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track-by-track:the hatch 『Opaque Age』

台風よりも激しくやってきたthe hatch待望のファーストアルバム『Opaque Age』。嵐のあとにはどんな景色が残るのか。その景色を色濃くするため、『Opaque Age』収録の全14曲を紐解く。

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sep 5 2018, 1:16pm

2018年最大勢力で上陸した台風21号。奇しくもそんな台風荒れ狂った本日9月5日、札幌在住ポストハードコア、オルタナティブバンド、the hatchのファーストアルバム『Opaque Age』がリリースされた。情報化・多様化されたいまの時代を象徴して名つけたという『Opaque Age(不透明な時代)』には、ハードコア、ジャズ、オルタナティブ、ファンク、ソウル、R&B、アンビエント、ハウスなどの音楽要素と「誰しもが自分の中に持っている」という不気味さが混沌と、しかし精密で繊細に混ざり合っている。

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「つかみどころもなくてはっきりしないからこそ、(各々が)自分の中にあるもので完結させようとすることが、この作品のひとつの正解かなと思いますね」と山田みどりが語るように、「暗くて湿った部屋で見た夢」のような言葉にしがたい情景を本アルバムを通して感じてみてほしい。2014年からの4年間で制作された14曲について、ボーカル&トロンボーンの山田みどり、ギターの良研、ベースのザキヤマ、ドラムのりゅーさんに聞いた。

メンバーから言付かったことがひとつ。

「部屋の電気を消して爆音で聞け!」

1. 「hi (overture)」
みどり:映画音楽が好きで、映画のサウンドトラックに入ってる1曲目をイメージしました。「恐竜は俺の祖先」のMVと冒頭のアレンジはすべて撮り直しで、オルガンとトロンボーンとエレピが入ってます。後半でドドンドドンドドンって音が入るんですけど、風呂の壁叩いてるような音を入れたくて色々作ったんですけど良くなくて、結局本当に風呂叩いたんですよ(笑)。あと、音圧をあげすぎない音源にしたかったので、聴いてる人が音量を少し上げるよう冒頭に小さな音の部分を作ってます。

2. 「恐竜は俺の祖先」
みどり:いまのthe hatchを体現している曲ですね。恐竜の赤ちゃんが泣いているイメージでハードコアっぽさを抜いてセッションで作ったんですけど、いまの曲作りやスタンスができてこのアルバム制作のきっかけになりました。音楽全体がリズムに乗ってるところがいままでと違ったところですね。あと、東京からBOMBORIっていうバンドと対バンするタイミングで「俺たちも負けない曲作るぞ」って思って作った曲です。

3. 「グレープフルーツ」
良研:ダークヒーローっすね。
みどり:作った後にみんなでバイオハザードのエンディングみたいだねって(笑)
ザキヤマ:ミラジョボ感あるよね。
みどり:僕らの曲ってだいたい退廃的ですけど、このアルバムで一番聴きやすいと思います。リズムはフットワークというジャンルを意識した曲で、アルバム制作前に新しいことをしたいと思って聴きやすさや踊りやすさを重視して作りました。

4. 「Stumina Jackson」
良研:これこそゴッサム・シティ(『バッドマン』に登場する架空の都市)だと思うけどねえ。
みどり:そうだね。良研が作ったリフに俺が肉づけしていきました。これ最初『SATAN V.A』っていう1曲1分のハードコアバンドのコンピに参加して「悪魔」をテーマに作った曲なんですけど、アルバムではアレンジを変えてます。後半のりゅーさんのバスドラはシングルペダルでやってて、ロバート・グラスパーの「スメルズ・ライク・ティーン・スピリット」のカバーから着想を得てます。
りゅーさん:足がつります(笑)
みどり:りゅーさんとザキヤマのリズム隊の結束力が高まってすごい成長した曲ですね。

