Affleck, Barbara

米国18都市の人びとが撮る、〈わたしにとっての星条旗〉

最新プロジェクト『FREE FILM: USA』で、ロードトリップへと繰り出した写真家のニール・ハマモト。彼は行く先々で地元の人びとにカメラを手渡し、星条旗をテーマに写真を撮影してもらった。

by Ryan White; translated by Nozomi Otaki
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13 July 2020, 11:32am

Affleck, Barbara

2019年、ニューヨークを拠点とするアーティストのニール・ハマモトは、暗室付きのエアストリームで米国中を回るロードトリップへと出発した。ドキュメンタリー写真家ロバート・フランクの『The Americans』から「インスピレーションを得た」わけではない、と彼自身はいうが、この独創性に富んだ作品は、ニールの「ロードトリップ、白黒写真、米国、本」への情熱を理解する基盤となるものを提示している。

しかし、フランクの作品との大きな違いは、ニールが旅行中に出会った人びとに直接カメラを手渡したことだ。そうやって完成した『FREE FILM: USA』は、米国を切り取るヴィジュアルダイアリーのような唯一無二の作品となった。

かつてテック業界で造形デザインに従事していたニールにとって、今回のプロジェクトは新たな挑戦だった。「僕はいろんな媒体を使って作品をつくるコンセプチュアルアーティストだけど、たいていは彫刻をつくっていて、木、金属、他の既成部品を使うことが多い。僕のアート実践が発展、進化しても、テック業界での経験は作品のインスピレーション源であり続けている」。幼いころから写真に興味があったという彼は(「母も祖父も趣味の写真に熱中していた」)、ずっと撮影と現像を繰り返してきた。

NYを出発した彼のチームが向かったのは、デトロイト、ミルウォーキー、ミネアポリス、カンザスシティ、デンバー、ソルトレイクシティ、ポートランド、サンフランシスコ、ロサンゼルス、サンディエゴ、サンタフェ、オースティン、ニューオーリンズ、バーミンガム、アッシュビル、ボルチモア、フィラデルフィア。ニールは各都市に数日間滞在して35ミリフィルムを誰かに手渡し、現像を終えてから次の都市へと移動した。フィルムの数は合計で約1600本にのぼる。

4ヶ月間の旅を終えたニールが、この意欲的なプロジェクトについて語ってくれた。

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Baltimore, Nolan Ryan Trowe

──彫刻から写真まで幅広い分野で活動していますが、作品の分野に共通点や、互いに影響を与え合っている部分はありますか?

『FREE FILM』のプロジェクトに没頭するまでは、写真は僕にとって他の分野に影響することのない唯一の分野だった。確かに写真は僕がアートの世界に入るきっかけとなった媒体で、自己表現がれっきとしたキャリアになる可能性を秘めているけれど、それが僕のキャリアを導いてくれるとは考えたこともなかった。写真は今も個人的な趣味でもあるし、いわば僕の〈ゲートウェイドラッグ〉なんだ。これからもひとりのアーティストとして、自分の生活や旅を記録するための手段としての写真を追求していきたいと思ってる。

──初めて他の写真家の作品から衝撃を受けたのはいつですか?

リー・フリードランダーの写真を見て笑いが込み上げてきたことかな。その笑いが僕の警戒心を緩め、写真をもっと親しみやすいものに変えてくれたと思う。ニューヨークという大きなテーマや舞台を掲げながらも、どこにいたって創作はできる、ということをフリードランダーは教えてくれた。

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Detroit, Nick Sudduth

──『FREE FILM: USA』が実現したきっかけと、本作の背景にある意図を教えてください。

そもそものきっかけは、友達のソニーからの電話だった。当時ソニーはWallplay Networksという企業と提携して、キャナル・ストリートの偽造品販売店だったスペースでアートプログラミングの展示をしていた。僕はというと、いつもみたいにスタジオでなんとかアイデアを絞り出そうと必死になっていた。そこから自分のアーティストとしての個人的な活動と共鳴する、本当にオリジナルだと思えるものを創りたい、という目標が自分のなかで形づくられていった気がする。

当時ショーン・アンドリュー・ジャクソンが僕の暗室の外で個人的な作品を創っていて、彼のプリンターとしての技術を提供してもらうことにした。それから一緒に彫刻作品をつくっていたフリー・スノウ・トリップは有能な建築家/エンジニアだから、彼の力を借りれば素晴らしいインテリアデザインを生み出せると思ったんだ。

──この本のインスピレーション源のひとつは、ロバート・フランクの晩年の作品ですよね。彼が亡くなったのは、おそらくこのプロジェクトの真っ最中ではないでしょうか。ロバートの作品、特に『The Americans』から得た教訓はありますか?

