テクノロジーと中国の隠れた恋人たち

「廈門ではテクノロジーが恋人たちに新しい関係の形を作り出している」とサラ・メイ・ヘルマンは言う。最新シリーズ『Screen Touch』で若い恋人たちを捉えたヘルマンに話を聞いた。

by Alice Newell-Hanson
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01 September 2016, 10:44am

「廈門(アモイ)は、中国の地中海と呼ばれているんですよ」とサラ・メイ・ヘルマン(Sarah Mei Herman)はアムステルダムから電話越しに言う。ハーマンは現在、9月に開催されるUnseen Photo Fairに出展する作品の撮影準備を進めている(眠りに落ちる寸前の瞬間をポラロイドで捉えるシリーズだそうだ)が、彼女はいまだに、廈門のビーチや学生寮で見た恋人たちの姿を忘れられずにいる。2014年に4ヶ月を過ごした廈門。少しでもいい、と翌年も数日間訪れた。そして今また、ヘルマンは廈門へ行きたいという強い衝動に駆られているのだという。

オランダはデン・ハーグの国立芸術大学Royal Academy of Fine Art The Hagueに続き、ロンドンのRoyal College of Artでも写真を学んだヘルマン。作品作りには時間をかけるアーティストだ。かけようと思えば一生を要するプロジェクトで、彼女は自身の弟ジョナサンを過去10年間にわたり撮り続け、オランダ人姉妹ジュリアとステファニーを2005年から、そして一卵性双生児のヤーナとフェビー(「人間は、あの2人以上に親密な関係を築けない」)を子供時代から現在の20代後半に至るまで、ずっと撮り続けている。

ヘルマンが惹かれるのは、「若者が大人へと成長する過程で経験する変化」なのだそうだ。「その境界の部分、そこにあるその力強さ、そしてそこに潜む孤独に、とても惹かれるんです。友情と愛情のあいだにあるグレーゾーン、人生のある段階で私たちの多くが悩む、定義づけのできない関係に」

ヘルマンが廈門で見つけたもののひとつに、「変化する街」がある。彼女が写真のワークショップを教えた大学だけは、急速な都市開発で取り壊しと建設ラッシュが進む街のなか、大きなビルやヤシの木、完璧な芝生などをかろうじて保持している。「中国の都市としては、廈門は小さいほうです。人口も400万人ほどですしね。でもやはり中国全土に見られる流れが廈門にも押し寄せていて、開発は急速に進んでいます」と彼女は言う。彼女が発表した最新シリーズ『Screen Touch』は、急ピッチで進む都市開発を背景に、若い恋人たちのあいだに進化していく親密な関係を探った作品群だ。そこには、現代人とそのあいだに生まれる関係に必須である携帯電話がある。

どのような経緯で廈門へ?
人と人のあいだにある関係、特に恋愛関係にある人々や若者たちに、ずっと興味をひかれていたんです。そこへ、廈門でアーティストのレジデンシーが募集されているのを知って、ディレクターにコンタクトを取ったんです。それまで私はアジアに行ったことがなくて、日本に行こうかと考えたこともあったんですが、日本人はアプローチしづらいという話を聞いたことがあった。ディレクターはオランダ人の女性で「中国の若者世代はとてもオープンよ」と教えてくれたんです。廈門はとても朗らかな街で、そこに住む人々も写真を撮られることにとてもオープンでした。ディレクターは、廈門の若い女性たちは、例えば手をつなぐなど、体の接触にそれほど違和感を抱かないのだと教えてくれたんですが、それにとても興味を惹かれましたね。オランダでは、手を繋いで歩いている女の子たちは大抵がカップルです。でも中国では、女の子たちが手をつないで歩き、男の子たちは肩を組んで普通に歩く。それは「友達同士なら普通にすることなのだ」とディレクターは言っていました。それで4ヶ月のレジデンシーに申し込むことに決めました。親密な関係という意味において、何が国によって違い、何が普遍的なのかを見極めるために。そしてそんな独自のあり方を、彼ら彼女らがわたしに見せてくれるかを見極めるために。

