Photography Kay Ibrahim

スケプタ、ヴァージルのお墨付 次世代の英ロックスター:ベイカー

スケプタやヴァージル・アブロー、エルトン・ジョンも認めた彼の楽曲「BADlands」のMVをi-Dが独占公開。それに際して、携帯を持たない彼に電話インタビューを行なった。

by Douglas Greenwood; translated by Aya Takatsu
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30 May 2018, 9:02am

Photography Kay Ibrahim

現在、いつになく停滞しているロンドンのロックシーン。過去にとらわれ、痛々しいほど進化せず、カラードのミュージシャンたちが切り拓いたジャンルであるにもかかわらず、多様性が欠如している。「音楽的なアナーキー」を起こすべきときがあるとすれば、今をおいてほかにはない。

流行の先端を行く者たち(ロックがお休みに入っているあいだに、グライムが政治的な論争を担ってきた)によって、このジャンルが今にもお蔵入りになってしまいそうな時代に、独特のパンキッシュな音楽を携えたひとりのキッズが、ロックを2018年に差し込んできた。カムデンで生まれ育った彼の名は、ベイカー(Bakar)。才あるロックスターの例にもれず、彼と連絡を取るのはひどく難しい。

今どきの他の駆け出しスターとは違い、ベイカーは恥知らずなSNS営業でファンを獲得したりはしない。ほとんどSNSはしないのだという。代わりに、彼は過去のほとんどのロックアイコンがしたのと同じ方法をとっている--つまり、音楽をつくり、人がそれを聴いて、口コミが広がっていくのだ。カルト的人気を誇るベルリンのYoutubeチャンネル〈COLORS〉で少し前に彼が披露した「Big Dreams」や「Scott Free」などの曲によって、Spotifyのコア・ユーザーたちが彼の作品を知るようになったのがここ数年のこと。最近では、その中毒性ある「All In」が話題となったほか、現在は、今日もっとも有力なストリートウェアのアイコン、ジョーダン・ヴィッコーズ(Jordan Vickors)と制作をともにしている。

とびきり新鮮なことに、ベイカーは電話を持っていない。今回i-Dは電話番号を2つ手に入れていたのだが、ついに2つ目の番号で彼と連絡を取ることができた。しかし、ひどく忙しいときにかけてしまったようだ。彼はライブをするため、リーズ行きのバスに親しい友人10人(ジョーダンもいた)と乗っており、席を占領しているところだという。まるでハウスパーティ中に戸棚の中から電話しているような感じだ。大きな笑い声や話し声が後ろで聞こえているが、驚くべき自信をもって音楽界に殴りこんできた男に、これ以上何を期待できるだろうか。

ついに彼の曲は、現代の音楽、そしてカルチャーシーンで多作として知られる何人かの手に渡ることとなった。今これを書いている時点では、スケプタ、ヴァージル・アブロー、エルトン・ジョンが全員、彼の曲を好きだと認めている。デビュー間もない時点で、こんなことになるとは本人も驚いたに違いない。。「力にはなるけど、あんまり意味がないことだね」と、ベイカーは話す。「知られるのはうれしいけど、危険でもあるから」。どうしてだろう? 「だからこそ、俺はSNSをしないんだ。毎日、自分のことを素晴らしいって言う人がいるなんて。でもエルトン・ジョンには言うぜ。ありがたいって!」彼は意見を少し訂正して言う。レジェンドからの賛辞を却下したように聞こえるかもしれないと気づいたのかもしれない。「そのことでお高くとまりたくはないんだ。それはありがたいけど、もっと前に進まないといけない。でも賛辞は、自分がやってることがうまくできてるって証拠だと思って受け取っておくよ!」

初のフルアルバム『BADKID』には、これまで称賛ばかりが届けられている。自身の半生を思い返しながら、ロンドンの小さなスタジオで18ヶ月かけて制作したものだ。破綻した関係とこれから花開こうとしている関係の双方に影響を及ぼすような、もっとすごいことをしたいという彼の欲求をすべてぶつけたこの作品は、ロックならではの節回しを、現代的にツイストさせている。ぼんやりと弱気な「4am」のようなトラックは、アンドレ・3000がプロデュースしたかのように聴こえる一方、「BADlands」はマイク・スキナーから出てくるようなスマートな熱量をたっぷりまとっている。

「現時点では新しいものはないよーー前に聴いたことがあるものさ」。ベイカーはくぎを刺す。「プロデューサーと俺は、自分たちが好きなものをどうしたら刷新できるかを考えたんだ。だから『BADKID』はスクラップブックみたいなものだよーーほかとは違う雰囲気やアイデアが詰まった濃密な30分になってる。音的には、今のロンドンのサウンドだね。だからみんなひきつけられるんだと思う」

マックス・ロビンソンが監督した「BADlands」のMVの中で、カムデン・タウンを跳ね回って警官を振り切ろうとするベイカーが最終的に行きつくのは、自身の想像の中にあるファンタジーな世界だ。人種的な側面から描かれる若い黒人男性に対する社会の妄想、ロンドンでの暮らしに内在する重圧、現代社会における君主制について、音楽を通して中指を立てたステイトメントのようにも聞こえる。「俺の人生のここ4年間を総括した曲なんだ」とベイカーは話す。「社会的な主張ってところかな。超写実主義さ!」

彼の書く歌詞は、しばしば体制や、志の高い若者の権利をはく奪することに対する批判となるが、自身の音楽が政治的であるのは意図しているわけではないという。「それはあまり重要じゃない」とベイカーは肩をすくめる。「俺は政治家じゃないから。でもこれからも自分の頭にあることを言っていくよ」。ベイカーの主張を伴う作詞は、彼の過ごした思春期に由来しているのかもしれない。反抗的な学校生活を過ごした後に「田舎に送られた」ことで、彼の音楽的嗜好は、J・ディラやディプセット(Dipset)のようなラッパーから、フォールズのようなよりインディ色の強いロックへと広がっていった。フォールズのアルバム『Antidotes』は、初めてベイカーを「打ちのめした」作品だという。この対極にある2つの音楽が、彼の音楽を特異でジャンルを特定しがたい存在に仕立てているのだ。

スケプタやワイリー、ストームジーの活躍によって大きな影響力を持つグライムが、ロンドンやほかの大都市で育つ若者に目標を与えているとするなら、ベイカーは新しいロック時代のパイオニアになり得たといえるかもしれない。「俺はまったく違う世界を目指してる」と彼は言う。ではロックスターとして歓迎されることについてはどうだろうか。彼は笑い、隣に座っている友人に私の質問を繰り返した。「アイ・アム・ロック・アンド・ロール・スターだ!」単語ごとに強調して言う。M1モーターウェイを中ほどまで北上した汗臭いバスの中に、彼の笑い声が響く。「本当だぜ!」

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This article originally appeared on i-D UK.

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