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2017年、ストリートウェアに何が起こったか?

ラグジュアリーなコラボから億万長者の投資家まで。ストリートウェアが2017年いちばん儲かるファッションになった。その理由とストリートウェアの未来を、デザイナーやジャーナリストらが語り明かす。

by Douglas Greenwood; translated by Aya Takatsu
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dec 26 2017, 4:47am

Photography Henry Gorse

This article was originally published by i-D UK.

ここ5年ほど、ストリートウェアの有名ブランド — Supreme、Stüssy、A Bathing ApeそしてPalace — が、メインストリームのファッション界に危険なほど接近してきている。かつてそうだったように、スケーターだけを虜にするのではない。それは今や、ハリウッドのトップスターやファッショニスタ、学生やシティボーイらがこぞって追い求める、アツい投資対象なのだ。

なぜ、そしてどんなふうにこうした現象が起きたのか? それを理解すべく、今回、その業界で多大な影響力を持つ人物たち — デザイナー、ジャーナリスト、クリエイティヴ・コンサルタント — に、今年起こったストリートウェアの世界的ブレイクについて話を聞いた。

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ストリートウェアの歴史はごく新しい。アメリカの東および西海岸で80~90年代に勃興したスケート、サーフィン、そしてヒップホップシーンに端を発するのだ。それは、そこに関与している人間にとって、デザイナーブランドが作り出すハイストリート向け大量生産品から遠く隔たった、ファッション界の外側に存在するムーヴメントの一翼を担っていることの象徴であり、名誉の証だった。はざまにある、グレーな存在だったのだ。

「俺にとって、それはDIYを意味していた」。このファッション的サブカルチャーをどう定義するかということについて、ストリートウェアサイト「Highsnobiety」の創設者であるデヴィッド・フィッシャーはそう言った。「それはスケートであり、音楽であり、グラフィックTシャツでもある。若者とそこに付随する感覚……何か世界的なものなんだ!」 フォトグラファー、そしてStüssyのクリエイティヴ・コンサルタントでもあるライアン・ウィルムズは、その定義は非常にあいまいなものだ(そしてずっとそうだった)と話す。そしてむしろ、ストリートウェアのルーツは、その草創期に関わった人たちにあると言うのだった。つまり、マーク・ゴンザレスやバスキア、ショーン・ステューシーやマルコム・マクラーレンといった人物だ。

Balenciaga Triple S

しかし2017年、ストリートウェア愛好家は、快楽的で流行に敏感になった。3,000円のビーニーを買おうとしているかと思えば、BALENCIAGAの10万円もするトリプルSトレーナーを欲しがったりという具合に。今や少年のクリスマスプレゼント候補には、スマホやゲームの新製品に代わり、その両親が死ぬほど働かなければ手に入れられないような洋服が並んでいる。現代の男性のファッションは様変わりし、ある意味では、Supremeのようなブランドが主導権を握るようになったのだ。

「8~10歳くらいの子が、SupremeのバッグにOff-Whiteのパーカー、Gucciのスニーカーを身に着けてソーホーで買い物をしていても、それほど驚かない時代になった」と、イギリスのストリートウェアブランドALCHの創設者でありデザイナーでもあるアレックス・ハケットは話す。「ワイルドだ」とライアンも賛同する。「ゼロ年代の初頭なら、Supremeのキャップを被っているやつを見たら、声をかけただろうね。共通の友だちがいるかもしれないから。今ではNBA選手からミュージシャンにいたるまで、誰もが“ストリートウェア”を着ているから、相当露出のあるものになった。ずっと大きなビジネスになったんだ」

もちろん大きなビジネスだ。今年、Supremeの創設者であるジェームス・ジェビアは、そのビジネスの50%を、なんと5億ドルで投資会社カーライル・グループに売却。そしてこのストリートウェアブランド全体に10億ドルの価値があることを公表したのだった。こうした数字がユースカルチャーにおけるブランドの位置づけやインディさに影響することを恐れ、彼が公表を渋ったという噂もあった。しかしブランドの成り立ちよりもその見た目のほうが重要となった昨今、新たなストリートウェア愛好家がそれを気にするとも思えない。

