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“新しい目”の発見:5-knotデザイナー鬼澤瑛菜&西野岳人 interview

「旅とヴィンテージ」という明快なコンセプトを掲げる5-knotのデザインデュオ、そして夫婦でもある鬼澤瑛菜と西野岳人。2人のライフスタイルとデザインの関係に迫った。

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aug 30 2018, 5:19am

マルセル・プルーストのこんな贅沢な言葉がある。「真の発見の旅とは、新しい景色を探すことではない。新しい目で見ることなのだ」。どんな解釈をするかは人それぞれだが、駆け抜けるように過ぎていく日々の連続のなか、新しさへの欲求はどんどんとすり減ってしまうように感じることがあったとしても、それでもきっと、人は冒険心に似た情熱を内にそっと潜めているし、絶えず発見の旅をしている人には憧れの念を抱いたりするのではないだろうか。

2013年にブランドをスタートした5-knotは先日、4回目となる2019年春夏コレクションのランウェイショーを都内で行った。“海”との関わりが深いポルトガルの古都・オビドスをテーマにした2018-19年秋冬は天王洲アイルに新しく誕生した船上レストラン、キューバの首都・ハバナの“路地裏”から着想を得た今季は、モルタルが剥き出しになった原宿のビルの一室。つまり、シーズンテーマとリンクするロケーションでの発表を続けてきたのだ。

「旅とヴィンテージ」をコンセプトに掲げるデザインデュオであり、私生活をともにする夫婦でもある鬼澤瑛菜と西野岳人が、服を基軸に描く15分間の世界は、彼らが実際に赴いた旅先の映し鏡のようである。はからずも私たちの心の奥底にある“旅”への欲求を駆り立て、きっとその地にあるであろうものの残像を、ひとつまみの温かさと一緒に脳裏へ焼き付けていく。それらは「みんなが想像しているイメージとは違う、見繕っていない自然体なもの」だという。5-knotのコレクションを構成するもっとも重要なエレメントとは、“新しい目”の発見にほかならないのだ。

「2人の好きなものが一致しているからといって、それらをブランドコンセプトにしてしまうと、継続していくなかで、服に落とし込むことが苦しくなったり、固定化されてしまうときがくると思った」と、湘南にアトリエを構え、サーフィンが趣味だという2人は話す。“旅”とは、異文化に触れて、まだ見ぬそこにしかないものを体感し、何かを悟ることだ。それらが5-knotの基本となるデザインソースへと姿を変える。「夫婦なので、ブランドをやるということにお互いの人生が掛かっている部分がある。だからこそすべての過程で“楽しさ”を追求したいし、それが“旅”をコンセプトにした一番の理由なんです」。仕事とプライベートの調和という誰もが頭を悩ませる課題と、デザインにおける閉塞感からの解放を叶える答えの1つだった。「一緒にいる時間が長いからこそ、旅をすることと古着が好きだということが、自分たちのライフスタイルの一部であり、仕事に欠かせない要素となる。そうしたバランスをとることが自分たちには必要だと考えているんです」

シーズンのコンセプトは“旅先”のチョイスから始まる。学生時代に訪ねたおぼろげな記憶が残っているポルトガルに2人で行ってみたい——例えばそんな何気ない思いつきや日常の会話のなかで自然と定まっていくのだという。鬼澤は話す。「その地で過ごして全身で体感したものを、その場での会話を通してお互いのイメージを組み立てていくんです」。コレクションのディレクションは、現地でほとんど定まっていく——目でみて発見した美しいもの、自然と聴こえる聞き慣れないが高揚する音。天候、湿度、知らない匂い、あるいは立ち寄ったレストランの食事の味まで。彼らが旅先で吸収し、デザインに反映させるインスピレーションとはカテゴライズが不可能な五感で感じて心が動いたもの。言ってみれば、ガイドブックからは得られないあれこれだ。

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例えば、2017-18年秋冬のインスピレーションとなったモロッコの古都・マラケシュについて西野はこう回想する。「アフリカの地域なので乾燥した空気があって、細い道は入り組み、赤土の壁は異様に高い。そんな埃っぽい路地の奥の奥にあるリヤドという宿に向かってスーツケースを転がしていく。それでいて道中に客引きも多いんですね。僕たちにとって初めて行くアフリカの国なので“不安”があったんですが、リヤドの扉を開けた瞬間に匂いと湿度がガラッと変わった。木と噴水がある美しい中庭から流れてくる涼しい空気と、ヒンヤリした風を感じたその瞬間に抱いた“安心感”は、本当に印象的でした」