あなたが出会ったカップルはどの程度オープンでしたか?
あそこまでオープンになってくれるとは思いませんでした。私の彼氏は香港に行ったことがあって、そこで見た標識について教えてくれたことがあったんです。「公園なんかに、"公共の場でのキスや身体的接触を禁ずる"って書かれた標識が立てられてるんだよ」と。だから、きっと写真を撮らせてくれる若者を見つけるのは困難を極めるんだろうと考えていたんです。私は中国語も話せないし、出会った若い中国人たちもほとんど英語を話せなかったですしね。でも大学では何人かの友達も作れたし、あとは街中で気になったひとに声をかけることもありました。最終的には、言語なしでも彼らと親しくなれている自分に気づきました。親密さというのは、ある意味で、ヨーロッパでのそれと全く同じなのだと気付かされました。

何組かのレズビアンカップルも撮影しました。レズビアンを探したわけではなかったんですよ。ただ、出会ったのが彼女たちだったんです。彼女たちは自分たちについて語ることに意欲的で驚かされました。このシリーズには、男の子と女の子がキスしているように見えるけれど、実はふたりの女の子がキスをしている写真があります。ひとりが男の子のように見えてしまう、そういうカップルを多く見かけたんです。手をつないで、親密な関係を隠す必要もない、そのあり方。中国で、同性愛は犯罪ではなくなったものの、依然としてタブーではあり続けています。ふた組のレズビアンカップルと親しくなりましたが、そのうち1組は別れてしまったようです。男の子のカップルを見つけるのは難しかったですね。また廈門へ戻って、次は男同士のカップルと知り合いたいです。

被写体となってくれた女の子たちは、出来上がった写真を見て何と?
中国でもアムステルダムでも展覧会を行なったんですが、その前に彼女たちに写真を送ったんです。とても気に入ってくれたみたいで。彼女たちは「アムステルダムに移住したい」と口を揃えます。結婚できるから、と。

タイトルとなっている『Screen Touch』は、あなたにとってどのような意味を持っているのでしょうか?
このシリーズは、若い人たちのあいだにある親密さに焦点を当てているから、テーマが「Touch」——同時に、タッチスクリーンを裏返した状態を表す写真群でもある。若い人たちの多くは、四六時中、スマホのスクリーンにかじりついています。ヨーロッパ以上ですよ。廈門にある美しいビーチに行ったら、カップルが寄り添って座っているのがそこここに見えたんですね。でもね、彼らの前へ回ってみたら、海を眺めているのかと思いきや、彼らは全員が全員スマホの画面を見ていたんです。スクリーンは、親密さを表すもうひとつの形。私の写真すべてに写っているわけではありませんが、要素としてはどの写真にも含まれています。

全体の印象をライトボックスのようにした作品もあるんですが、そこでのライトボックスは、スクリーンから発せられる光のメタファーです。大学の寮で撮った写真で、その"女の子の世界"を捉えたかった。下着が干してあったり、ピンクが多かったり。4人でひとつの空間を共用している、寮という極めて親密な空間で、お互いのものが混じってしまったり。女子大生たちの空間が見えるとともに、ポートレイトと並列することで、そこにまた違った空気感を生んでくれています。

スクリーンがあることでより親密さが増すということもあるのでしょうか?
親しくなった人たちに、スマホをどう思うか訊いたことがあるんですが、彼らはきまって「実際に出かけて行って会うというのは毎回ひとりとしかできないけど、スマホでなら同時に5人とやりとりができる」と言っていました。でもそれは表面的な関係ですからね。人々がお互いを"見る"ということを忘れてしまっていて、悲しく思います。自分もそうだと気付かされたりもしましたよ。集中できないんです。中国の学生たちは、買い物からコミュニケーションまですべてをスマホでやります。でもそれが今という時代の新たな親しさのあり方なんでしょうね。それは身体的な距離をちぢめるのにもひと役買っている。でも、そのあいだにはいつでもスクリーンという第三の存在があるのです。

sarahmeiherman.nl

Credits


Text Alice Newell-Hanson
Photography Sarah Mei Herman
Translation Shinsuke Kuriyama at WORDSBERG Inc.

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