i-D × ARTSTHREAD 学生デザイン・コンペティション ウィメンズウェア部門の受賞者を発表
選ばれたのは、ヒッチコック監督の『めまい』に着想を得たフロレンティーナのコレクション。
アルフレッド・ヒッチコック監督の1958年の傑作ノワールスリラー『めまい』には、主人公が陰うつで恐ろしい夢の中へと陥っていくシーンがある。
不吉な音楽が流れるなか、高所恐怖症と友人の妻への恋慕は、彼を美しい悪夢へと誘う。そのなかで、彼は天井から舞い落ちる花びらに包み込まれると、何もない虚空へと投げ出される……。
24歳のフロレンティーナ・ライトナーの卒業制作の着想源となったのが、この鮮烈で美しい世界だ。本作は、i-DとARTSTHREADがタッグを組んだ、Gucci協賛による史上初のオンラインコンペティション〈Global Design Graduate Show〉のウィメンズウェア部門の最優秀作品に輝いた。

フロレンティーナのコレクション〈Midnight Vertigo〉は、ヒッチコック監督やルイーズ・ブルジョワなどのアーティストも魅入られた〈高さへの恐怖〉が引き起こす、目がくらみ、頭がくらくらする感覚をテーマにしている。
「学生最後の年の後半は、まるで悪夢のようでした。どのニュースも出来事も非現実的に感じられて、不安になるばかりで。でも、そんな暗い時代にも美しさを見出すことはできます」とフロレンティーナは語る。
「今回のコレクションではそんな美しさをとらえ、パーソナルな作品をつくりたかったんです」

本コレクションには、ビビッドカラーやらせん模様、歪んだ花柄など、だまし絵のようなアイテムが並ぶ。
ソフトフォーカスや鮮やかな色彩でめまいの恐怖を表現したヒッチコックの手法にヒントを得て、『不思議の国のアリス』を連想させるオーバーサイズのファーコートにはピンクと黒の渦巻きが描かれ、他にもフリルが大胆にあしらわれた幾何学模様のトレンチ、細かなチェックパターンから鮮やかなフラワープリントがのぞくドレスなどがそろう。
ほとんどのルックには、目が回りそうな複雑な模様のタイツ、彫刻的なハイヒール、液化した物質を固めたようなサングラスが合わせられている。どれも20世紀美術の母、ペギー・グッゲンハイムのコレクションに加わりそうなアイテムだ。

ずっとクリエイティブ業界を目指してきたというフロレンティーナは、14歳でウィーン市立モーデシューレ・ヘッツェンドルフ校に入学し、ニットウェアを専攻。その後アントワープに引っ越し、アントワープ王立芸術アカデミーで学位を取得する。
ファッションデザイン修士課程の卒業コレクションとして、フロレンティーナはありのままの自分を表現する作品を目指したという。
「学生最後のコレクションだったので、お客さんの注目を集めたいとか商品化についてはあまり考えずに、100%私らしい作品をつくりたかったんです」

フロレンティーナは、古くなった衣服を新たなアイテムに生まれ変わらせるアップサイクルを通して、サステイナブルなコレクションをつくることを重視した。材料に使用したのはデッドストックのファブリックだ。
「ヴィンテージショップの古着をたくさん使ってそこから自分のパターンを切り出し、ジッパーやボタンなども使いました」とフロレンティーナは説明する。
「パンデミックを生きるファッション学生としては、既存の素材を使って工夫を凝らすことを考えていく必要があります」

「新型コロナウイルスによっていろんなものがキャンセルになった年に、今回のような機会は、私を含め業界でキャリアを始めようとしている若いクリエイターにとって、とても意義深いものです」とフロレンティーナは、今回の受賞や、自身のデザインや情熱を世界に向けて披露したことについて語る。
卒業後はDries van Noteのウィメンズウェアチームに加わったが、彼女は近い将来、自身のブランドを立ち上げることを目標にしている。
〈Global Design Graduate〉の全応募作はこちらから。
