美しい花と電子音楽の絶対的美学

2013年のアンセム「I Feel Rave」でブレイクを果たした大阪のビートメイカー、Seiho。新作アルバム『Collapse』でワールドワイドデビューを果たした彼がフロアの先で描くサウンドアートの全貌について訊いた。

by Yu Onoda
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26 July 2016, 4:40am

SEIHO WEARS JACKET PHENOMENON. BOTTOM MODEL'S OWN.

会ったことも、話したこともない、ましてや名前や素性も分からない音楽家やリスナーの匿名的なコミュニティで、ネット上の膨大な音楽やヴィジュアルから抽出した特定の感覚を共有しながら育まれているポスト・インターネット世代の音楽。大阪在住のSeihoはその代表的なビートメイカーと評されている。バークリー音楽院進学を視野に、高校時代までジャズを学び、その挫折からエレクトロニックミュージックに身を投じるようになった。2013年のフロアアンセムとなった「I Feel Rave」とアルバム『ABSTRAKTSEX』でシーンに急浮上すると、ビートメイカーらしからぬ派手な服装とアトラクティブなライブパフォーマンスで記名性を強く打ち出している。

「インターネットによって、音楽を広めるインフラが整ったのは確かですけど、自分の場合、音楽制作にはあまり影響がないんですよ。そのことを証明するために、ライブをやっているところもあって。そういう意味では現場至上主義でもないし、ヴァーチャルなストリーミングだけでいいよねということでもなく、自分はそのどちらでも成立している表現が好きなんですよ。無数にあるネット上の小さいコミュニティというのは、何かしらの共通言語で繋がっていると思うんですけど、僕はその共通言語をあまり信じていないんです。例えば、フランスの女の子や韓国に住んでるおばあちゃんが偶然耳にして『あれ、この人と繋がれる』と思うかもしれない音楽の可能性に意識が向いている。そのためにはなるべく意識を外に向けて、電波を遠くに遠くに飛ばしておく。そこで引っかかってくれた人を上手く集めたいんですよ。だからこそ、チャラいクラブでナンパ目的のお客さんから音楽マニアまで、色んな人が混在する空間を作り出すような、そんなパーティをやったりもしているんです」

2015年には、日本を代表するネットレーベル、Maltine Recordsなどから作品をリリースしているAvec Avecとの都市型ポップユニット、Sugar's Campaignでメジャーデビューを果たした彼は、矢野顕子や三浦大知とコラボレーションを行うなど、活躍の場をオーバーグラウンドにまで広げている。さらに彼の飛ばした電波は海を越え、マシューデイヴッドが主宰するLAのレーベル、Leaving Recordsに到達すると、ディールを獲得し、逆輸入の形で3年ぶりとなるアルバム『Collapse』をリリース。ジャジーなタッチとR&Bのメロウネス、ジュークやトラップといったジャンルをしなやかに横断するビートが柔らかく溶け合った作風は、よりアブストラクトな世界を描き出している。

「大学生の時に音楽で生きていこうと決めてから、まずは自分の音楽を聴いてもらえる環境をいかに作るかということを重視して活動してきたんですけど、2013年の前作『ABSTRAKTSEX』で、その当初の目的が予想外に早く叶ってしまったんです。でも、その先の目標が設定されていなかったから、その後は曲を作っても作っても、自分のためにしかならない状況から他者をどう設定するかということを考えるようになって。そのうちに、誰もいない世界、ヴィジュアル的には、(プレイヤーの視点で3Dの世界や空間を移動する)FPSゲームみたいな感じというか、電車が走っていたり、コンビニのATMは動いていたり、街並みはそこにあるのに人が誰もいない空間を想像する機会が増えたんです。この作品では、そんなイメージを自分なりに描きながら、曲のなかで、なんか肌寒い、なんかあったかいとか、なんか悲しいのに、ちょっとここはうれしいとか、すごい短いスパンで人の感情を揺らしまくって、聴き終わって、その揺れを整理した時に頭の中で作品が成立する、そんな作品を狙って作りました」

彼が緻密に紡ぎ出すサウンドと聴き手の想像力を喚起して描き出す、奇妙で美しいサウンドアートのその先には果たして何があるのか。

「新作のアートワークでは、花と陶器が並べて置かれているんですけど、花は本物で、その横にある陶器は影も含めてCGなんですね。今回のトラックは、実際に録った音とサウンドライブラリーの音を敢えて混ぜているんですけど、リアルがいいとか、"CGでこんなことまでできますよ"っていうことじゃなく、"今の時代、リアルとアンリアルは関係ないんじゃない?"ってことなんですよ。そうじゃなく、もっとフラットな視点で、自分は何に愛情が持てるかを追求することの方が大事だと思うんです。僕は、ライブでもステージに花を飾っているんですけど、なぜ花が好きかというと、美しさという役割は人間が与えたものだから。人間のそういう美意識を大事にして、美しい花だけを美しいと言うべきであって、『花だけでなく雑草も素晴らしい』っていう捉え方はあまり好きではないんです。今の価値観は、あれもいいし、これもいいっていうフラットな捉え方になっていて、それはそれでいいと思うんです。でも、どんな物事にも様式があるじゃないですか。例えば、僕はフランス料理が好きなんですけど、大抵のフレンチ・レストランに行けば、様式にのっとって食事ができる。その様式を楽しめるところが人間の美しさであって、作る音楽がアヴァンギャルドになればなるほど、自分のなかで様式の重要度が増しているんですよ。ベーシックな様式が分からなければ、アヴァンギャルドにはみ出していないですからね」

Credits


Photography Takao Iwasawa
Styling Koji Oyamada
Text Yu Onoda
Styling assistance Ai Suganuma and Hiromi Kanamoto

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