そうした経験のなかでも、視界に入ってくる景色に潜む色や柄はデザインに反映されるもっとも大きな要素だ。しかし「その地に行かないと絶対に分からない部分を拾い上げたいという気持ちがあります」と鬼澤は話す。彼らに安心感を感じさせたモロッコの“匂い”は、ショー会場に撒かれたザクロとスパイスを混ぜた香りによって記憶のなかから東京に再現されたし、2019年春夏のショー会場の汗が滲むほどの室温と潮騒の音は、キューバを想起せざるをえなかった——これもまた5-knotがランウェイショーを行う理由のひとつだといえるだろう。

もう一方のコンセプトであるヴィンテージに対する関心の根源は、2人のキャリアに関わっている。文化服装学院の同級生で、もともと古着好きでもあったという彼らは、卒業後の進路を別にしたものの共にカンパニーデザイナーとして仕事を始めた。その数年後、西野がチーフを務めていたANNA SUIのライセンスブランドのデザインチームに空席がでたことがきっかけで、別会社で働いていた鬼澤に声がかかったのだ。「西野は“仕事人間”な上司でしたよ(笑)」「そうですね。当時は自分のブランドをやろうということもまったく考えていませんでしたから」。5年間にわたって仕事を共にするなかで、2人はさまざまな“視点”を共有してきた。例えば、アナ・スイ本人とNYのフリーマーケットやヴィンテージショップに出向き、彼女のファッションショーを何度も体験し、デザインアプローチを間近でみてきた。「当然アウトプットは違うかたちになりますが、ヴィンテージにおける着眼点、色と柄の落とし込み方といったことの影響は受けています」

服のディテールや色合いといった要素はもとより、“ヴィンテージ”の香りをもっとも感じるのは徹底したオリジナルテキスタイルだ。「魅力的な生地のなかには、機織り機が存在していないという理由で今では織ることのできないものがたくさんあります。日本各地の機屋(はたや)さんに行って古い資料を見せていただいて、参考にすることはかなり多いですね」と西野。「“ものづくり”に関してはすべて日本でやっているので、日本の産地も可能な限り色々なところに行くようにしているんです。それもまた旅といえば旅ですね」

5-knotのコレクションには、コントラストの美学がある。例えば、ショーのスタイリングではノスタルジックで穏やかな色彩に、エナメルやラバーといった人工的でシャイニーなものやシアーな素材が組み合わさっていたりする。しかも、その組み合わせの配分が、過剰でもなく、かと言って控えめでもない。「その点は意識的にやっている部分がありますね。実は、自分たちがあまり意識していないのに旅というテーマもあってか“エスニック”や“ボヘミアン”というイメージを持っているとの声が少なからずあるんです」。その土地が持つ特有のニュアンス、古着から着想されたディテールがそうさせるのだろうが「そういうムードが強すぎるのは僕たちのイメージとは違う。時には分かりやすい“今っぽい”素材感や、強い色彩をアクセントとして入れることが、それぞれの服だけでなく、5-knotのコレクション全体をより良い方向に仕上げるアプローチのひとつだと思います」

自身のブランドを「コンセプチュアルではない」と明言し「クリエーションという言葉はかたいものに聞こえる」と話すデザイナーの2人。“ブランドらしさ”という常套に決して縛られることなく「リアルクローズのなかに自分たちが体感したり、心を動かされた要素を自由に入れていく」ことが、5-knotの普遍のデザインプロセスだ。「アトリエだと息が詰まってしまうので、企画を短期集中で詰めようという目的で1週間ハワイで過ごしたこともあります(笑)。朝晩はサーフィンをして、その間は仕事をする。何が最善かは自分たちもまだ掴みきれていませんが、なるべくリラックスした状態をつくることは意識的に心がけています。つまり、自分たちにとって理想的なライフスタイルのかたちを常に模索しているのです」。その豊かな時間の先に、5-knotの次のコレクションがある。

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