アイスランドのラップミュージックを世界へ——使命を背負った若い才能、GKR

カラフルなデビュー曲でリスナーのハートを鷲掴みにしてインターネットで話題のGKRが、新トラック制作のためスタジオ入りしている。

by Frankie Dunn
|
21 September 2016, 9:30am

誰もが「友達になりたい」と思ってしまう——Gaukur Gretusonはそんな男だ。愛らしくて、落ち着いていて、しかし快活、そして何より面白い。写真家の母親のもとアイスランドの首都レイキャヴィクの西側に生まれ育った彼。学校は嫌いだったそうだが、芸術大学へと進学し、音楽と出会って人生が変わったのだという。本名よりもGKRとして広く知られている彼は101 Boysのメンバーとも仲が良く、またパープドッグ(PurpDogg)プロデュースによる2015年のビデオ『Morgunmatur』でその長身とアーロン・カーター風ヘのアスタイルがアイスランド中に知れ渡り、一躍人気者となった。「朝食」を意味するタイトルの『Morgunmatur』、そのビデオは、地元のカラフルなプールをGKRが自由に歩き、踊るという内容で、GKR自身が監督も務めた。視聴者はこれを額面通りに受け取ってシリアルへの賛歌と解釈したが、実はこの歌、彼が抑鬱状態にあったときに書いた曲で、幸せな気持ちで朝目を覚ますには好きなことをやって生きていなければならないのだと歌っているのだ。

若干22歳の才能あふれるGKRは、母親の車を借りて私たちを迎えに来てくれた。レイキャヴィクの街を走る車中で話をし、最後には変わった楽器や友達がたくさん待つスタジオへと私を連れて行ってくれた。そこにはまだインターネットがない。彼を見ていると「インスピレーションを得るのにインターネットは必要ないのだ」と思わされた。彼は現在、大きな話題となった第1作に続くシングルを制作中だ。スタジオで聞いたかぎりでは、ファンキーなインストゥルメンタルをバックに、GKRがケンドリック・ラマーばりに魂をさらけ出す、そんなシングルになりそうだ。歌詞は、自分自身との対話でもあり、また助けが必要な人々へ「僕が助けるよ」と囁きかけるメッセージでもある——ムチャクチャなひと、感情が豊かすぎるひと、ひととのコミュニケーションが下手なひと——まさにGKRのようなひとたちに向けられたメッセージだ。GKRは自分の音楽がリスナーに共鳴して、その後の人生の役に立ってくれたらと考えている。GKRがキッド・カディに共鳴し、その後もカディの存在に支えられているように——彼は、リスナーがビデオのなかに迷い込んでしまったように感じるような音楽を作りたいという。彼は音楽というものを理解しているのだ。彼が目指しているのは、自身の音楽がひとびとを繋ぎ、団結させてくれること。私たちは誰一人として"平凡"ではない。ならば、いっそのこと楽しんでしまおうじゃないか!

ここはどこ?
ここは、僕が育った通りだよ。Vesturgataという名前で、冬には木に雪が積もって道が狭く感じられる——それがすごく綺麗なんだ。母は忙しくてほとんど家にいないから、うちのアパートは貸しに出されていて、僕はいま実家から道を挟んで向かいのアパートに住んでる。Vesturbaerの中心で、Vesturbaejarlaugっていうプールでよく知られているエリア。こぢんまりとしていて、すごくいいプールだよ。先週、ビョークとそのプールに行ったよ。"行った"んじゃないか……居合わせたんだ。ホットタブにいたビョークに、僕が帰りがけに手を振ったら、ビョークはそれがおかしかったみたいで、笑ってた。アイスランドの男はそういうことしないんだ。超控えめにしてるのが美徳とされてるからね。でも僕は「楽しいじゃん」と思ってね。

ビョークは、米アカデミー賞授賞式で着ていたあの白鳥の水着を着てたのかしら?
もちろん。『トランスフォーマー』の登場人物みたいな格好で、ロケットランチャーが——いや、ビョークは泳いでもいなかったよ。ウォータージェットパックで遊んでた。

