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それでも描き続ける:五木田智央 インタビュー

現在、東京オペラシティアートギャラリーで開催されている個展『PEEKABOO』。瞬く間に日本を代表する画家として世界的に知られるようになった五木田智央だが、そんな自身の状況や評価に対して本人はどのように感じているのだろうか?

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jun 15 2018, 9:22am

Portrait by Kazumi Asamura Hayashi

「さて、次は何しよう!」そんな言葉とともに喜びと少々の不安が混じった表情を見せたのは、現在、東京オペラシティアートギャラリーで開催されている個展『PEEKABOO』のオープニングを終えた五木田智央だ。幼い頃からずっと絵を描き続けてきた彼のキャリアは、注文にしたがってイメージを生み出すグラフィックデザイナーから始まった。その当初から高い評価を得ていたにもかかわらず、生粋の画家である彼はそこで留まることはできなかった。その後、彼は自らの表現を追求すべく、グラフィックデザイナーとして仕事を受けるのをやめて自身の作品制作に注力するようになっていった。大好きなプロレスや古い雑誌のイメージからインスピレーションを得て描かれる、独創性とユーモアに溢れたダイナミックな画風は、その後さらに磨きがかかっていくことになる。

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そうして純粋な絵描きとしての道を歩み始めた彼の大きな転換となったのが、2005年にNYで開催されたグループ展『Stranger Town』への参加だった。閉塞的なアートシーンに疑問を抱いたキュレーターのテイラー・マッキメンズは、音楽やイラストなど様々なジャンルで活躍するアーティストを一堂に集めた展示を企画していた。そんな目論見によって、はるばる海を越えて、五木田に白羽の矢が立ったのだった。こうして契機を得た彼が、国内外での個展の開催を経て、日本を代表する画家となるまでには、大して時間もかからなかった。すでに2014年にDIC川村記念美術館での初個展を開催した彼だが、今回の個展はひとつの総仕上げとも言えるほどに、ダイナミックな内容となっている。

そんな五木田に、今回の個展を開催した経緯と印象、創作の苦悩やこれからの予定を訊いた。

Untitled, 2014-15 mixed media Collection of Anzai Art Office, Inc. © Tomoo Gokita Courtesy of Taka Ishii Gallery photo: Kenji Takahashi

──いわゆる画家として認識されるまではどのような流れだったんでしょうか?

五木田 :グラフィックデザインとイラストレーションみたいなことをずっとやってたのよ。高校生のときにいきなりポスターとか、英会話の挿絵の仕事なんかを頼まれたときからかな。おふくろがジャズバーをやってるからそこにいろんな編集者とかが来てね、「うちの息子は絵が上手いのよ」なんつってね。さかのぼれば、小学生のときから雑誌に投稿して小さく載せてもらったり、中学生くらいのときはプロレス雑誌とか、女性誌の投稿ページとかに載ったりね。プロレス雑誌は載ると図書券をくれたから、それで味しめちゃってさ。賞金稼ぎだよね。

──プロレスのモチーフが多いのは?

五木田 :あんまり出さないほうがいいかなと思うけど、どうしても拭い去れないものなんでね。今のは興味ないけど、子どもの頃はのめり込んでたからね。長くなるから簡単に話すけど、プロレスは純粋なスポーツじゃないんだよ。演劇的な要素もあるし。だから日常生活にもつながってくるんだけど、「ちょっと今日は相手の技を受けとくかな」とか「上手く試合を成立させるか」とかね。芸術とは関係ないけど。まあ個人的には最近は技をかけられまくってますよ(笑)。

Commemorative Photo, 2017 Acrylic gouache on canvas Private collection © Tomoo Gokita Courtesy of Taka Ishii Gallery photo: Kenji Takahashi

──どういうところからインスピレーションを得ているんですか?

五木田 :だいたい古い雑誌とかかな。国はアメリカとかメキシコが多いな、内容はポルノ雑誌とか映画雑誌とかなんでも。最初から絵を描くために集めてたわけじゃなくて、旅行のときに見つけて、まとめて買ったやつ。量が多くて怪しかったのか、空港で引っかかって全部見られたりしたこともあるね。最近は友達がくれたりするよ。

──影響を受けた人は誰ですか?

五木田 :たくさんいるけどね……日本人でいえば小学生のときに横尾忠則さんを好きになって、中学生のときに湯村輝彦さんを好きになって、高校生のときには大竹伸朗さん。高校半ばにはアメリカのニューペインティング・ブームも終わりかけだったけど、バスキアとかシュナーベルとかカッコいいなって。

──普段どのようなペースで描いているのですか?

