母親の背中を見つめて:趣里 インタビュー

趣里、28歳、女優。バレエ留学での大怪我、そこから役者という新たな夢を見つけた。「“変われるかもしれない”と希望を持つ人に、役を通して少しでも何かのきっかけになれたらうれしい」。やさしいまなざしを向ける彼女は、挫折から光のある方へ向かって、強い一歩を踏み出していた。

by Yoko Hasada
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12 November 2018, 8:06am

この記事は『i-D Japan No.6』フィメール・ゲイズ号から転載しました。

色白の華奢な身体からスラリと伸びる手足、腰まである黒髪。落ち着いた、上品な印象とは対照的に趣里は明るく笑う。「第一印象と違う、とよく言われるんですよ」。しかし、ときおり考え込み自分のなかにある最適な言葉を探すような姿に、彼女の誠実さを感じた。信頼できるスタッフとはハグもするし、最上の言葉で感謝を伝える。それは浅薄な言葉ではなく、正真正銘の本心なのだろう。

「誰しもが、自分自身も他人も環境も“もしかしたら変われるかもしれない”という希望を持っているから、生きているのだと思います。そう思っている人の心に少しでも寄り添えたら、という気持ちがあるのかもしれないです」。俳優を志したきっかけを聞くと、すこし抑えた声ではっきりと答えた。

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4歳からバレエをはじめ、バレエ一色の日々。当然のようにバレリーナを目指し、高校一年生でイギリスにバレエ留学をした。しかし、1年目で大怪我。「もう、これまでのようには踊れないだろう」と医師に告げられた。「バレリーナになるビジョンしか描いていなかったのに、1日で夢が消え去ってしまって。絶望とともに、人生の厳しさを感じました。ものすごく落ち込んで、無意識的に記憶を消しているのかもしれないほど当時を思い出せないです。でも、いろんな人に会って次第に傷が癒え、前を向いていかなきゃ、と思い直して、大学に行こうと。高卒認定をとって、芸術学部のある大学に進みました」。何をやりたいのか考えたとき、見つけたのが芝居だった。演技のレッスンに通い、芝居のおもしろさにハマっていったという。「結局私の身体には表現や芸術が染み付いていて、あらためて表現することが好きなんだと思えました」

また、辛かった時期に観劇した舞台との出会いも大きかったという。「見たことのない世界に連れて行ってくれて、嫌なことも忘れられて、心が潤いました。岩松了さんの作品が好きなのですが、普段感じている言葉にしづらいことを詩的に気づかせてくれる。映画もドラマもそうですが、役を通して人の心にアプローチできることを知れました」。芝居に夢を見出した彼女は、舞台や映画、着実に経験を積み重ねながら歩みを進めてきた。楽な方には流されず、挫折を踏み台にできる強い一歩。そう簡単に乗り越えられるものではないのではないか?「本当にそうですよね。でも......落ち込んだときって何もわからなくなる。辛い経験をしたからこそわかる、繊細なその気持ちを大切にして引っ張り上げたいと思うので、役を通して苦しんでいる人に「ひとりじゃないよ」と伝えたいから乗り越えられたんだと思います。特に最近は、人の心に訴えかけたい気持ちが強いです」

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話を聞いていても、これまでの役柄からも、彼女はあまり「男女」にとらわれていないのではないかと感じていた。そう伝えると「とらわれないし、とらわれないようにしています」と答えた。それは育てられた環境がそうさせたのか。「相手がどう考えているのかは気になりますが、そこに男女の差はないです。人の心の動きに環境は関係したとしても、性別より個が大事なんじゃないかなって。印象的なのは、バレエを辞める辞めないなど、自分の人生のターニングポイントになりうる場面では必ず「自分で決めなさい」と言われて育ってきました。人の顔色を伺うタイプだけれども、最終的な選択肢が自分にあることが 性別より個体差が大事だと思うようになった理由かもしれないです」

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主演をつとめる映画『生きてるだけで、愛。』では、寧子という女性の身体を借りるが、混沌とした現実から抜け出そうとするメッセージは非常に普遍的だ。「大なり小なり、存在価値や存在意義を認められたいと思うことは誰しもが抱えている心の問題だと思います。彼女の場合はそれが抑えられず外に爆発しているだけで、男性である津奈木(菅田将暉)も救われたいし変わりたいと思っていたはず」

割り勘でいいし女性扱いは苦手だという、さっぱりとした性格。女子校では、思春期の女の子同士の細かなやり取りが面倒だったと笑った。そんな彼女が唯一女性性を感じる存在、それは「母」だという。「何かあると、母の母性を求めてしまうところはあります。聞いた話では戦争に行く兵隊さんのほとんどが「母上様」に手紙を送るらしいです。世界の象徴的なマリア様やマザー・テレサなど、母から産まれた私たちは、心のどこかで母のような存在を求めるのかもしれないですよね」

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バレエからの挫折を引っ張り上げてくれた、些細な悩みを聞いてくれた。深い愛で育てられた彼女には、母の生き様が宿る。「年齢を重ねてやっと、母が私にやってくれていたことは当たり前じゃないとわかって、母の存在を近くに感じるようになりました。自分が子どもを産んだら同じように何をしても味方でいられるかわからないですが、どんなことにも動じない強くカッコいい母の背中でありたい。生きていると負けそうになるときがいっぱいあるので、落ち込んでもぶれないように、信念のようなものを持ち続けたいです」

女性のまなざしとは「平和に手を差し伸べること」と彼女は言った。「女性の心で産まれてきた表現者として、女性が経験する苦しみや悩みに対して役を通してアプローチしたいです。いろんな生き方を提示できる時代になったことも大きいと思うので、様々な女性像を演じたいですね」。変わろうと希望を抱くこの世界にいる誰かに届けと、誠実に役と向き合う。「傷って、本当に些細なきっかけで治ったり戻ったりするんですよね。今はいろいろ乗り越えて、時間が経って、やっと落ち着いてきたところ。だから、手を差し伸べたい気持ちが強くなったんだと思います。役以外でも、心理カウンセラーにも興味があるんです」。彼女は挫折を経験しているからか、痛みを昇華しようとするやさしさが根底にある。考えすぎて寝られないこともあるような繊細さのなかにある強い芯はあたたかく光り、誰かの道を照らし続けるのだろう。

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Credit


Editor Yuka Sone Sato.
Text Yoko Hasada.
Photography Sarai Mari.
Styling Megumi Yoshida.
Hair and Make-up Hisano Komine at donna.
Styling assistance Hikari Tanaka, Sara Tanaka.
Location Public House Epilogue.

SHURI WEARS ALL CLOTHING LOUIS VUITTON.

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