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新しい価値を見出すために:いま最も注目されるキュレーター、アマンダ・シュミット interview

ユートピアを求め、翻弄される東京に喝。センサーシップやジェンダーにも斬り込む展覧会「Defacement」とは?

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jul 26 2018, 10:49am

Photography Houmi Sakata

ニューヨークを拠点に活動を行うアマンダ・シュミットをゲストキュレーターに迎えた「Defacement」展が、GINZA SIX内のアートギャラリー、THE CLUBにて開催されている。シュミットは、これまで40以上もの展覧会、映像上映、パフォーマンス・イベントを手がけ、2017年には『TIME』誌の「Person of the Year」のひとりにも選ばれるなど、いまもっとも注目される社会派キュレーターだ。

展覧会タイトルの「Defacement」は、「破壊」「汚す」を意味する言葉であり、本展は、そういったマイナス行為がいかにして、新たな価値創造へとつながっていくのかを再考するもの。また、ゲルハルト・リヒターやアンディ・ウォーホルといった現代アートの巨匠の作品が展示されることでも話題を呼んでいる。

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本展を開催するにあたって、THE CLUBのマネージングディレクター・山下有佳子は、「こういったセンセーショナルかつメッセージ性の強い展覧会を、国際的かつラグジュアリーなGINZA SIXという場で行うことで、日本のアート・オーディエンスに新しい風を吹き込めたら」と語る。

また、7月15日には、関連イベントとして「アートフィルム特別上映」が行われ、現在開催中の回顧展が話題のゴードン・マッタ=クラークによる作品も上映された。シュミットは、このようなセンセーショナルな展覧会を行う先に、どのようなムーブメントを狙ったのか? その意図に迫った。

——ゲルハルト・リヒターの「オーバー・ペインテッド・フォト」シリーズや、R・H・キートマンの「スクラッチド・ポラロイド」シリーズを始め、どの出品作家も「Defacement」要素を強く感じました。また、同時に、映画手法でいう「オーバーラップ」(=前画面の余韻を薄く残しながら、徐々に次の画面へ移行する手法。二重写し)のような印象も受けます。これまでにも「Untitled, Cinema」のディレクション、そして今回も関連イベントとしてアートフィルム上映を行っていますが、このように映像的な展覧会を構成する意図について、お聞かせください。

ご指摘のとおり、「オーバーラップ」のようなレイヤーの重なりは意識して作品を選んでいます。まず、1950〜70年代、ヨーロッパで活動したグループ「シチュアシオニスト・インターナショナル」の元メンバー、ジャクリーン・デ・ヨングとそのパートナーが立ち上げた「Detournement(デトゥルヌマン)」の理念自体が「あるものを上書きすること」という意味を含んでいます。本展のステイトメントでは「破壊」という表現を用いていますが、「Detournement」をさらに発展させ、写真の上から落書きをしたり、上書きする行為によって、新しいものをつくったり、新しい価値を見出していくことが「Defacement」なのです。その行為はたしかに、オーバーラップの手法と近いものなのだと思います。

ただ本展では、破壊や汚すことによって、作品の主題そのものを変えていく、アイコンが持つ意味やアイデア、評価を変えていくように、単なるフィジカル的/視覚的な上書き行為ではない、それ以上の意味を持つ作品が集まっています。それはリヒターやキートマンのほか、神聖とされている「母」のアイコンの意味を大きく変えたレイ・レーダレやベティー・トンプキンズの作品にもいえるでしょう。

Gerhard Richter, 8.Juni 16 (2), 2016,oil on photograph, 16.8 × 12.5 cm (c)Gerhard Richter, Courtesy WAKO WORKS OF ART

——上映されたアートフィルムのなかには、都市計画に反発しつづけたゴードン・マッタ=クラークによる作品もありましたね。まさに今日の東京はオリンピックを2020年に控え、大規模な都市計画、工事が進められています。本展は、鑑賞者にどう作用してほしいと考えますか?

とてもいい質問ですね。私が尊敬していて、著書なども愛読しているケラー・イースターリングというアメリカの建築家を例にお話させてください。彼女は建築家として知られていますが、私自身は、ケラーにキュレーターとしての一面も感じています。なぜならば、彼女は著書『Subtraction』において、ユートピアを求める都市計画を批判しているからです。都市計画とは、ビルやオブジェクトを動かして変えていくことですが、それは「Defacement」を含んでいますし、本展の企画意図とつなげられるのではないでしょうか。都市計画、建築、リノベーションにも当てはまるように、あるものを壊し、新たなスペースを足したり、新たな価値を見出していくことの背景には、工事や取り壊しなどの破壊行為が存在しますよね。