五木田 :今はなんにもやってないね。短期決戦型なんで。ずっとなにか作ってる人もいるけど、オレはムリだね。バッと描いたら「ちょっと遊ばせてくれ!」って。とはいっても、別に何もしてないけど。レコード屋に行くのが唯一の趣味というか、なんにも考えないで探してるのが好きだね、今は。前は毎晩飲んでたけど、子どもができてからはあんまり出歩かないな。もう引っ越しちゃったけど、ジム・オールークとかは新宿でよく飲んでたよ、バカ話してね。

──一番最初の展示はいつになるのでしょうか?

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五木田 :それこそ洋服屋の一角とかでは結構やってたけど、ギャラリーでしっかりっていうのはNYが最初。彼らに引っ張り上げられたんですよ。2000年に出した『ランジェリー・レスリング』を見たテイラー(・マッキメンズ)がグループ展に誘ってくれてね、2005年かな。そのオープニングでたくさんの人に声かけてもらった。そのなかにビル(・ブレディ)がいて、スケボーとか乗ってるし、話してて一番気楽だったな。彼がすぐに個展をやりたいって言ってくれて、そっからだね。Mary Booneでやることになったきっかけも偶然で、KAWSの家に飾ってあるのをメアリーがたまたま見たところから始まってるんだよね。ありがたいことに彼は、オレの作品たくさん持っててくれててさ、作品をトレードしたこともあるよ。日本ではタカ・イシイギャラリーが最初だね、大きい展示だと4年前にDIC川村記念美術館で回顧展をやらせてもらったりもしたよ。だけど今回は、そのときよりも自分が展示したかった作品ばっかりになってるね。

──今回の展示はどうやって実現したのですか?

五木田 :タカ・イシイ ギャラリーの石井さんに「都内の美術館でやりたいよね」って言われて、「そうですね」なんて適当に言ってたのよ。したら決まってさ、すごい早いなって。去年のMary Booneをやってるときだから、10月とかにさ。今回は半分ぐらいは新作なんだけど、1月末から描き始めたから2ヶ月弱か。土日も休みなしでずっと作業してたよ。

Old Portrait, 2016 Acrylic gouache on canvas Yusaku Maezawa Collection © Tomoo Gokita Courtesy of Taka Ishii Gallery photo: Kenji Takahashi

──展示されている作品のなかで、抽象的な作品はどうやって描いているのですか?

五木田 :オペラシティって大きいんで、壁を埋めなきゃいけないのに足りないかもって思ってて。で、なんか簡単にいっぱい作れないかなって思ってたんだよね。したら、たまたまパレットに紙が落ちてバッてやったら「あ!」ってね。面白いし、20秒くらいでできるって。ハンコみたいなもんよ。

──スランプというか、描けなくなるときってあるんですか?

五木田 :あるよ!「困ったなあ、何描きてえかわかんなくなっちゃったよー」って独り言いってるときある。そういうときはね、オレは無理して描かない。諦めてね、呑んじゃう。いつもね、周りが盛り上がっちゃうって感じなのよ。オレはいいよー、みたいなさ。今回もさ、去年の10月にMary Booneでしょ、で今年の1月に香港、で今回のオペラシティ。スパンが短すぎていっぱいいっぱいなんだけど、まあいいかやっちゃおう、みたいな。もうちょっと時間がほしいとも思うけど、忙しいからいいのかもしれない、オレの場合。あんまり時間あってもね。

── NYで初めてしっかり展示してからここまで飛躍するまでは、すごい速度だと思います。

五木田 :おっかないよ。急にブワーって自分の考えてる以上のことが起こるんで。なんか、正直こわいね。足元すくわれないようにしなきゃ、みたいな。なんかこう、調子に乗っちゃあまずいなって。キャリアの進み方に自分がついていけてないかもしれないとは思うよ。まあでも、オレは描くだけなんだけどさ。これからやってみたいことといえば……大きい立体物はやってみたいなあ。自分の手で、大きいのを作りたい。絵にしてもさ、指示だけして誰かに手伝ってもらう人もいるけど、オレは絶対やだし、できないね。

Come Play with Me, 2018 Acrylic gouache on canvas © Tomoo Gokita Courtesy of Taka Ishii Gallery photo: Kenji Takahashi

五木田智央『PEEKABOO』
会期: 2018年4月14日(土)〜6月24日(日)
会場: 東京オペラシティ アートギャラリー
開館時間: 11:00 ─19:00(金・土は20:00まで/最終入場は閉館の30分前まで)
休館日: 月曜日(ただし4月30日は開館)

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