そのプールは、『Morgunmatur』のビデオに出てくる、あのプール?
あれはシークレット・ソルスティスの近くにあるLaugardalslaugっていうプールで、また違った雰囲気なんだ。アイスランド最大のスライダーがあるから観光客も多いしね。こっちのプールは知ってるひとがたくさんいたりして、地元の良さがある。デカいスライダーこそないけど、みんなが大きなハートを持ってるんだ!今はおばあちゃんが住んでるアパートに暮らしてるんだけど、おばあちゃんとは、僕がレイキャビック・スクール・オブ・ビジュアル・アーツでの最後の年に1年間一緒に住んだことがあってね。おばあちゃんは僕の勉強に関してすごく熱心で、毎朝起きるとオートミールにレーズンを入れた朝ごはんを出してくれたんだ。オートミールはレーズンを入れるとすごく美味しんだよ。おばあちゃんの助けあっての卒業だった。

Morgunmatur』はその頃を歌ったトラックなのよね?
そう。でも、おばあちゃんと暮らしていた生活というよりも、もっと暗い時代をテーマにしてるんだ。アートスクールに通い始める前の時代。学校ではみんなが揃って同じことを同じようにやらなきゃいけないっていう暗黙の了解みたいなものがあって、僕はそれに馴染めなかったんだ。やりたくないことに押し込められるのは、ひとによっては本当に苦しいことなんだよ。これまで出会った人のなかにも、そんな状況から飛び出してしまうことが怖いっていうひとがたくさんいたよ。

そういった経験をきっかけにして、音楽により真剣に取り組むようになったの?
僕は実直で感情豊かな人間で、本当に思ってることしか言わない。でも、感じていてもうまく言葉にできないことがたくさんあったんだ。学校は、表現したい僕の気持ちを引き出してはくれなかった。それと、運転しながら英語で話すのが大変なんだけど……ADHD(多動性)だから。今まだ僕たちが生きてこうして話してるのは奇跡だよ。

ちょっと!
ここが僕の住んでるところだよ!この1階ね。とにかく、アートスクールに通い始めたことで助けられた。そこで初めて、僕のやりたいことを理解してくれる人や、表現を引き出してくれる人たちに出会えたからね。アートは、アイデアへの扉を開いてくれる。でもアイデアがひとをダメにする場合もある。エドワード・スノーデンみたいに……スノーデンの頭はちょっとイカれてると思う。

本はたくさん読む?
読まないよ!読むのは大の苦手なんだ。『The Art of Rap』を読もうと思って「これで勉強して世界一のラッパーになってやるぜ」なんて意気込んでたんだけど、2ページ読んだら他のことが気になっちゃって、すぐにその存在すら忘れちゃった。

尊敬するアーティストは?
4年ぐらい前に心酔してたのは、キッド・カディだった。キッド・カディを見て「僕もこれをやりたい」「僕にもできる」って思ったんだ。僕と同じようにカディに触発されたひとは多いと思う。カディの前には、ウータン・クランとかブラック・ムーンとか、オールドスクールのヒップホップにハマってた。そこからカニエ・ウェストを知った。カニエは大好きだったし、カニエのことが良く理解できたんだ。でもカディが出てきて「こんなに深く理解できたアーティストなんていない」と思ったんだよね。それからケンドリック・ラマーとかアブ・ソウルとか、レーベルTop Dawg Entertainment系のアーティストにハマったね。今は、アーティストとしての自分を磨くことに集中してるよ。いろんなことを試してる。ヴィンス・ステイプルズとかファーザー、クラムス・カジノなんかはいいね。テーム・インパラみたいなバンドも好き。

この時期は白夜ですよね。あなたは影響を受ける?
冬はずっと暗く鬱屈としてイヤだから、僕はこのほうが好きだな。冬は、3時間だけ空が明るくなってまた夜、みたいな感じで、本当に暗い気持ちになるよ。だから、この明るい感じが好き。気持ちも軽くなる。アイスランドに暮らしてるひとでも、冬に影響を受けるひとは多いみたいだよ。ダンキンドーナツがレイキャヴィクにオープンしたとき、その前夜から市民が店の外にキャンプをして並んだりしてね。でもそんな熱狂が嘘だったかのように、今は平穏な街に戻ってる。それがこの街を絶妙に表してると思う。みんなで熱狂しても、すぐにそんなことは忘れちゃう。世界のどこでもそんなものだろうけど、アイスランドでのアップとダウンの激しさは異常だと思うよ。

ミュージックシーンにも同じことが言えるのかしら?
そうなんだよ。僕はただの流行りになんかなりたくない。きちんと評価されるアーティストになりたいんだ。『Morgunmatur』をリリースしたらそれがヒットして、僕も人気者みたいなことになったけど、アイスランドで僕はあの曲で知られてるだけで、僕がいま真剣に音楽に取り組んでるなんてことはほとんどのひとが知らない。ただの一発屋だと思われてるんだ。