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シチュアシオニストの中心メンバー、アスガー・ヨルンは、「新しい未来への道を拓くためには過去を犠牲にしなくてはいけない」という言葉を残しています。これは、私が本展と特別上映イベントを企画するうえで根幹となった言葉であり、今回ゴードン・マッタ=クラークの作品を取り上げたのも、マッタ・クラークが都市計画に対して、常にアゲインストであったからです。壊す能力は、新しさへ再投資する能力でもあるのです。

——なるほど。現在進行形の芸術史の反省を下地に、状況の再構築/新しい価値の発見を目指して、作品を選んだと。

例えば、ルーカス・エージュミアンは、女性のヌードが描かれた青い絵画を本展に出品しています。その制作プロセスは独特なもので、すでにあった絵画を洗濯することで作品を再構築し、それをエージュミアンによる新たな絵画としています。元となった絵画の値段は高騰するいっぽうで、エージュミアンは新進気鋭の作家であり、また、洗濯という一種の破壊行為によって、その芸術的価値を下げるという再構築を試みています。それはまさに「Defacement」を体現しているのではないでしょうか。それはフィジカルのみならず、コンセプト含め、抜本的にモノとしての意味を変えていくものです。

Photography Jun Koike

——シチュアシオニストが目指した「状況の構築」という理念は、#MeTooムーブメントにおいても有効な気がします。ベティー・トンプキンズをピックアップしたのは、暗にフェミニズムに働きかけることも意識してのことでしょうか?

まず、私自身がフェミニストです。トンプキンズはフェミニズム・アートを代表する美術家のひとりであり、私が敬愛してやまない女性です。今回トンプキンズの作品を選んだのは、たしかにフェミニズムの意識も働いているかもしれません。また今年に入って、さらにトンプキンズへのリスペクトが強くなったのです。それは、本展にも出品している「Women Words」シリーズのひとつである「Apologia」という作品がきっかけで、トンプキンズはこの作品を通じて、「アート業界における女性の不在」「アート市場において女性が軽視されてきたこと」を示すと同時に、それについて語られてこなかったこと、照らされてこなかったことを訴えています。私は、この作品に強く心を動かされました。

「アート市場において女性が軽視されてきたこと」について具体的にお話させていただくと、男性と女性で作品の値段を比べたとき、その差は明らかです。全体的に見て、男性の作品に比べて女性の作品につけられる値段はまだまだ低い。例えば、テート・モダンやナショナルギャラリーなどの世界的な美術館が女性作家の作品をコレクションとして集めだしたのは、実はたった30年前なのです。

Betty Tompkins Women Words (Raphael #4) 2018 Acrylic on paper 11.25 x 7.75 inches Courtesy of the artist and P.P.O.W, New York

トンプキンズの「Apologia」のテーマとなったのは、ナショナル・ギャラリーが、アルテミジア・ジェンテレスキという女性画家の作品を約350万ドルで買ったというニュースです。実は、時を同じくして、ゲティー美術館がアルテミジアの父、オラツィオ・ジェンテレスキの作品を約3000万ドルで買ったのです。アート業界において二人は同等の位置づけをされているにも関わらず、アルテミジアの作品の値段は、オラツィオの作品の約9分の1。その差は、男性か女性か、ただそれだけのことでした。

トンプキンズは、このようなこれまで語られてこなかった歴史にスポットライトを当て、見過ごされてきた事実を引き出す作品を発表し、芸術史においていかに女性が軽視されてきたか、女性に対する価値がまだまだ十分ではないのではないかという問題提起を行っています。やはり実際に、アート業界の賃金の差においても、男性と女性で離れていますし。

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——では最後に、社会派キュレーターとして、「アート」だからこそできることとは何だと思いますか? 今後のビジョンをお聞かせください。

人間がアートと対峙するとき、人間の内面や深層的な部分にアートがどう作用するのか、ということを常に念頭においています。本展でピックアップしたオールドリッチが、自身の作品を「Untitled(Mirror)」と題したように、まさにアートを見るということは、同時に自分自身を見つめることでもあると思うのです。「Untitled(Mirror)」は、鑑賞者がアートを見るなかで生まれた疑問や意見、感じ取ったことに対して、再び問いを投げかけるような作品です。つまり、アートが「鏡」として鑑賞者の内面を映し出し、そして変化させていくわけです。

オールドリッチの絵画のほかにも、アートフィルムやパフォーマンスなど、多種多様な表現があるわけですが、私が展覧会を企画し、作品を選んでいくときにもっとも考えるのは、その作品を通じて、鑑賞者にとって内面での発見があるかどうかです。他者との関わりや社会において、アートが個々人を照らす「鏡」の役割を担うことを願っています。

Defacement
会期:2018年7月14日(土)~8月31日(金)
時間:11 : 00 〜 19 : 00
会場:THE CLUB (GINZA SIX 6F 銀座 蔦屋書店内)
休廊日:2018年8月27日(月)
URL:http://theclub.tokyo

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