Photography Lasse Dearman

〈ルドヴィック・ド・サン・セルナン〉はいかにしてパリの最注目ブランドとなったか?

新進デザイナーとしてパリで注目を浴びるのは簡単なことではない。しかし、2016年にBalmainを離れたルドヴィック・ド・サン・セルナンは、自らの名を冠したブランドでパリに嵐を巻き起こしている。

by Ryan White; translated by Ai Nakayama
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09 October 2019, 7:18am

Photography Lasse Dearman

2020年春夏メンズコレクションのショーで、ファッション業界の想像力を見事にかたちにしたアイテムをひとつだけ選ぶとしたら、Ludovic de Saint Sernin(ルドヴィック・ド・サン・セルナン)の、シャワー浴びたてのようなタオルルックだろう。

〈wet’n’wild(派手に濡れよう)〉というコンセプトからインスパイアされた本コレクションの会場は、ポンピドゥセンター上階の屋外。ルドヴィックは男女モデルをキャスティングし、さまざまな〈服を脱いだ状態〉を提示した。濡れたシースルーのシルクオーガンザをまとっているモデルもいれば、はだけたシャツにショーツを合わせたモデルもいた。特に注目を浴びたのは、ウエストに小さなタオル1枚を巻いただけのルックだろう。

「タオル1枚の男性にランウェイを歩かせたかったんだ。でも、他のブランドでも登場しそうな普通のルックにはしたくなかった」とパリのスタジオにいるルドヴィックは電話で語る。「だからタオルを、見事につくりあげた美しいニットアイテムにすることに決めた。セーターみたいな触り心地なんだ。すごく柔らかいメリノウールを使用してる」

タオルルックがランウェイだけでなくInstagramを席巻すると、ブランドのファンたちは直ちにタオル1枚の姿になった自身の写真を公開しはじめた。「昨シーズンは、数百万ドルのブリーフがネットで話題になった」とルドヴィック。2019年秋冬コレクションで登場した、全体にスワロフスキーがあしらわれた小さなシルバーの下着のことだ。

「今回のタオルルックも、前回ブリーフを着た男性モデルに任せた。彼はすっかり僕らのミームクイーンだよ。こんなに話題になったからね」

とはいえ、ひとつのバズりアイテムに集約されてしまうようなコレクションではない。Ludovic de Saint Serninにとって、今回がパリ・メンズファッションウィークの公式カレンダーに掲載された初めてのショーだったが、フロントロウにはリック・オウエンスやオリヴィエ・ルスタンが座り、ファッション批評界の権威たちも集まった。ミームだけではなく、中身がしっかり伴ったコレクションだった。

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ベルギーに生まれ、8歳までコートジボワールで育ち、その後パリの16区へと移り住んだルドヴィックは、現在28歳。保守的ともいえる仕事を選んできた家族とは別の道を選んだが、自分は幼い頃からサポートや励ましを得ながら、シンプルに、まっすぐ育てられてきたという。

「子どもの頃からスケッチをしたり、絵を描いたり、そればっかり。でも家族の中では珍しかった。親戚のほとんどが、法律や政治を学んでたから」

ルドヴィックはパリの名門、デュペレ応用美術学校でウィメンズウェアを学び、Diorのジュエリー部門とSaint Laurentのウィメンズシューズ部門でインターンを経験。Saint Laurentでは、ステファノ・ピラーティの最後のコレクションに参加した。

「あと、素晴らしいキャスティングディレクターの元でインターンを経験した。Martin Margielaで15年間、あとはYohji Yamamotoとも働いてた、オールドスクールなキャスティングディレクターだ。そこで、ブランドにとってキャスティングがどれほど大事かを学んだ」

学校を卒業後、ルドヴィックはインターンとしてBalmainに入社。オリヴィエ・ルスタンがクリエイティブディレクターに就任してすぐの頃だ。「装飾とテキスタイルの責任者のアシスタントになった。ランウェイを歩くクチュールアイテムはすべて彼女の管轄だったんだ。でも彼女が産休に入ることになって、僕が1年弱、彼女の代わりを務めることになった。すごく貴重な経験だった」

Balmainがメインストリームに躍り出て、セレブ御用達ブランドになる前の話だ。「当時はBalmainというブランドはここまで知られていなかった。H&Mとコラボする前で、Balmainはまだ、若いデザイナーたちが手がける、小さなフレンチブランドだった。でもみんな30歳以下で、すごく楽しかった。仕事も遊びも全力で」

そして2016年秋、彼は3年勤めたBalmainを辞める。「Balmainの手作業や、クチュールにはすごく感銘を受けた。あと、オリヴィエ自身のストーリーも面白かった。彼もすごく若かったし」と彼は回想する。「でも、ブランドの方向性が僕の美学とはズレ始めてたんだ。だから、いつかブランドを去って、自分独自の挑戦をしないといけないと思ってた」

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翌年の夏、彼はデビューコレクションを発表。パティ・スミスの回想録『ジャスト・キッズ』、そして彼女とロバート・メイプルソープとの関係性をインスピレーション源とし、さらにそこに高級芸術と大衆芸術、双方のリファレンスを混ぜ合わせて完成させた。「日本のカルチャーや陶磁器を参照すると同時に、クリスティーナ・アギレラのアルバム『ストリップト』のアートワークを取り入れたり」

すべて自身の手でつくりあげた計10ルックは、Balmainのグラマーな雰囲気が反映されつつも、二元的な性の表象やクラシックな要素は抑えられていた。「あのコレクションのテーマは、青春、そしてカミングアウト。僕が最初から実現したかったのは、はっきりと僕の作品だとわかるアイテム。上品さとセクシュアリティのバランスだ」

ブランドの評価は、驚くべき速さで上昇し続けている。コレクションを発表するたびに内容は洗練されていっているが、それでいてひと目見てわかるエッジも失っていない。彼のデザインしたアイテムは、これまでスティーヴ・レイシー、ソランジュ、ペトラ・コリンズなど大物に着用されている。

さらに、2018年にはLVMHプライズにノミネート、ANDAMファッション・アワードではクリエイティブレーベルプライズを受賞している。批評家は、伝統的なパリのファッションウィークで生々しさを表現するルドヴィックの手腕を讃えている。

「僕がいつも言っているのは、僕のブランドが提示するのは、美への回帰だということ。セクシュアリティのレンズを通して見た美しさ」とルドヴィック。「みんながそれぞれの解釈を抱くことができるものを提示するって、最高だと思うんだ」

Ludovic de Saint Serninはメンズコレクションの期間にコレクションを発表し、表向きは〈メンズウェアブランド〉となっているが、最新コレクションではより多くのウィメンズウェアを披露した。「プレタポルテに関しては、メンズと同じくらいウィメンズも売れてるし、僕は、最初から男性にも女性にも着てもらえるブランドとして提示してきた。確かにアンダーウェアは主に男性用だけど、プレタポルテは、特に今回のコレクションではウィメンズウェアに注力したし、ドレスとか、女性に限定したアイテムを制作した。僕はもっとウィメンズウェアを展開していきたいと思ってる」

現在彼は、パリとロンドンを拠点とし、最大のマーケットはLAだ。しかしルドヴィックはパリ・メンズファッションウィークをしばらく離れるつもりはないという。

「パリのメンズファッションウィークに参加したいと思ってるよ。セクシーなファッションウィークだから」

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This article originally appeared on i-D UK.

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