「俺たちが有名スニーカーブランドの枠外でHighsnobietyを始めたとき、シーンの結びつきはまったくなかった。当時なら、(カーライル・グループへの売却は)命取りになっただろうね」とデヴィッドは話す。「今は状況が違う。そういうブランドの裏側に大きな企業がいるという事実に、キッズたちはそれほど注意を払わない。商品が良ければ、それでいいのさ。その裏に誰がいようとね」

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Stüssyのライアンも同意し、彼もまた「シーンの裏側で何が起こっているかなんて、多くの人は気にしていないと思う」と言う。「どこで作られているか、子どもの労働者が作ったものなのか、どれくらい耐久性があるのか、それによって誰が儲かるのか。そんなことは気にしないんだ。俺たちが生きているのは、非常に無自覚な消費主義社会なんだよ」

デヴィッドとライアンの見方は、新旧のSupremeファンを区別するものではない。彼らは同じようにメインストリームへと躍り出たストリートウェアの象徴であり、その過程でブランドに魅了された人々なのだ。かつてスケーターに向けたアンダーグラウンドなファッションシーンだったものは、涙が出そうなくらい大量の金を持った10代の少年たちであふれ返り、彼らの多くはブランドの歴史などほとんど理解していない。身に着けているバッジが、おどけた調子でそれを表すのみだ。

しかし、新しいファンが増えたことにより、業界にがむしゃらに入っていこうとする若きアーティストやデザイナーのスピリットに火がついた。Photoshopのような手軽なデザインツールが手に入ったこと、またInstagramのように無料でプロモーションできる場ができたことで、“自宅デザイナー”がここ5年間で急増したのである。「ストリートウェアは無から生まれた」。そこに自身の跡を残そうとする次世代クリエイターの能力を称賛しつつ、デヴィッドはそう話す。「特別な訓練や業界での経験などない、自分の好きなことをやっているやつらから。彼らはシーンをフレッシュでエキサイティングなものにし続けてくれる」

アレックスの見方は違う。自宅ブランドの増加は、ストリートウェアの未来を潜在的に損なう兆しだと考えているのだ。「この分野で成功を収めるのに、学位やファッション界での輝かしいキャリアが必ずしも必要でないというのは素晴らしいことだけど、そうした“ブランド”の多くは、長く続けようとか、品質とか、オリジナリティといった部分に本当のこだわりを持っていない」と、彼女は話す。「むしろ商業的な意味での生存能力があるかっていうことが前面に出ていて、クリエイティヴィティは後回しになっている」

アレックスはもっともな点をついている。今ほど、ストリートウェアが売れる分野になったことはない。そして、現代のシーンに参入してきた夢想家たちは、すくなくとも部分的にはこうした状況に動かされている。工房はモノ作りの知識なくして服を作れないが、ストリートウェアはもっと民主的な業界だ。グラフィックを描き、それをGildanのTシャツに貼りつけるのは、誰だってできるのだから。

Louis Vuitton autumn/winter 17. Photography Mitchell Sams.

デザイナーたちがラグジュアリーな立ち位置からストリートウェアに襲いかかるというのは、なにも今に始まったことではない。しかし若者が主導するストリートウェアを名高い工房に持ち込むことで生まれる、異なる視点からの真面目なクロスオーバーという域にはまだ到達していなかった。だが、2017年1月19日、パリで行われたLouis Vuittonの2017メンズ秋冬コレクションのショーで、私たちはついにそれを目撃することとなる。キム・ジョーンズによる美しい落ち感のあるデザインの中で、テーラードのパンツ、ドレスシャツやバルキーなニットには、アイコニックなSupremeのロゴが配されていたのだ。最初は、あのよく見るSupremeレッドをしたクロスボディバッグに、同ブランドのロゴがつけられたものが登場。次はロックスター風のラゲージセットで、そのあとに現れたデニムのベースボールシャツには、Louis Vuittonのモノグラムに、ジェームス・ジェビアのフューチュラ・ヘヴィ・オブリークのフォントを使ったロゴがミックスして配されていたのだ。ファッション界は呆然と動きを止めた。かつてそのモノグラムプリントをパクったことで、Louis Vuittonから停止通告書まで出されたやんちゃなスケートブランドが、今度はそのブランドとコラボレーションしている。しかもパリで発表される作品の中で。当然ながら、ファンは熱狂的にそれを欲しがった。手の届きそうなものならなんでも買いたいという人たちが、世界中のポップアップストアの外に長蛇の列を作ったのだ。大人気のボックスロゴTシャツは、希望小売価格が450ドル。Supremeで通常売られているものの10倍の値段だ。しかしこれが転売市場では4,500ドルにまで跳ね上がったのだった。