確かに僕自身、ロバート・フランクと『The Americans』がインスピレーション源とは言っているけれど、言葉選びを間違えてしまったかもしれないと後悔してる。もちろん、彼の作品や写真集がアイデアとして頭に浮かんできたのは事実だけど、今回の『FREE FILM』は決して彼の作品のレプリカでもオマージュでもない。

僕にとってのインスピレーションっていうのは、ただこのプロジェクトについて説明する相手に、少しだけ背景を説明するヒントを与えるようなもの。『The Americans』は知名度が高い作品だから、ロードトリップ、白黒写真、米国、本という『FREE FILM』の大まかなアイデアを理解してもらうのに役立つと思ったんだ。もっと正確に言うなら、『FREE FILM』はフランクの『The Americans』に似ているけれど、主な着想源になったのは、報道写真に純粋な民主主義を取り戻したい、という僕の願いだった。

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Kansas City, Bryan Atkinson

──ここで撮ったら面白いだろうなという場所があって、出発前からルートを決めていたんですか? それとも即興で直感的に決めていったんでしょうか。

出発したのは2019年8月5日の午後2時で、そのときは日にち、時間、ロケーションのかなり厳密なスケジュールがあった。いつかこのプロジェクトにもう一度挑戦するなら、もっと直感的にルートを決めてもいいと思うけど、そうすると参加者が減ったり、写真のクオリティが下がってしまうリスクもある。

ひとつの都市につき100本のフィルムを用意していたけれど、もっと注目が集まれば追加で何度か発注をかけるつもりだった。最初のミーティングでチームにそう伝えて、誰からも自分にとっての〈(星条旗の)赤・白・青〉を共有する機会を奪わないようにするには、どれくらいの規模で撮影したらいいか話し合った。残念ながら希望者全員にフィルムを渡すことは叶わなかったけれど、僕の人生はまだまだこれからだよ。

──〈米国〉というテーマはアートの世界において多種多様な媒体で取り上げられていますが、特に多いのが写真です。広大な国土以外に、このテーマが引き合いに出されることが多い理由は何だと思いますか?

すごくいい質問だね! 4ヶ月間バックミラーに映る米国を眺めていたら、ピューリツァー賞に値する詩的な何かを語れると思うかもしれないけど、実際はそんなことはない。この国の鼓動を確かめたくて指先で首に触れてみたけれど、どんなに強く押しても何も聴こえてこない、そんな感じ。僕が気づいた最もかすかな〈音〉は、米国的な教義がいかに偽善に満ちているかということかもしれない。でも、僕がわかったのは、自分の指は何かに耳を傾ける最良のツールとはいえない、ということだけ。

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Milwaukee, Giovanni Martinez

──今回のような意欲的なプロジェクトをはじめ、さまざまな媒体を使って活動していますが、なぜ今回は写真という媒体を選び、しかも被写体にカメラを手渡したんでしょうか?

写真を撮るとき、最大の制約になるのは自分自身の肉体なんだ。例えば車を運転し、そこからさらにハイキングをしなければグランドキャニオンの写真は撮れない。面白いとは一体どういうことなのか、言葉の定義や実際の体験がなければ、〈面白い〉写真は撮れない。カメラ、身体、頭が同時に動き、ふさわしい時間と場所を選ばなければ、写真は撮れない。

縁もゆかりもないひとにフィルムを手渡すことで、このテーマのバランスのとれた表現が可能になるし、同時に複数の場所に存在することもできる。でも、実は多くの街で、別々の参加者からそっくりな写真を受け取った。バンパーが壊れた車の写真なんかは、フィルム5、6本分くらいはあったかもしれない。わずかな違いは、光、アングル、構図、ピントだけ。今回の写真を通して被写体の360°の視界を見ることができたし、大切なのは被写体そのものだということが証明された。

──この結果は予想通りでした? それとも計画したときは想像もつかなかった方向へと進んでいったんでしょうか?

これもいい質問だね。計画的で秩序にのっとったプロダクションマネージャー的な観点からいえば、今回の旅はものすごくスムーズだった。アーティストや写真批評家としては、才能ある写真家や類まれな写真が誕生するのは、ありふれた日常のすばらしさのおかげだということ、それからこの世界や僕たちの思考は〈良いもの〉を見ることでしか成長できない、ということを学んだ。この『FREE FILM: USA』には、才能とか並外れた素質だけが未来を決定づけるという先入観を打ち破る大きなきっかけになってほしい。

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Philadelphia, Kyra Spencer

──米国のさまざまな都市を巡ることで、個人的に得たものはありましたか? 今回のプロジェクトを、クリエイティブ面を失わずに旅をするためのちょっとした息抜きとして捉えるひとも多いかもしれませんが……。

パブリックアートプロジェクトの制作でもそれ以外の創作においても、ロードトリップの経験のあるひとなら誰でもわかってくれると思うけど、移動中の生活は忘れられない瞬間に満ちている。確かに大切な想い出やユニークな体験は自分のためになるけれど、それは何かを失うことによって初めて得られるものだと思う。

旅の6日目、僕らは強盗に遭って、ハードドライブが盗まれてしまった。15年間の感傷的な想い出は永遠に失われ、バックアップも見つからない。今でもそのことを思い出すと悲しくなるよ。古いアルバムをめくったり、高校時代のバカみたいな日記を読み返したくなるときなんかは特にね。

ときどき、なかなか思い出せない記憶があるけれど、それはカメラの存在のせいでもあると思う。その瞬間をフィルムに焼き付けるために全エネルギーを集中させるから、被写体と会話を楽しんだり、見知らぬ誰かに手を貸すチャンスを失ってしまう。そうなるくらいなら、もっと気軽に旅を楽しんだほうがいいよね。

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Portland, Jen Ritson
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Los Angeles, Gabriel Nakamura
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Salt Lake City, Tori Duhaime
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Santa Fe, Sage Paisner
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Self-portrait
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Credits


All images courtesy Neil Hamamoto

This article originally appeared on i-D UK.

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