今は何を作っているの?
スタジオに連れていけば話が早いよね。もうすぐグランディっていうエリアに着く。そこにスタジオがあるんだ。グランディは整備工場や写真学校や漁業会社が密集してる地域でね。ホテルや観光客相手のショップがダウンタウンにたくさんオープンしているから、地元文化はどんどん外に押しやられてるんだ。グランディは、そんな地元文化が広がってきてる地域。でもね、今はまだ人も少なくていい雰囲気だよ。ここは理由がなきゃ誰も好んできたりしない地域。スタジオがあるか、オフィスがあるか、そんな理由がね。住居もそれほど多くないんだ。

この辺りは家賃が安いの?
いや、レイキャヴィクではどこで何を借りようと安くはないよ。

このスタジオは誰とシェアしているの?
ここがスタジオだよ。いらっしゃい!このスタジオは、僕のトラックの多くをプロデュースしてくれてる親友のMarteinnと、それとHogni Egilssonと一緒にシェアしてるんだ。HogniはGus Gusっていう有名なバンドのシンガーなんだよ。で、これが有名シンガーとスタジオをシェアする利点——ありとあらゆる楽器が揃う!スタジオがスタジオらしく見えるでしょう? Gogniが入る前は、ソファとラグぐらいしかなかったんだよ。

あそこに飾られているのは?
あれは、レイキャヴィク・グレープヴァイン音楽賞で「2016年期待のアーティスト」に選ばれたときのものだね。GKR……ひとは彼を、現存のラッパーで最高のアーティストだと言う……言わないひともいる……。

Morgunmatur』のビデオも、これだけの注目をあなたが浴びるのに大きく貢献したんじゃないかしら。あのビデオは、あなたが監督したの?
そう。編集も僕がやったよ。1日で撮影したんだ。撮影場所はあそこって決めてた。カラフルでいいなって。ミュージックビデオが大好きなんだ。音楽においてすごく重要な意味を持っていると思う。僕は自分を、ミュージシャンであると同時にビジュアルアーティストでもあると思ってるんだ。もちろん音楽があってこそのビジュアルだけど。映画を観たりすると、「このシーンの一部になりたい!」って思ったりするんだ。ちょうど最近、そういう趣旨でレコードを作りたいって考えてたところ。どうやって実現できるかはわからないけど、音だけで、リスナーが映画のなかにいるみたいに感じられるような、そんなレコードを作りたい。

特に好きな映画は?
『ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日』が好き。ビジュアルがドリーミーで大好きなんだ。それと、アーケイド・ファイアの「The Suburbs」のビデオが好きだな。アートって本当にすごい。感じたことがないようなことを感じさせる力があるんだからね。

色というものはあなたにはとても重要なのね。
うん。何でかはわからないけど。個性や気持ちを表現してくれるからなのかもしれない。個性が表現されて、見るものの心を動かす力があると思う。

Morgunmatur』のプロデュースはパープドッグだけど、出会いはインターネットだったのよね?
そうだよ。たくさんのミュージシャンとインターネットだけで知り合いだったりするけど、ネット上での関係って変だよね。アイスランドは小さな国だから、「こんなサウンドが欲しい」と思っても国内じゃ見つけられなかったりする。そうすると外国にそれを探し求めなきゃいけなくなるんだよね。SoundCloudでビートを探してた時に、パープドッグを発見したんだ。2014年のこと。ビートをいくつか買ったんだ。その後にパープドッグは急に忙しくなってね。「We Made It for Drake」でソウルジャ・ボーイ・テレムと一緒にやったり、そこにジェイZとジェイ・エレクトロニカがリミックスで参加してきたりね。クレージーだよね。

アイスランドのラップを世界にというようなことを口にしているけど、英語でラップするというのは考えにあるのかしら?
英語で書いたこともあるんだけど、実際にラップしてみると中国語みたいに聞こえちゃうんだ。書いてる分にはいいのに、実際にラップしてみると「なんだこれ!?」ってことがある。英語でやるのもいいけど、まずはアイスランド語でどれだけできるかを試してみたいね。

関連記事:アイスランドのHIPHOP最前線

Credits


Text Frankie Dunn
Photography Ozzie Pullin
Translation Shinsuke Kuriyama at WORDSBERG Inc.

Tagged:
ICELAND
Hip-Hop
iceland airwaves
GKR
icelandic hip hop