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「ミレニアルやジェネレーションZの人たちにとって、ストリートウェアは自然なファッションなんだ。だからラグジュアリーブランドは、ストリートウェアブランドよりもっと、つながりを必要としているのさ」。この一風変わったコラボレーションから、どちらが多くの利益を得るか尋ねたとき、デヴィッドはそう答えた。こうした姿勢は、パーカーやスニーカーを取り入れることで、そのアイテムをより大衆向けの着やすいものにしようとしているGucciやBALENCIAGAなどのメゾンにも広がっていると彼は考えている。「まさに今成功しているブランドは、ストリートウェアに足を踏み入れたからこそ、現在の地位を勝ち得ているんだ」

ロシアのスケート界、そしてクラブシーンのキングであるゴーシャ・ラブチンスキーは、おそらく同世代の若きストリートウェア・デザイナーの中でもっとも多くの作品を手がけている。90年代ファッションからKappaやFilaといったブランドを引っ張ってくることで知られる彼にとって、伝説的なイギリスのブランドBurberryとのコラボレーションは、キム・ジョーンズやジェームス・ジェビアとのそれより少しだけあり得るものだったかもしれない。かつて結びつけられていた反社会的行動を言外に含むということで、同ブランドのコレクションから消えたクラシックなBurberryのチェック柄は、ゴーシャが謳歌するユースカルチャーにとっては適切なものだったようだ。それでも、彼のコレクションは、ゴーシャのそれというより、Burberryの価格帯になっている。ランウェイを見て買いたいと熱望するキッズたちに手が届く値段ではなさそうだ。

だがおそらく、ゴーシャこそ私たちを新しい時代へ誘う存在なのだ。そのデザインは、ベーシックなグラフィックTシャツと、ラグジュアリーな基準におけるよりフォーマルな装いをつないでいる。彼なら、ドーヴァー・ストリート・マーケットで3,000円のサッカーマフラーと75,000円のブレザーを同じラックに掛けても、同じように顧客の購買欲をそそることができるだろう。彼にそれができるなら、SupremeやPalaceにだってできるはずだ。

つまり、今年見られたデザイナーのクロスオーバーや、よそ者の闖入、そして億万長者の投資家の参画は、ストリートウェアの滅びゆくサブカルチャー的要素にとどめをさしたのだろうか? 古くからのファンはもういなくなるのだろうか? 「それが永遠に消えてしまうかはわからない」。アレックスは簡潔にそう言った。「ストリートウェアの美しさは、現代の社会状況にハマるよう、随時それを受け入れ、アップデートしていくことにあるから」

「SupremeやOff-White、それにPalaceがもし明日いっせいに潰れても、快適な上にクールなグラフィックまでついている服やTシャツを誰もが欲しがるっていう事実は変わらない」とデヴィッドは付け加えた。「次の新しいブランドが出てくるというだけだよ!」

Supremeに関しては、Rolexとのコラボレーションを視野に入れているという噂がもうすでに出ている。おそらく2018年は、ストリートウェアの有益でラグジュアリーな部分を理解できる年になるだろう。もしくは、この流行は終息し、アンダーグラウンドで再びそのサブカルチャー性が花ひらくかもしれない。ライアンはもうすでに今、後者が見られると考えている。「最後的に、ストリートウェアはそれを作り、それを着て暮らす人たちのコミュニティに属するようになる。物事を牽引し、推し進めてきたのはそういう人たちだからさ……大衆を刺激し、影響を与えるのは」と彼は言う。「無名になっていくだけだよ」

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