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      photography Eisaku Sakai 13 July, 2017

      闇夜の深淵を覗くとき:写真家・山谷佑介インタビュー

      国内外で作品を発表し、高い評価を受ける写真家・山谷佑介による個展『Into the Light』が、原宿BOOKMARCで開催される。今回、新たなアプローチに挑んだ最新作について話を聞いた。

      パンクスやスケーターたちのヒリヒリとした日々をスナップ写真として収めたファースト写真集『Tsugi no yoru e』をリリース以降、音楽やファッションといったカルチャーと共鳴しながら『ground』などコンテポラリーな写真表現を追求し、アートシーンにも通用するコンセプチュアルな作品を発表してきた写真家・山谷佑介。しかし、最新作となる『Into the Light』では、そうした作品群からは異色とも言える「家」をモチーフにした作品を発表した。

      「今回のシリーズは、自分でもまだよくわからないところがあって。写真を撮りたいという衝動はあったし、コンセプトもしっかりとあって、完成したヴィジュアルにも納得してる。自分の中では今までの作品と地続きにあるんだけど、新しい扉を開けた感じもある。コンセプトやかっこいいヴィジュアル以前のところで、自分の中から必然的に生み出された作品だと思うんです」

      そう語られる本作では、赤外線カメラが使用され、闇夜に佇む家々をピンクとグリーンの異様な配色で照らし出している。一方で、彼が撮影してきたこれまでの写真は、モノクロによるスナップ写真の印象が強く、ガレージパンクのような強烈さを感じるシーン選びとエッジの効いたシャープな黒色が特徴だ。そんなイメージとは異なる表現を選んだきっかけは何だったのだろうか。

      「家庭を持ったことは大きいですね。いろんな人がいて良いと思うんだけど、おれは『子どもはオールオッケー、全員好き!』ということでもなかったし、『彼女大好き、ラブ!』ってタイプでもなくて(笑)。自分の中では"愛"という感情がけっこう抜け落ちている。たまに逃げ出したくなったりね。そういうところで、突然、家庭を持つことになって『普通の家庭ってなんだろう?』と。それが今のリアルな感覚だった」

      人間が住処とする家という空間は、他人にとって足を踏み入れることのできないパーソナルな領域だ。そして、そうした空間を"覗き込む"ために選んだのが、赤外線カメラだった。過去には"盗撮"のために用いられてきた歴史のあるものだ。壁を介して中を見透かすことは決してできないが、だからこそ見てみたい。そんな欲求に突き動かされ、彼は真夜中の住宅街へと踏み込んでいったのだった。

      「知らない人が暮らす場所で、真夜中にカメラを構えて撮るって、すごくおっかないことをやっているんですよね。深夜の2、3時でも家の電気はけっこう点いているし、不意に外に人がいる。だから、アドレナリンが出て、手に汗をかいたり、すごく緊張したりして」

      「おっかない」とは、家の中を覗き込んでいると同時に、家の中からこちらを覗き込まれているかもしれないという恐怖感だ。そうした見る/見られるという視線は、作品を制作するうえで強く感じたことだったと山谷は言う。

      「壁の奥にいる人との無言のコミニュケーションですよ。いや、誰もいないかもしれないんだけど(笑)。撮るという肉体的な行為と撮りたいという精神がこんなにもリンクしていることは、自分が写真を撮ってきた中では全然なかった。それは自分がいままで感じていた写真を撮るという行為の次にあるものだと思えたんです」

      山谷の過去の作品には、若者が道頓堀に飛び込んでいく瞬間を収めた写真がある。そのように、目の前で起きている出来事に対して反射的にシャッターを押すことは、まさにスナップ写真ならではといえるが、今回のアプローチでは、暗く、孤独の中、もの言わぬ家に対してシャッターを切っていった。「自分はスナップ写真から出発した人間だから、そのときどきに遊んできた場所で見たことから感じたものを写真に収めます。結局、遊んでいるなかで自分がぶつかったところにテーマがある」。そう語る彼は、撮影中に感じた"恐怖感"と近い感覚が、現代の社会を取り巻く状況にもあるのだと話す。

      「人類の歴史の中で、これほどまでに他人のことを簡単に覗き込めるようになったのは初めてでしょ? SNSは多くの人の日常の一部にありますよね。世界ではテロが増えて、日本でもいろんな法案が通っていく中で、権力だけではなく、一般市民同士による監視社会に近づいているように思うんです。それって人が持つ潜在意識を変えてしまうものじゃない? そういう怖さみたいなものは、時代に関わる自分の感覚に近かったのかもしれない」

      写真について語るとき、彼は過去から現在そして未来までをも、極めて冷静な視点から分析し、自らの立ち位置を明確に捉える。それは、同時代に向けられた鋭く解像度の高いまなざしと共に、森山大道、中平卓馬、荒木経惟など70年代に金字塔を打ち立てた、モノクロスナップ写真の名手たちをはじめとした写真史への深い造詣に裏打ちされているものだ。だからこそ、今回の作品で彼は新たなアプローチへと歩みを進めることができた。

      「ひとつの表現方法をずっと続けるのは性に合ってないし、自分のスタイルはずっとブレずにやってきた。それに、以前ほどクラブやライブハウスに行かなくなったし、自然な変化だと思っています。だから、自分の人生を投企し続ける。そのために"生きる"ってことに真摯にぶつかっていきたい。そこには、いろんな選択肢があるはずだから、ひとつひとつの作品の表層がまったく違う形になってもいい。最終的に俯瞰して見たところで、この人生を通して言いたかったことがわかるような写真であればいいと思ってる。だから、これからも臆せずやり続けようと思っています」

      <展示情報>
      「Into the Light」
      会期:2017年7月14日(金)〜18日(火)12:00〜19:00
      会場:BOOKMARC
      住所:東京都渋谷区神宮前4-26-14

      <写真集情報>
      『Into the Light』
      出版社:T&M Projects
      2017年7月刊行/限定1000部

      Credits

      Text Eisaku Sakai

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      Topics:photography, interview, exhibition, yusuke yamatani, into the light, bookmarc, culture

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