5. 「REALGOLD」
みどり:ハードコアというより工場の機械音のイメージですね。最初ブラストのリズムを入れないアルバムにしようと思ってたんですけど、ブラストのリズムをストイックに詰めていったらハードコアっぽくなくなっていったので入れようってなりました。正確なリズムとグルーヴ、アクセントを共有してハードコアとは違う感じに聴かせようとしてます。後半はディス・ヒートっていう実験的な音楽をやってたバンドをかなり意識しましたね。あと、音が分離するようこの曲だけベースとギターの音を左右に振ってます。

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6. 「VEGITA&THE FAMILLYSTONE」
みどり:タイトルはスライ&ザ・ファミリー・ストーンというファンクバンドが好きでそこから取ってきてます。リズム構成はネオソウルとかR&B、音はインドっぽい怪しげな音程を意識してます。サイケデリックな方向に持っていきたくて。元の曲はもっと続いてもっとサイケデリックになるんですよ。そのイントロなんですけどのいまのバンドのグルーヴに合ってないなと思って短くしました。

7. 「SEXGAME」
みどり:これはthe hatchの中でも遅い曲なんですけど、かなり苦労した曲かなあ。
良研:パートごとにノリが変わるし、オーバーソウル部分もあるし……。
みどり:冒頭の部分のリフがギター3拍子に対してドラムとベースが4拍子で定番のポリリズムの形なんですけど、ボーカルは3拍子でも4拍子でもない謎な曲なんですよ。去年の11月くらいにできた曲なんですけど、その頃ギックリ腰になったり良研とやってた別のバンドも解散して悩むことが多い時期に作ってて、この曲が完成することだけが自分の支えでした。だから、すげえ思い入れがありますね。歌詞も、背伸びして溜め込んだ言葉やイマジネーションは気がついたら体から出てっちゃうからいま出した方がいいよってことを歌ってます。俺も良研も悩んでる時期で、自分と良研に向けた曲ですね。

8. 「phantom poop」
みどり:これは歌詞をかなり真面目に書きました。みんな音楽やってるのに人間関係とかシーンとか売れる売れないとか音楽以外のこと考えすぎなんだよ、俺は音楽やりたいだけなのにと思って書きましたね。中盤の「I just wanna be poop」ってところのベースが好きっすね。「なんかかっこいいベースライン弾いて」って言ってザキヤマが作ってきたベースラインがすげえ良かった。
ザキヤマ:元ネタはゲリラ・トスだね。そのとき変に浮きだってるベースが好きで聴いてて、ハイフレット(ネックの根っこに近いところ)までいってやろうと思って作りました。
みどり:あと、2000Blackというブロークンビーツのレベールのアーティストをよく聴いててこういうのやりたいなと思って。
りゅーさん:最終的にはブロークンビーツっぽくなくて生々しくなったよね(笑)
みどり:この曲こそダンスミュージック要素あるよね。
りゅーさん:ハウスとかね。
みどり:BPM(テンポ)もハウスと同じくらいだしね。あとはドラムを一番聴いてほしいですね。6時間かけて音作りしました。全曲リズム隊とギターをバラバラで録ったんですけど、この曲は良研がめちゃくちゃ(リズムが)ズレてるんですよ(笑)。でもそれがいいねってなってそのままにしてます。

9. 「CONSTANTINE」
みどり:これは次の「Mme. Bonjasky」の前振りみたいな感じで暗いアンビエントっぽい曲が1曲ほしいねっていって、りゅーさんと俺で作りました。「Mme. Bonjasky」の始まり方が唐突なので、突然ガツンと来る前に沈黙を味わう時間を作りたかったんですよね。不安定な音と反復してる一定の音が並行した曲にしたくて。これりゅーさんの自前の和太鼓使ってるんですよ。
りゅーさん:置戸太鼓っていうんですけど縄でチューニングしてるんですよ。和太鼓っぽくしないように緑に言われたのでそれが難しかったですね。抽象的なリズムだけど、一応譜面はあります。

