『50年後のボクたちは』映画評

かつて14歳だったすべての人へ。ドイツで220万部を売り上げた国民的小説を巨匠ファティ・アキンが実写映画化。オンボロ車でいく、少年2人のロードムービーを、翻訳家の三辺律子がレビュー。

by i-D Japan
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14 September 2017, 9:58am

映画の冒頭で、14歳のマイクはみんなの前で作文を読まされる。そこで、アルコール依存症の母親のことを面白おかしく披露したら、教師に「こんな不快な作文ははじめてだ」と叱られ、さらに「破って捨てろ」と言うので破ろうとしたら、「本当に破る奴があるか!」とますますどなられる。どうしたらいいのかわからないマイクに、教師はただ「よく考えろ」とくりかえすだけだ。

このシーンを見ただけで、たちまち14歳のころに引きもどされる。そうそう、大人って、「出ていけ!」とか言っておいて、言われたとおりにすると怒るんだよね、とか。「よく考えろ」っていうのは、どうして悪いのかちゃんと説明できないときの決まり文句だし、とか。

そもそもマイクは、依存症のことはさておき、自分の母親のことを本当に「面白い」と思っている。なにしろ、モットーは、「1.なんでも話してしまえ 2.他人を気にするな(ちなみに原作だと「他人がどう思おうと、そんなのくそくらえよ)」という母親なのだ。でも、そんなことは誰もわかってくれないし、父親は浮気してるし、世界一美人の同級生タチアナには見向きもされないし、まあそれを言うなら、カッコいいわけでも、スポーツ万能なわけでも、友だち多いわけでもないし。現実と理想のギャップは果てしない。
あー、わかる。そういうもんもんとした気持ち。

© 2016 Lago Film GmbH. Studiocanal Film GmbH

そんな学校生活を送っていたとき、チックが転校してくる。
チックはロシアからの移民で、外見はアジア系。独特の立ち振る舞いからロシアマフィアの息子らしいというまことしやかな噂がたつ、絵に描いたような不良少年だ。そのチックが、夏休みの初日に盗んだ車でマイクを迎えにくる。「ワラキア」へいこう、と言って。
ワラキアとは、ドイツ語で「未開の地」を表わす言葉。しかも、マイクが取り出したスマホをチックは車の窓から投げ捨てる。地図もスマホもなくなった状態で二人が目指すのは、「ひたすら南」。これで、完璧なロードムービーの舞台が整った。あとは、ふたりの旅に身をゆだねるだけだ。

その夜、ふたりは風力発電機の下で星空を見あげながら夢想する。宇宙のどこかに生物がいて、人間の二人組が車を盗む映画を見ているかもしれない。みんなは人間や車は空想でSFだと思っているけれど、その中で二匹の虫だけが、その映画を実話だと信じる。「二匹は俺らを、俺らは二匹を信じる」。

そして気がつくと、わたしたちもマイクとチックを「信じている」。
14歳という年齢を持てあましている人から、「50年後」から当時を振りかえりたい(もどりたい?)人まで、たくさんの人に見てほしい!

最後に。本映画の原作は、ドイツのベストセラーYA小説『14歳、ぼくらの疾走』(ヴォルフガング・ヘルンドルフ作 木本栄訳 小峰書店)。映画のシーンとそっくりのミヒャエル・ゾーヴァ装画の表紙が目印なので、こちらもぜひ。

9月16日(土)より、ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿シネマカリテほか全国順次ロードショー!

Credit


Text Ritsuko Sambe

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fatih akin