Wales Bonnerの最高傑作:18AW ロンドン・ファッションウィーク メンズ

2016年にLVMHプライズを受賞したWales Bonnerのショーこそ、今シーズンの最高傑作かもしれない。

by Steve Salter; translated by Aya Takatsu
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16 januari 2018, 10:35am

2014年にウェールズ・ボナーがセントラル・セント・マーチンズを卒業して以来、ソフトさと感受性が私たちをWales Bonnerの世界へと深く、深く誘ってきた。時間、大陸、そして文化を超越しながら、彼女の物語風に縫い上げられたデザインは、本来一瞬で消えてしまう少年の曖昧さを遊び心たっぷりに留め続けている。その代わりに私たちが見失うのは、丁寧につくり上げられたコレクションに魅了される自分自身だ。2018年秋冬コレクションで私たちが乗せられたのは、冬のカリブ海に戻ってくる一艘の舟。ほんの少し40年代のフレンチ・クチュールの影響を受けたイブニングーーハイウエストで官能的なテーラリング、象牙色のシルクでつくられた大きくて丸みのあるポケットーー機能的でありながら美しい防水性のあるアイテムが並んだ。


「長いあいだ航海に出たのち、ある島に戻ってきた船乗りがテーマです」と、バックステージでウェールズ・ボナーが優しい口調で説明してくれた。「エメ・セゼールの『帰郷ノート』と、フランス領であるカリブ諸島を離れ、パリで学び、故郷に戻る際に視点が変わるという考えについて、ずっと想いを巡らせていたのです。故郷の島を遠く離れ、慣れ親しんだその世界を距離を置いたところから観察するということですね」。セゼールやミラー、シャープやウォルコットなどの宣言や散文をただ真似するのではなく、長きにわたってインスピレーションを与え続けたこの詩人、そして思想家のことばに彼女は同調し、伝統とハイテク両方の素材を使って彼女自身の言葉を紡ぎ上げていったのだ。それはまさに感動的で、パワフルなものだった。豪奢な18世紀ヨーロッパのインテリアに囲まれながら、グロヴナー・プレイスのタウンハウスで開催されたショー。そこにハーレムに拠点を置くアーティスト、エリック・N・マックを招いた。アイデンティティを進化させるというこのコレクションを貫くテーマと呼応し、フロントロウからキャットウォークまでを覆うインスタレーションを制作してもらったのだ。

「私が表現したいと思っている魂のこもったもの、そしてアイデンティティの集合体を賛美するという考えがそこにはあります」

彼女が追求しているアイデアは、精神的そして物理的なつながりと断絶である。「クレオールのアイデンティティとその曖昧な立場という感覚について考えました。私自身が親近感を持つものでしたから。距離を置き、その一面を理想化すること。これは私が個人的に考察し、つながる方法なのです。私が表現したいと思っている魂のこもったもの、そしてアイデンティティの集合体を賛美するという考えがそこにはあります」。それが顕著に表れているのが、40年代にアメリカ沿岸警備隊の一員だった著名なアフロ・アメリカンの画家、ジェイコブ・ローレンスが描いた「Migration」シリーズの作品をプリントや手描きでリプロダクトしたアイテムだ。「共同体であることを喜ぶ群衆の姿が見えるでしょう。これを私たち独自のやり方で再現することに夢中なんです」と彼女は説明した。

批判理論、作曲、文学、歴史を含む分野から幅広い知識を得ているウェールズ・ボナーは、ファッションデザイナーであるのと同じくらい、これからもずっとアーティスト、民族誌学者、詩人、そして学者であるに違いない。だがその滑らかで官能的なスーチングは、今や彼女を特別な存在にしている。これはロンドンファッションウィーク・メンズのスケジュール上のことではなく、世界規模でも言えることだ。たった数日のうちに、彼女は最高レベルの、もしくは最高の2018年秋冬コレクションを発表したのだから。2015年にセントラル・セント・マーチンズの学位を取得したばかりの彼女にとっては、悪くない結果だ。

Credits


Photography Mitchell Sams