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Diorオートクチュール・コレクション by マリア・グラツィア・キウリ

2017年春夏パリ・オートクチュールのショーが幕を開け、マリア・グラツィア・キウリが新たなDiorの世界を作り上げて、観客を魅了した。

by Anders Christian Madsen
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27 January 2017, 2:55pm

© Adrien Dirand

パリのロダン美術館の外には、長い列ができていた。マリア・グラツィア・キウリがアーティスティック・ディレクターに就任して初となるDiorオートクチュール・コレクションが現実のものとなるのを一目見ようと、世界中から人々が押し寄せたのだ。チンチラの毛皮コートを着て、こんがりと焼けた肌に地中海地方の訛りが特徴的な夫人は、Diorクチュール顧客仲間だというもうひとりの夫人に「ファンタスティックなコレクションになること間違いなしよ」と断言していた。ふたりは、それまでもキウリが作り出した2017年春夏Diorプレタポルテのコレクションがいつ店頭に並んだかについて熱く語り合っていたが、正確には、彼女たちが店頭で見たのは「We Are All Feminists(私たちは全員フェミニスト)」シリーズのTシャツだ。世界で数百万人の市民が参加して女性の人権を訴える大規模なマーチが行なわれたこの週末にあって、ふたりの会話は深い感動をもって私の胸に響いた。このふたりは、世界の1%未満と言われる富裕層にカテゴライズされる人たちだ。そのふたりが、猥雑な政治的視点に言及することなく、女性の存在を高らかに謳うTシャツについて話し、Diorが初めて迎えた女性デザイナーを、諸手を挙げて歓迎しているのだ。それも、キウリ初のDiorクチュール・コレクションを見る前に——ショー会場内では彼女たちを見失ってしまったのだが……それもそのはず、案内されたエントランスから一歩会場に入ると、そこには魔法がかかった森が広がっていた。美術館内のテントに作られた森を出たとき、きっとあのふたりは期待を超えるショーに胸を打たれ、浮き足立ってまた延々とDiorとキウリについて熱いディスカッションを繰り広げたに違いない。

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プレタポルテのコレクションに続き、キウリにとってはDiorでの 2作目となる今回のオートクチュール・コレクション。そこに見えたのは「気取りや虚勢にはまったく無関心」なキウリの姿勢だった。フェンシングをテーマとして女性の存在肯定を高らかに謳った2017年春夏プレタポルテ・コレクションに続き、キウリは2017年春夏オートクチュール・コレクションで「ユニコーンが住む森」をテーマに、お姫様の夢を描いた。会場にいたすべてのクチュール顧客が息を飲むのがわかった。童話の世界そのままのドリーミーなチュールは、Valentinoでもキウリが見せていた細工装飾の美を極めていた。登場したドレスはどれも顧客からオスカー女優たちまでを唸らせること請け合いの美しさだったが、しかしキウリ自身は先のプレタポルテ「フェンシング」コレクションに続き、今回のコレクションでもDiorというメゾンにより明確で大胆なヴィジョンを打ち出してもいた。「私は"夢"であると同時に、着ることができてモダンであるという服要素も大事にしているの」と、キウリはバックステージで話してくれた。彼女はその巧妙なテーラリングの内に、Diorが誇る特徴的な構造を表現し、しかし同時にそこへソフトな印象を織り交ぜて、新しいDiorの世界を生み出した。「Diorには、クリスチャン・ディオールとイヴ・サン・ローランによって築かれたトラディショナルな世界観があった。それをジョン・ガリアーノがよりシアトリカルな世界観に変え、ラフ・シモンズによってよりモダニスト的な世界へと変貌を遂げた。そう考えたとき、『このメゾンは新しいものの考え方に対してオープンな心を持っている』と思い至りました」と彼女は話した。

Valentinoではルネッサンスやヴィクトリア時代の服にルーツを探った、ともすれば禁欲的ともいえるシルエットを追求して評価を得たキウリ。同様の方向性でシルエットを探った結果、Diorの世界観もまたValentinoでの作品に負けず劣らず童話のように素晴らしいものとなった。ラッフルの襟部分から床まで伸びるブラックのプリーツ・ガウンや、くるぶし丈のプリーツスカートに合わせたフード付きバー・ジャケットなどは『眠れる森の美女』で悪役として描かれながらも元は心優しい妖精だったマレフィセントに似合いそうだ。そう、このコレクションには、寓話的な"悪"の要素が感じられるのだ——キウリは、少しの残酷さを表現するときにその本領を発揮する。今回のセットについては、初のクチュール・コレクション制作を前にDiorのアーカイブを研究した結果の世界観だったのだそうだ。「Diorのアトリエという確立された世界でいまだ核心にたどり着けていない私の今を表現しようと、『Diorという迷宮に迷い込む』というテーマの元に森を作り出したの。すべてが新しい世界——フランスでのやり方は、私がこれまで経験してきたイタリアでのやり方とずいぶん違う。私はフランス語も話せないし——でも私はきっとやり遂げてみせます」。ジョン・ガリアーノが壮大でマジカルなDiorを生み出すうえで用いたアプローチを、キウリもまた、夢をもって用いている。2017年春夏オートクチュール・コレクションの初日、キウリはファッションに温かさと魔法を生んでくれた。そしてそれはとても素晴らしい新世界だった。きっと、あのふたりのクチュール顧客も諸手を挙げてこの意見に賛成してくれるに違いない。

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Tierney Gearon for Dior

Credits


Text Anders Christian Madsen
Translation Shinsuke Kuriyama at WORDSBERG Inc.