開かなければ、自分たちの価値だって共有できない。そうでしょ?」

フランシスカ・シルヴァ (Francisca Silva)
「クィア・タトゥーのムーブメントは広がっているわね。チャンスを与え、その体や彫りたいと思っているクィア的なモチーフのせいで差別されない、心地がよく、安全なタトゥーを入れるための場所を提供してる」

「もちろんそれは、わたし自身がもっと優れた彫り師になるための刺激でもあった。そのコミュニティを通して、わたしを助けてくれた偉大なプロにも会えたから」

サリー・RIP (RIP Sally)
「僕がクィアカルチャーや彫り師を代弁することはできない。白人で、男性として通っているから、その両方に、社会から取り残されたコミュニティに居場所を作らせ、その声を拾わせることが僕の責務だろうね。そして、僕が属するコミュニティを代表して、人種差別や女性蔑視、ゲイ差別や弾圧といった解釈を覆していくこともね。僕の作品や見解が、白人“男性”のクィアが持つものの見方や経験の多様性の証明となればいいね。僕はすべての人に、あらゆるスタイルのタトゥーを彫る。様々なイメージを用いて、機械は使わず、すべて手彫りでね。タトゥー産業では、非常に多くのヘテロの白人男性施術者が機械を使っている。機械を使わずに彫るクィアとして、ひとりの人間がタトゥー文化を体感するときに得られる経験の幅を広げられればと思っている」

「世界中のクィアをつなぎ、タトゥースタジオを安全ではないと考える人を、アーティストやほかのクィアコミュニティに引き合わせるという意味で、SNSは手段のひとつになっている。タトゥーを通してクィアコミュニティを進歩させるには、ネットコミュニティを利用しつつも、リアルにつながり、関わることのできるタトゥースタジオを作り出す必要性を心に留めていなきゃね」

マース・ホーブレッカー (Mars Hobrecker)
「このムーブメントが意味するのは、つまるところ、顧客を尊重するってこと。施術してるその皮膚は生きていて、感情と歴史を持ち、息をしている人間であり、親密な経験としてタトゥーをするのだと認識している。もちろん、ファッションとしての要素もあるわ。たくさんの人が慣習を打破し、タトゥーはこう見せる“べき”という従来のやり方を覆そうと取り組んでる。でも究極的には、アートという形態をとって人間性を復活させるってことなんだと思う」

シャーリーン・バタイユ(Charline Bataille)
「ネット上のクィアの彫り師たちのあいだには、本当の愛で結ばれた関係性があると思う。競争とか妬みとかがないもの。すごく力強いものだと思う」

サイポス・ロジータ (Sipos Rozita)
「クィア・タトゥーのコミュニティのことを話すのは難しいわ。現代のタトゥーコミュニティそのものや、あらゆる世代のフリーの彫り師たちは、今とってもオープンで協力的だし、安全なスタジオやネットワークを世界中につくっているでしょう。だから、そのコミュニティ全体について話すほうが理にかなっていると思う。手彫りタトゥーのコミュニティについて人が話すときも、同じように感じる」

「わたしがその一部だと感じているこのコミュニティの素晴らしいのは、相手がクィアかどうかってことや、手彫りかどうかを誰も気にしないところ。その人自身を見て、作品そのものを褒めてくれる。もちろん、わたしもクィアコミュニティの一員だと感じる。刺激的で協力的なクィアアーティストたちに囲まれているから。でも同じようなサポートは、クィアじゃないアーティストからも得られるし、その二者間に違いは感じない」

「自分がそのムーブメントの活動家だとは言わない。わたしはたまたまクィアのアーティストだというだけ。タトゥー界でのクィアの認知度や平等を得るために闘っている、刺激的なアーティストたちがたくさんいる。そういう人たちにはすごく魅力を感じるけど、その手柄を自分のものにするつもりはない。だってわたしは一度も闘う必要がなかったから。自分はとても恵まれた環境にいるんだと思う。クィアであることが問題にすらならなかった。クィアというだけで受け入れてもらったり、仕事をしたり、成功するために闘う必要なんてなかった。でも、世界にはそうじゃない場所が存在するのは知ってる。わたしたちにできる最善の策は、必要としている人に愛や支援を与えること。現代のタトゥーコミュニティがクィアコミュニティを受け入れていった過程は、社会の良いロールモデルになると思う」