KID FRESINOが語る、新宿の多面性と欲望

3年振りのアルバム『ài qíng』を発表したラッパー/ビートメイカーのKID FRESINO(キッド・フレシノ) 。話題を呼んだ「Coincidence」のMVに登場する新宿は、彼が小さい頃からの馴染みの街だった。最近になって「世俗的なことも楽しめるようになってきた」というフレシノが新宿の魅力とその“音のなさ”を語る。

by Yu Onoda; photos by Tsukasa Kudo
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27 December 2018, 7:50am

最新アルバム『ài qíng』において、バンド形態での楽曲やダンスミュージックとのクロスオーバーを果たし、日本のヒップホップシーンに大きな衝撃をもたらしたラッパー、ビートメイカーのKID FRESINO。今回、kudosのデザイナー、工藤司をカメラマンに、フォト・シューティングを行った新世代のアイコンが撮影の地である新宿の街と自身の内面的な成長について語る。

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──今回、新宿でフォト・シューティングを行ったということですが、最新アルバム収録曲にして、山田智和監督が手がけた「Coincidence」と「Retarded」のミュージックビデオにも新宿の街が出てきますよね。

FRESINO:当初、「Coincidence」のビデオは台湾で撮ることになっていて、打ち合わせも2回したし、どう撮るかもほぼ決まっていたんです。でも、今年1月に大雪が降った日、ちょうど実家に帰っていたら、山田さんから連絡があって、「今から撮影したい」って言われて。撮影場所が新宿になったのは、2人のちょうど中間地点だったというだけ(笑)。ただ、その後、「Retarded」の撮影を新宿で行ったのは「Coincidence」、「Arcades ft. NENE」と続く山田監督のミュージックビデオ三部作のストーリーを完結させたかった俺の意向ですね。新宿の街から始まり、流氷が接岸した北海道に飛び、「Arcades」ではゆるふわギャングのNENEちゃん、Ryugo(Ishida)くんと車で戻り、「Retarded」で夕暮れの海岸沿いから新宿に戻るっていう流れを勝手に考えたんです。

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──その「Retarded」ではリリックでも新宿の歓楽街や高層ビルについて言及しています。

FRESINO:実は、新宿って、小学生の頃から誕生日になると随園別館っていう中華料理店に家族で食事に行くのが決まりだったり、映画を見に行くために出かけたり、物心がついた時から自分にとっての都会そのものだったんです。当時は、もちろん、自分の地図に歌舞伎町だったり、大人の街としての新宿は載ってなかったんですけど、大人になってからも遊ぶところといえば、新宿だったんですね。ただ、ソウルバーに通ったりしているうちに、自分のなかでかつて抱いていた新宿のイメージはどんどん変わっていって、それが何かというと、簡単に言ってしまえば、陰と陽なんだけど、「Retarded」はその陰の部分に触れることで知った感情が凝縮されているというか、新宿で飲めない酒を飲んで、昼近くにグチャグチャになって道路で起きた次の日に書いた曲なんです。

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──普段、冷静で酒も飲まないフレシノくんにしてはかなり珍しいことですよね。

FRESINO:そう。普段、そんなことはあり得ないからこそ、その記念として曲にしたんです。

──そして、何より面白いのが、フレシノくんが大人になったことで、かつて、漠然とした都会の街だった新宿の見え方が変わったというところ。言い方を変えれば、新宿は人間の成長を映し出す街とも言えるのかな、と。

FRESINO:以前、東京タワーから眺めたことがあるんですけど、遠くから見ても、新宿は街として不穏というか、他の街と比べても、なんか暗くて、あの一帯だけで一つの国として成立しているような、そんな印象があるし、歌舞伎町に新宿伊勢丹、二丁目、新宿御苑、ネパールやベトナムの人も増えて多国籍な街になりつつあるコリアタウン、新大久保であるとか、新宿はすごい多面的で、自分のなかでは語る必要がある街という感じなんです。ただ、その一方で、今の新宿にはあまり音楽を感じないというか……。

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──60年代はジャズとグループサウンズ、70年代はヒッピーとフォーク、80年代はパンクやモッズだったり、その時代の音楽を象徴するスポットがかつての新宿にはあったと思うんですけど、そういえば、今の新宿には時代を象徴する音楽的な場所がないかもしれないですね。

FRESINO:俺がニューヨークに行く直前、(最新アルバムでエンジニアを務めたIllcit)Tsuboiさんに連れて行ってもらって、サウンドシステムがものすごい『ナルシス』とゴールデン街の『シラムレン』というジャズ喫茶をハシゴしたのが自分のなかでは印象深かったりするんですけど、音楽のために新宿に行くことはほとんどないんです。

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──それでも新宿に惹きつけられるのは何故なんでしょうね。

FRESINO:新宿って、ギラギラしているじゃないですか。自分は欲がない人間だと思っていたけど、そう思い込んでいた、ある種のポーズを心はイヤがっていたのかもしれないというか、実際には欲があるからこそ、そういうギラギラしたところに惹きつけられるのかもしれない。

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──生の原動力である欲望を自覚したことは死から生に振り切れた今回のアルバムにおける変化と大いに関係がありそうですね。

FRESINO:坂本龍一さんがご自身のラジオ番組で岡村靖幸さんと対談していたんですけど(『RADIO SAKAMOTO』13年1月6日放送回)、“音楽制作は女性に対する求愛行動だ”という話をされていて、錚々たるお二人が欲望と音楽の繋がりを肯定していたことに安心させられたんです。かつての自分は映画を観た後、小一時間続くような生ぬるい感動が大嫌いで、色んなことを感じたり、感動したりして、自分の感情を潤すような行為はダサいなと思っていて、どこか閉じていたというか、欲のなさが自分の強みだと思っていたんです。でも、それがここ数年かけて徐々に変わっていって、新宿の多面性が受け入れられたように、みんなが普通に楽しんでいる世俗的なことも楽しめるようになってきたというか、そういう意味で、今は人間的な部分と理性的な部分のバランスが一番いい気がするし、そのバランスを保っていたいですね。

https://spaceshowermusic.com/artist/12292204

Credit


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Text Yu Onoda.
Photography & Styling Tsukasa Kudo.
Styling assistance Rie Osato.