ストーリーテリングの否定:Valentino 2020春夏
ピエールパオロ・ピッチョーリは、煌びやかな80年代の社交界のスタイルに、セクシーな肌見せ、扇情的なスリットを組み合わせた。
Photography Mitchell Sams
ファッションショーは、常にストーリーを語らなければいけないのだろうか。近年のショーは、反響を呼ぶコラボレーション、大掛かりなセット、社会政治的なメッセージなど、話題性を求められることが多い。しかし、今シーズンのValentinoは、服そのものが語り手になりうることを証明した。
「ストーリーテリングにまつわる議論は好きではありません」とピエールパオロ・ピッチョーリはショーの前に語った。「僕はストーリーテラーではない。クリストバル・バレンシアガやサンローラン、チャールズ・ジェームス、メインボッチャーなどのデザイナーたちも、毎シーズン物語を語っていたわけではないとは思うんです」

このような考えによって、ピッチョーリのアイテムは、デザインそのものが自ずと語るようになった。このイタリア人デザイナーの今シーズンのコレクションは、すらっとしたフィッシュテールスカートや背中のあいたセクシーなタイトドレスなど、流線形の洗練されたデザインが印象的。過去数シーズンでValentinoのランウェイを飾ったドラマチックなオペラケープや、全身を覆うフェザードレスにも引けを取らない、豪華絢爛なアイテムが登場した。
しかし、それから月日は流れ、巷には似たようなデザインが溢れ返っている。フェザー、凝った装飾、10メートルを超えるトレーンは、Instagramを席巻しようと企てるあらゆるデザイナーの名刺のようなもので、陳腐なアイテムになりつつある。ピッチョーリは、優秀なデザイナーとして次の段階に進むことを決めた。

「たしかにビッグサイズのオペラケープやフェザーは、一世を風靡しました。でも、私たちは今の時代に寄り添わなければいけません」と彼は説明する。「ファッションは、金魚と同じくらい短い記憶しか持っていない。次のシーズンでは元に戻っているかもしれませんが、わかりません。計画は立てたくないので」
オープニングモデルを務めたステラ・テナントは、ピンクのボウタイブラウスに真っ赤なオペラグローブ、黒のサテンのフィッシュテールドレスという出で立ちで登場した。このルックは、コレクション全体のトーンを象徴していた。トム・ウルフが小説『虚栄の篝火』で「社交的なX線」と表現した富裕層の細身の女性を思わせる、どこか80年代的な色使い。ポルカドット、大きなサテンのリボン、フラメンコの衣装のようなフリル……。微妙な曲をすべて排した、ベストアルバムのようなコレクションだった。
ボリューミーなパワードレスの時代をもっとも明確に表していたのは、マーガレット・サッチャーとリン・ワイアットを足して2で割ったような、アイスケーキを彷彿とさせるヘアスタイルだろう。ヘアスプレーの売上がまた増加するかもしれない。
とはいえ、今回のValentinoのショーは、ただ過去を参照しただけではない。太ももまで露わになった扇情的なスリット、透けたオーガンザからのぞく肌は、ともすればおばあちゃん的なアイテムにセクシーさや若々しさを添えていた。
80年代を知らない世代にとっては、今の時代精神を反映した、彼らがまさに求めていたコレクションといえるだろう。













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Photography Mitchell Sams
This article originally appeared on i-D UK.