夢きらめいて

無限に光を放つ素材から生まれる、新しい道。日本人として12年ぶりにパリのオートクチュールのコレクションに参加したデザイナー中里唯馬に、手仕事とテクノロジーについて聞く。

by Kazumi Asamura Hayashi
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21 October 2016, 7:15am

ファッションデザイナー、中里唯馬。東京に生まれ、高校卒業と同時にファッションを学ぶため、アントワープ王立芸術アカデミーに入学。今年の7月に日本人のデザイナーとして12年ぶりに、パリのオートクチュールのコレクションに参加した。ゲストとしての参加ではあったものの、その場には彼とともにBALENCIAGAのデムナ・ヴァザリアが顔を揃え、まったく異なるアプローチを持つ2人のデザイナーがゲストとして選出された。この事実から、伝統あるクチュール界も新たな風を求めていたことは明らかとなった。2010年にファーストコレクションを発表して以来、彼は素材にこだわり続けてきた。ホログラム素材で作られた作品に魅了されるアーティストも数多く、レディー・ガガも彼の衣装をまとってステージに立ったその1人だ。そうしてテクノロジーと手仕事の融合をみごとに具現化する彼に、今回の挑戦について聞いた。

日本人がオートクチュールを発表するのは12年ぶりだそうですね。大変な道のりだったと思いますが、発表までの経緯を教えてください。
パリ・クチュール組合に参加を表明するにあたって、まず、日本で推薦状を集めることが最初の関門でした。"誰から推薦状をもらえるか"によって自分がどういうデザイナーかを証明するようなものなんです。たくさんの人に相談をして、色々な方々に協力をしていただきました。アントワープの学長だったり……その推薦状を持って、参加したいという意向を表明しに行きました。組合には長年日本人がいなかったからか、日本人のクリエイションが入ることに興味があると言われました。同時に日本人をメンバーに入れることの意味を聞かれたときに、日本人にしかできない手仕事や、日本にある素晴らしいテクノロジーを駆使した作品をパリで表現したいと伝えました。

今回のコレクションはどのようにアイデアを膨らませていったのでしょうか?
昨年、制作を始めるタイミングで、11月にパリでテロが起きたのはとてもショックでした。そして同じ時期に、ニュースでアイスランドが世界一平和な国として取り上げられていたのを見ました。犯罪件数もとても低く、警察が拳銃を携帯しない唯一の国というところに興味が湧いて、勢いで実際にアイスランドに行ってしまったんです。みんなピースフルだし、すごく大人びた国だなと感じました。自然を愛する国で、それを守ることが生活の一部になっているんです。実際に訪れてみると、氷と岩だけで人工物が何もない景色が何百キロにわたって広がっていて、地球にこんなところがあるのかと感動しました。その景色が今回のコレクションのインスピレーションとなりました。

これまでも最先端の技術を使った服作りをされてきています。テクノロジーを使うことについてのこだわりを教えてください。
テクノロジーは目的を達成するためのツールだと思っています。オートクチュールが衰退した理由の1つはコストの問題、そして時代の推移に伴って価値観に合わなくなったことが理由だと思います。それを何かに置き換えられたら時代の価値観に合うのではないか、オートクチュールが注目されるきっかけになるのではないか、と思いました。その要素の1つとして、テクノロジーが挙げられると考えています。同時に手仕事でないと作れないものもたくさんあり、日本の江戸切子、漆塗り、有田焼の職人さんにも話を伺ってきました。そうすることで、跡継ぎがいないこと、価格が現代の量産品にかなわないこと、クオリティーが均一ではないことなど、さまざまな問題点が浮かび上がってきます。それに加えて長いあいだ、職人の技術がそれ以外のものにどう使えるかに関して発想が広がらないことも、衰退してしまう理由の1つでした。僕はその日本の職人技術こそが、オートクチュールの舞台で活躍することができるのではないかと考えています。

今までもPVC素材を積極的に使われてきました。今回のコレクションではどのような素材を使ったのでしょうか?
2010年から試行錯誤を繰り返しながら、素材を作り続けています。その結果、進化して丈夫になったり、二次加工や、プリントもできるようになりました。今回のコレクションに関していえば、なるべくミシンを使わないようにしました。オートクチュールは手仕事で作る伝統的なもので、ファッションの原点です。そこに何かを投げかけることが自分の挑戦になっています。" 手仕事とテクノロジー""クラフトマンシップとテクノロジー"がテーマでもありました。服飾の歴史において手仕事がミシンに代わったように、今回僕はミシンに取って代わるテクノロジーを用いて服作りを試みました。使ったのはカットができるプリンターと印刷をするプリンターです。小さな"ユニット"という長方形を折り紙のように畳んだものを数百、数千個と組み合わせることで洋服ができあがる仕組みです。オーダーの際は、このユニットの数を調整することで顧客ひとりひとりの身体にフィットさせることができます。オートクチュールには、布をドレーピングし、身体に沿わせて縫う歴史があります。僕はパーツ式で体に合わせられる、新しいオートクチュールが作れたらいいなと思っています。遠い未来でしょうが、最終的にはone by oneの商品を現実にしたいのです。プロダクションの体制や顧客との対話も必要になってくると思うので、時間をかけていきたいと思っています。プレタポルテをやらないつもりはないのですが……今、使用しているホログラムの素材がフィルムなのですが、繊維にもできそうで、独特の光沢を布のフォルムに落とし込むことができそうなんです。時間も根気も必要ですけど……。今は既存のプリンターを使用しているのですが、いずれはプリンターから作りたいと思っています。100パーセントの理想を目指していきたいですね。

ファッションデザイナーとして、どのように世のなかに貢献することができると思いますか?
今はかぎられた人の洋服、衣装として存在していますが、皆がオートクチュールのカスタマイズをできれば服をもっと大事にするだろうし、自分のためだけに作られたものだから売らないで、ずっと着続けると思うんです。そうして自分だけの1点ものの服を皆が着るようになったら、もっと豊かになる。パリ・クチュール組合は僕の考えをどう思うか分からないので、そのことは彼らには伝えていません。伝統を守るべきと考えているのか、新たな価値観を生み出すことを良しとするのか。僕は両方あってもいいと思う。もちろん、オートクチュールには伝統があるし、それを否定するつもりもありません。

Credits


TEXT KAZUMI ASAMURA HAYASHI
PHOTOGRAPHY MONIKA MOGI
STYLING YUIMA NAKAZATO
Hair and make-up Rie Shiraishi at Valentine 
Model Manami Kinoshita at Zucca
Styling assistance Amachi Yoshimoto and Hanabusa Takeda
MANAMI WEARS ALL CLOTHING YUIMA NAKAZATO