「アメリカーナ」を見つめ直す

映画『アメリカン・ハニー』からレディー・ガガ最新アルバム『Joanne』まで——アメリカ次期大統領選挙を開始した世界は、“アメリカ”を改めて見つめ直すべきところにきているのかもしれない。

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nov 8 2016, 8:55am

過去100年にわたり、世界におけるアメリカの影響力は絶大だった。政治的・経済的な意味だけでなく、ポップカルチャーの面でも、その力は圧倒的だ。地平線までまっすぐに伸びる道を走ると、両脇の砂漠にひっそりと建つモーテルやダイナーが姿を現す——「アメリカーナ」という世界観が持つ魅力は、程度の差こそあれど、誰にでも訴えかけるものがある。そこには果てなくロマンチックな自由の精神と、誰にでも与えられたチャンスが香る。次期大統領選の投票日を今日迎えるアメリカは、これまで以上に世界におけるその存在感を増している。

レディー・ガガは最新アルバム『Joanne』のジャケットで、ピンク色のテンガロンハットをかぶっている。クロップトップにジーンズ、そしてティアドロップのサングラスというスタイルにこのピンクのテンガロンハットを合わせたアメリカンなルックは、生まれ変わったガガを象徴するスタイルとなるようだ。シングル「Perfect Illusion」のビデオでは、カットオフ・デニムにブラックのコンバットブーツ、そしてブラックTシャツというスタイルで四駆に乗り込み、荒野を走るガガ。そこに広がる風景は、観る者の心をくすぐるどこか親しみ深いイメージであり、アルバムのサウンドも同様に、アメリカ神話が持つ誰もが慣れ親しんだモチーフに彩られている。カントリーやフォークのスタイルを借りた曲調にフェラーリの車や俳優ジョン・ウェインを歌う音楽は、あまりにも絶えずアメリカから発信され続けてきたばかりに、もはやそこに感じられるべき情熱が軽薄に響いてしまうのではないかとさえ思えてくる。しかし、依然としてアメリカン・ミュージックは私たちの心を打つ。ガガが生まれる前にすでに亡くなっていたという叔母ジョアンヌ。その名を冠したこのアルバムは、ガガにとって新たな自己表現の手段を模索した作品となった。これまでに打ち出してきた表現の形を捨て、新たなメッセージを通して自己表現を試みた力作——これもまた、アメリカのポップカルチャー定番の流れでもある。

アメリカが古くならないことを証明したのは、ガガだけではない。イギリス人映画監督アンドレア・アーノルドが、雑誌定期購読の訪問勧誘クルーとしてアメリカの広野をいく若者たちを描いた映画『アメリカン・ハニー(American Honey)』は、カンヌ国際映画祭で審査員賞を受賞し、映画関係者たちから「現世代を映す作品」と絶賛を浴びた。撮影では、ウォールマートの駐車場やアメリカ西海岸のビーチで見つけた春休み中の高校生をスカウトし、演技経験のない彼らと共にオクラホマ州からノースダコタ州、そしてサウスダコタ州まで全道程10,000マイルをヴァンで回って、撮影をした。そこに映し出されたのはアメリカという空間と、そこに惑い、悩み、喜び、生きるユースの姿だった。アーノルド監督はこの作品を「ウェスタンとロードムービーという神話としてのアメリカ」と形容している。どこまでも続くハイウェイとアメリカ国旗柄ビキニが醸し出す世界観は、ラリー・クラークの作品にも共通するものがあり、また、失うものなど残されていない現代版ビートニクスの自由を探ったライアン・マッギンレーの作品にも通ずるものを感じさせる。

アメリカーナの世界観はアートから現実世界へも流れ込んでいる。2016年10月、『アメリカン・ハニー』出演者のひとりであるシャイア・ラブーフは、ラスベガスでミア・ゴスと正式に結婚した。エルヴィス・プレスリーのそっくりさんを証人とした完璧なラスベガススタイルで式を挙げたと伝えられている。ラブーフの結婚式が執り行われた会場からそう遠くない場所には、大統領選とアメリカ政治危機を象徴するトランプの名を冠したホテルが建っている。64階建で全客室数1,232部屋を構え、スパも完備されているという巨大施設だ。ラスベガスはその暗部の存在も含め、これまでも常にアメリカン・ドリームの象徴的存在だった。ドナルド・トランプの帝国そのものだ。大統領選を数時間後に控えたトランプは、移民排斥主義と差別主義、独裁主義を体現し、それを虚言と嘘と奇妙な髪型で飾った存在だ。一代で財を築いた男、「本当のアメリカ」という曖昧にして実態のない概念を繰り返し口にする男——欲をベースにした魅惑的なカルチャーが放つまばゆい光と、光がまばゆいばかりに生まれる濃い影……トランプはアメリカン・ドリームそのものなのだ。

