内戦がシリアのクリエイティブ・シーンに与えた衝撃

多感な時期を戦闘地域で過ごしたシリアの写真家、アメール・モハマド。「アートは世界を変えることができる」そう信じてやまない彼に話を聞いた。

by Alexandra Manatakis
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30 August 2016, 3:00am

22歳のシリア人フォトグラファー、アメール・モハマド(Amer Mohamad)は、現在モスクワに暮らし、ロシアのテキスタイル産業を支えるイヴァノヴォで建築の勉強をしている学生だ。シリアの首都ダマスカスに育った彼は、ティーンの頃からファッションや、ファッションが持つ創造的自由に興味を持っていた。自室の壁に高級雑誌からの切り抜きを貼るようなティーンだったのだ。そこへ2011年のシリア内戦が起こり、アートで繋がっていた彼のコミュニティは衰退していき、彼が属していた世界は消え去った。

ロシアの大学への進学を機にシリアを後にしたモハマドは、そこで改めてアートとの接点を持つこととなった。しかし、後にしてきたものや永遠に失われてしまったものへの意識が、彼のアートに強い影響を残していた。ロシアに暮らし始めたモハマドは、作品のなかでセクシュアリティと実験性を探り始めた。シリアでは絶対に問うことがなかったであろうテーマだった。その結果生じた、クリエイティブの自立性における衰退と流れへの関心は、その後の彼自身と彼の作品を形作るテーマとなった。

ダマスカスに育った子供時代について、そしてなぜアートが世界を変えることができると彼が強く信じているかについて、モハマドが語ってくれた。

シリアというと内戦を思い浮かべるひとが多いですが、クリエイティブな視点から、シリアに育つのがどういうものだったのかを教えてください。
すべてが混ざり合った状態でした。オペラもバレエもあり、画家や彫刻家の展覧会や、モダンアート、書道のショー、イスラムのアートなんかもありました(イスラムのアートには人体の形は登場しません。自然をモチーフとしたものか、装飾のアートなんです)。クリエイティビティは、手工芸やカーペット、バッグ、伝統的なレザーサンダルなどの形で世代から世代へと教え継がれているんです。

アートを通しての表現は自由だったわけですね?
はい。シリアでアートは広く認められていいます。ただ、第三諸国で先進国の注目を得るのはとても難しく、例えば、アーティストが作品を発表するなら、シリアやイラク、パレスチナで展示をするよりもパリやアムステルダムのような街で展示をしたほうが大きな注目を得ることができるわけです。でも、作品を展示して売ることでアーティストを手助けしてくれるギャラリーもあるにはあります。

内戦が勃発して1年後、あなたはまだシリアに暮らしていたわけですが、あの大きな変化をどう見ていましたか?
ひとびとは自分たちの場所から強制退去を強いられ、そこには混乱が起き、人々がいがみ合い、みなが苦しんでいて——簡単には説明できませんね。それでも確かに言えるのは、あの内戦が起こるまで、人々は平和に暮らしていたということです。誰もあんな戦争を望んでいませんでした。内戦が起こるまでの6年から8年前には、クリエイティブな機会がたくさん生まれるような、ポジティブな変化がシリアには起こっていました。そこへ、突如として人々のメンタリティが退化し始めたような感覚がありました。外に出るのを怖がるひとがどんどん増えて、劇的な変化が起こりました。インスピレーションがみるみるうちに失われていき、どこを見ても悲しみと死が溢れかえっていました。

それがあなたをロシアへと向かわせたきっかけだったのでしょうか?
僕が通っていた大学が反対勢力によって閉鎖されたので、勉強を続けるためにロシアへ移ったんです。ロシアを選んだのは、両親が出会って結婚した土地だったから。シリアに戻るまで高等教育を受けようというつもりでロシアへ向かいました。写真を撮り始めたのはロシアでした。ロシアは、僕のキャリアにも才能にも大きな影響を与えた国です。

写真で模索しているものとは一体なんでしょうか?
僕の作品は、実験の過程です。セクシュアリティとカラーを探るのを大きなテーマとしています。日常的な光景を、違った角度から切り取りたいと思っています。いまロシアに暮らしていて、僕が興味をそそられるものが、ロシア人にとっては退屈な日常の光景でしかなかったりするんです。

暴力と抑圧を相手に闘うとき、アートがそこに与えることができる衝撃に興味があるそうですが、それについて教えてください。
例えば、シリアにはアクラム・ソワイダン(Akram Sowaidan)というアーティストがいるんですが、彼はガラスや石炭を用いてペインティングをしていました。それが、廃業に追い込まれた。いま彼は、何千人という人間の命を奪うために使われた銃弾やミサイルといった戦争兵器を取ってきて、その部品などを寄せ集めて豪華な彫刻や花瓶を作ったりしています。彼が愛した街と、それを破壊した戦争を物語る象徴としての作品です。
彼の言葉です。「戦争、ロケット、ミサイル、そんな言葉が引き起こす恐怖の反応を、自分の子供たちから払いのけてあげたい。僕たちはテロリストじゃない。それを強く訴えたい。僕たち全員、子供でありアーティストであり、人を愛し人に愛された経験を持つ魂であり、そして社会のために懸命に働く人間なんだ」。クリエイティビティが戦争を終わらせることができることを表している、とてもオープンな例だと思います。まったく反対の視点から現状を見つめ、暴力を平和へと作り変えようとしているんです。

外国からの創造力も現状にインパクトを与えることができるのでしょうか?
クリエイティビティはコミュニケーションです。例えば、現代美術の国際美術展覧会ヴェネツィア・ビエンナーレのシベリア館では、足を象った彫刻作品が砂に埋もれているという作品が展示されています。これは、移民を象徴している作品です。アートが人々の苦悩を表現すると、それが見る人々の心に触れ、私たちの苦悩に人々の目を開かせてくれるわけです。トルコの沿岸地区にインド人アーティストのスデルサン・パトナイク(Sudarsan Pattnaik)が作った砂の彫刻があります。内戦から逃れようとしたのに溺死してしまい、死体がトルコの海岸に打ち上げられたクルド人の少年アイラン・クルディに捧げられた作品です。スペインの湾岸にジェイソン・デクレアズ・テイラー(Jason deClaires Taylor)が作った水中彫刻も、シリアの戦闘地域で日々、命をかけて戦禍をのがれようと逃げ惑う数千人の市民たちの人生を表現しています。

そうすることで、物語に感情を与えるわけですね。我々がメディアでよく見るシリアのイメージに、パーソナルな要素を織り込むと。
はい。そうだと信じています。イランのアーティスト、シリン・ネシャット(Shirin Neshat)は、イラン女性とイラン文化に対するイメージを変えました。僕もいつか、シリアのイメージを変えられるようなアーティストになりたい。彼女には大きな影響を受けました。

何があなたを掻き立てているのでしょうか?
僕の父親ですね。父はいつでも、僕がより良い人間になるよう教えてくれます。今は建築の勉強を続ける一方でファッションの道を進んでいますが、いまだに父は「好きな道を進むんだ」と僕の背中を押してくれるんです。「シリアにいたらそんなことできないんだから」と。父に「あなたの息子は何かを成し遂げました」というところを見せてあげたいんです。

@shootmeamer

Credits


Text Alexandra Manatakis
Photography Amer Mohamad
Translation Shinsuke Kuriyama at WORDSBERG Inc.

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