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10.「Mme. Bonjasky」
みどり:THE THANKSという好きなバンドがいて、彼らの企画に誘われたときに勢いで作った曲ですね。未開の部族に女をさらわれた海賊たちが部族と戦いにいくイメージでセッションして作りました。この頃、フェミ・クティをよく聴いてたのでアフロっぽいです。これは良研のギターソロが最高ですね。あれ本当は4コーラスなのに間違って5コーラスあって、コーラス毎にフレーズのスケール(音階)が変わるんですよ。だから先が読めない。
良研:最初は巨大なタコが船を襲ってきて最終的にドラゴンが出てきて勇者たちが勝って帰還するんすよ。
全員:それどこ?!(笑)
みどり:これレコーディングの時にハマんねえなっていって2人で上裸になって水浴びて。
ザキヤマ:1〜2テイク終わって、良研が「服脱いだらギターの音は変わります」って言って録ったら本当に変わったんです(笑)
良研:ボディに熱が伝わるんすよ。
みどり:服脱ぐとマジで変わります。

11.「生まれる前のセクシーキング」
良研:これだけ一発録りなんすよ。
みどり:体が覚えやすい曲ですね。最初の方は、6拍子のリフを4回やって1ブロック、その間に2拍、そのあとリフが3回、2回、1回と減っていくだけなんでわりと簡単なんですよ。
良研:オーバーソウルしてたらいける曲っすね。
みどり:これは唯一、最初にりゅーさんがドラム叩いてくれたものに音をつけていった曲です。みんなにフレーズを任せたのでメンバーの一人ひとりの良さが詰まってますね。タイトルは良研に「なんかウケること言って」って言ってつけました。曲名変えようかなとも思ったんですけど、そういう昔の照れ隠しでふざけてつけたものを残しておくのもファーストかなって。

12. 「Higuchicutter
みどり:これは一番古くて4年前、俺が入ってわりとすぐできた曲ですね。良研が先輩に殴られてそれにムカついてつくった曲です。
良研:札幌のめっちゃ好きだったバンドとの対バンで「バンドやめたほうがいいよ」と言われて蹴り入れられて、なまら大ごとになったんすよ。
みどり:作ったきっかけはそれだけど、歌詞も全部書き換えました。ハードコアだけどハッチっぽさがあるのが好きですね。
良研:この曲が一番集中しなきゃいけないんですよ。
みどり:単純に曲としてけっこう難しくて。
良研:この曲ライブで上手くいったらオラオラオラ~ってなるよね。
みどり:最後に良研のシャウトが入ってるんですけど「シャウトは鮮度だからね」って言って全裸で録ってます。

13. 「SPACE BATTLE NIGGA」
みどり:アルバム制作を決めてから最初にできた曲で、「恐竜は俺の祖先」で作った基盤が確かなものになりました。BPMを下げて音数を減らすことを意図してかなりロジカルに作ってます。展開毎にガラッと雰囲気も違って、最初は5拍子6拍子の変拍子で演奏するのに苦労しましたね。その中でひとつのグルーブを固めることで勢いだけじゃないハッチっぽさを意識した曲です。the hatchとしての正解をつかんだ曲ですね。

14. 「2 AM」
みどり:陰鬱な夜のイメージですね。雷雨の後の静かだけど暗いというか、嫌な夢見て起きた深夜みたいな。
ザキヤマ:レイトショーで『セブン』観ちゃったみたいな感覚の曲。
みどり:これは良研がコード進行持ってきたのを俺がリズム変えて他のパートを作りました。
良研:最初エジプトだったけど緑がキーボード入れて夜の感じになったんすよねえ。
みどり:砂漠っぽいフレーズだったのをサンプリングでいじって夜系にしました。宅録するのが好きで、延長線上でできた曲ですね。だいたい曲とか歌詞ができるのが夜中なんですけど、ひとつそういう一貫性があったらいいなと思ってアルバムできてからタイトルをつけました。

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