アメリカン・カルチャーに根付く闇こそは、アーティストのカリ・ソーンヒル・デウィットが進めるプロジェクト『29 Flags』のテーマだ。デウィットは、チャールズ・マンソンのオカルト集団やジョン・F・ケネディ元大統領暗殺事件、OJシンプソン事件など、アメリカ史上もっとも残忍な殺人事件を詩にし、29枚のアメリカ国旗に書いている。i-Dとのインタビューの中で、彼はプロジェクトのインスピレーションについて「子供の頃、報道で知って恐怖に震えた」とそれら事件について触れ、ドナルド・トランプが世界に向けて繰り広げてきた醜態のキャンペーンにも言及している。デウィットはまた、毎朝国旗に敬礼をするなどといった行動に象徴される、アメリカ社会に広がる愛国主義を「ヘイトスピーチまがいの弁舌によって簡単に煽られてしまう外国人排他主義」と痛烈に批判した。

現代アート・シーンでもっとも良く名前を耳にするアーティストのひとり、フランス人のザ・キッドも「アメリカのユース」の暗部を探る作品を制作している。大きく口を開けて吠えるライオンをアザだらけの腕で抱きしめるスケーターや、祈りを捧げるような格好で銃口を口に咥える長髪の男の子など、アメリカのティーンをリアルに模った彫刻作品は、トランプが大統領になった暁にはそんなディストピアが現実になってしまうのかもしれないと思わせる。しかし、ザ・キッドがインスピレーションとしているのは、もっとずっと俗世的な「今日のアメリカン・ユースが存在する社会的現実」であるという。「僕はすべての作品で、社会の決定論について疑問を投げかけているんです。イノセンスと腐敗のあいだにある非常に薄い境界線、チャンスの平等、善悪のあいだに消えゆく境界線についてね」と、彼は『Amuse』とのインタビューで語っている。「星条旗に象徴される今日のアメリカ社会は、理想と現実、イノセンスと腐敗という対極をパワフルに象徴しているんです」

2016年、アメリカーナの世界観はもはや綺麗な絵ではない。大統領候補ふたりには決して見えていないであろう、社会の底辺にいるひとびとが体現する世界なのだ。

主たる産業などない小さな田舎町に育ち、健康保険サービスや将来の可能性などとは無縁のまま、社会の闇の中、それを闇とも知らずに生きる若者たちは嵐の中にぽつりと取り残されている状態だ。そんな彼らを、ガガは「Diamond Heart」で、「若くワイルドに、そしてアメリカンに——何者かになれる日を夢見て生きる私/完璧な存在じゃないかもしれないけど、それでもこの胸にはダイヤのハートが脈打っている」と歌っている。映画『アメリカン・ハニー』で主役を演じたサーシャ・レーンも、そんな彼らについて「大きな夢をなんて言われても、夢を抱くことができるような自由を私たちは与えられていないでしょう。私が演じたスターという女の子は、私と同じだけ世の中を知らない。ここは、すべてが美しいファンタジーの国じゃない。私もスターも、さんざん"そんなのお前には無理"って言われ続けてきたけど、それでもすべてのものに、すべてのひとに美しさを見出そうと必死に生きているのよ」と語っている。

ドナルド・トランプは極右を象徴する世界的な存在であり、私たちが直面している政治危機と古く極悪な権力を象徴する存在だ。アメリカーナの世界観は、世界に影響力を持ってきた。同じく、今回の大統領選挙もアメリカだけのものではなく、地球に暮らす全ての人に影響を及ぼすものだ。私たちはアメリカ大統領選の投票権を与えられてはいない。直接的に大統領を選ぶことはできない。それでもトランプが大統領になるのをなんとしてでも阻止したいと投票へ出向くアメリカ国民と、心はともにしている。アメリカが象徴してきた自由と平等の未来のために。

Credits


Text Anastasiia Fedorova 
Image via Flickr
Translation Shinsuke Kuriyama at WORDSBERG Inc.