シェイン・オリヴァーによるHelmut Langに“セックス”が復活

復活はそれだけではない。ヘルムート・ラングが90年代にミューズとしたキルステン・オウエン、ミッシー・レイダー、ダニエール・ジネイクらも応援に駆けつけた。

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15 september 2017, 6:58am

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Helmut Langを解釈する上で、シェイン・オリヴァーがテーマにしたのは「官能」だった。圧倒的な影響力を誇ったこのブランドにデザイナーとして参画したオリヴァー(エディターとしてブランドの再構築にあたっている『DAZED』のイザベラ・バーリーの指揮のもと、現在多くの計画が進められているが、彼の起用はそのうちのひとつ)は、Helmut Langが得意とした世界観の核部分——セックスに目を向けた。オリヴァー自身のブランドHood by Airもまた、セックスの世界観に精通している。活動休止前最後のショーでは、ポルノサイトPornHubとコラボをして、髪や体にワセリンを塗ったモデルたちがセックス狂時代の70sサングラスや、不吉そうなカウボーイブーツ、そして「Hustler(売春婦・男娼)」の文字がプリントされたTシャツなどをまとってランウェイを歩く圧巻のショーとなった。

無駄を削ぎ落としたベーシックな服にフェティッシュな実験性を取り入れたHelmut Lang——オリヴァーはショーのバックステージで、自身がいかにその世界観に惹かれたかについて話した。90年代半ばに発表されたHelmut Langのコレクションは、ペンシルスカートやTシャツが印象的だったが、たとえばシルバーのメタリックな下着のような官能的なアイテムもあった。オリヴァーは、ブランド創設者であるヘルムート・ラングが発明したこの"下着"の要素に着目し、今回のコレクションで"上着としての下着"としてよみがえらせた。

ショーのオープニングは、Hood by Airで常連モデルだったセリーナ・フォレストが飾った。"ブラジャー"をベースとして作られたルックが多く登場した今コレクションだったが、彼女はそのひとつをまとってランウェイに現れた。その意図的な不完全性は、「官能」の意味を不調和のデザインのうちに探っていた。それ以降は、カップが左右に大きく離れているものや、ブラを極端に大きくカットしたものも見られた。ソフィア・ラマー(Sophia Lamar)は、もっとも小さなブラ(HelmutのHをかたどった乳首パッチ)をまとって登場した。

ストラップやメタルのOリングだけで作られた拘束服のようなシャツや、赤いレザーの股間カップなどだけではなく、 控えめなセクシーアイテムにも注目してほしい。たとえば血のように鮮やかな赤がまだらな模様を描くラップアラウンドのコートや、ストラップが交差するベビーピンクのミニドレス、絶妙なオーバーサイズ加減のパーカ、そしてHELMUT LANGロゴが配されたTシャツなどだ。街中でも、そしてもちろんセックス・クラブでも着ることができるアイテムばかりだ。シューズもまたクールと奇想をうまく両立させていた。南京錠が付いたカウボーイブーツ、先の尖ったハイヒール、ジップが付いたレザーが開かれて立ち上がり、バインダーのように見えるレザーバッグと呼応する世界観のヒール付きサンダルなどが見られた。

スーツも強い印象を残した。それはコレクションの随所に見られた楽しい雰囲気とは対照的なものだった。惜しまれつつも閉店したブロードウェイのデパート<Pearl River Mart>を会場としたランウェイを、計算し尽くさせたスーツに身を包み、ブリーフケース(透明のアクリル製でやはりセクシーだ)や新聞(見出しは「HELMUT LANG」)など、ビジネスマンを彷彿させるアイテムを持ったモデルたちが闊歩した。オリヴァー曰くコレクションの物語は、映画『ボディガード』と「強いひとにも保護が必要なときがある」という考えに着想を得ているという。スーツを着たモデルたちは、ときにヒールを履いたモデルたちの後ろにぴったりとついて歩いていた——まるでボディガードのように。

クロージングでは、『ボディガード』でホイットニー・ヒューストンが歌った90sの名曲「I Have Nothing」が流れるなか(選曲家イアン・イサイアによる選曲)、ヘルムート・ラングのミューズだったダニエール・ジネイクが、きらきらと輝く透明のグラファイト色のドレスを着てランウェイを歩いた。Helmut Langが持ち前のミニマリズムで、ホイットニーのために美しいステージ衣装を作り上げた——そのドレスは、そんな世界観を放っていた。

ショーにはいくぶん懐古的だったが、若さへの祝福でもあった。会場に詰め掛けた観客のほとんどは、今はなきStyle.comのアーカイブやTumblrでしかHelmut Langを見たことのないHood by Air世代で、90年代にヘルムートの服をリアルタイムで着ていた世代はまばらだった。今回のコレクションが、そのどちらにも喜ばれるものであったことを願うばかりだ("ホイットニー・ドレス"は誰もが着たくなる仕上がりだった)。なんにせよ、オリヴァーのデザイナー就任も、彼が掲げるヴィジョンも、「若いとき、ひとは恐れ知らずでクリエイティブだ」というヘルムートの言葉をいかんなく反映していたと言えるだろう。